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「お父さん、仁人さん……潰れたき、もう飲まさんとって」
「ははは、まだまだ若い!!」
「いや、お父さんたちが強すぎるだけ」
食事を食べながらゆっくりと飲んでいた仁人さんは、父に返杯を教えられながら飲んでいた。途中から父のペースに飲まれてペースが速まり、そして二時間ほどで潰れてしまった。これは父が悪い。潰すまで飲むか?普通。
「さすがに庇えんわぁ、お母さん」
母も、庇えないと笑いながら父に仁人さんをお布団まで運ぶように言いつけ、私は片づけに入った。明日、二日酔いにならないといいけど、と思う。
「そうや、奏。出会いとかいろいろ、教えてや」
いつものように聞いてくる母、戻ってきた父もそれに便乗して仁人さんとのなれそめを言わされる。
「最初は、図書館で困っちょったがを助けてもらったが。本が取れんかったところを、仁人さんが取ってくれて……」
図書館での出会い、そこから曖昧に濁しながら、大まかなことを話した。友達がいないみたいな印象を与えるようなところは全部省いた。
「出会いがベタやねぇ。でもお母さん、そういうの好きで」
「俺も、お母さんと出会ったときのことを思い出すわ」
甘いねぇ、なんて言いながら出会いを二人でニコニコと聞いてくれて、話す分には困らなかった。私もお酒が入っていた分、少し喋りやすかったのもある。
「仁人君は大学何年ぞね」
「四年生かな。だから順調に行けば、来年の春に卒業よ」
「あら、じゃあ一年しか被らんがかね。寂しいねぇ、そら」
そう言われて、気づかされた。たしかに、仁人さんが四回生であることは理解しているし、今年いっぱいしか一緒に学校に通えないのも、わかっている。でもそれは自分でわかっているのとわからされるのでは理解度が違う。唐突に、当たり前のように理解していたことは、どこかニセモノの現実だと捉えていたことを理解させられた。私はどこか、来年の春には仁人さんが卒業してしまうのを現実だと受け止めていなかった。
「そういえば、お母さんは仁人さんのこと、知っちょったがやね」
「まぁねぇ、大好きなドラマやバラエティー番組にはよう出ちゅうわ。ほんまにすごい子で、仁人君」
「私、テレビ全然見やぁせんかったき、知らんくてよ。今度見てみるわ」
「あら、お母さん秘蔵のドラマ録画集、見せちゃるわ」
母も父もテレビが好きで、よく二人でテレビのチャンネル争いをしているようだが、もっぱら母は録画して溜めてから見るのが好きなようだ。仁人さんの出ているドラマはほぼ網羅しているそう。
「うん、見せて」
悲しくなる気持ちを隠すように、母に仁人さんのことを知っていた理由を聞かせてもらおうと話を振る。ちなみにこの時点で父はテレビを見ていたので、こちらの会話は聞いていない。
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