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結構長く、テレビを見ながら会話に参戦する父と、飲みながら話す母とでしゃべったと思う。父はテレビを見ているから聞いていないのかと思ったら、一応は聞いていたらしい。そんな家族三人で話をしていたら、夜も遅くなってきたので、解散することになった。
「お母さん、私、仁人さんの様子見よるわ。お父さんにしこたま飲まされちゅうき、たぶん夜中起きたらしんどい」
「うん、そうやねぇ」
「水だけ置いちょってリビングでお母さん秘蔵のドラマでも見せてもらうわ」
「わかった。ほいたらお母さんが水は置いちょっちゃおうき、アンタは上から毛布でも持ってきい。夜は冷えるで」
「うん、ありがとう」
母が水を置いて行ったあと、二人に夜のあいさつをした。私は上から毛布を下ろしてきて、上に上がっていった二人と入れ替わりで下に降りる。そしてテレビをつけた。
「うわ、すごいあるやん……」
教えてくれていたドラマを録画している機器を読み込ませて、テレビに表示させると一つひとつ、全て丁寧に焼いているらしく、一気に見ることができるようになっていた。
「これってもしかして仁人さんが初主演の……?」
以前調べた仁人さんの経歴で見かけた、初主演のドラマのタイトル。それが、今見ている機器に入っているようだ。仁人さんはお仕事のことはあまり言わないから、聞いてはいけないのかな、と思ってはいた。でも実は気になっていたので、母が仁人さんのファン……、ファン?でよかったと思う。だって、母が集めていたおかげで見られるから。


「す、すごい!!」
最初に見た仁人さん初主演のドラマは、恋愛ドラマだった。三角関係を見事に演じており、最初は仁人さんのやっている役の男性がヒロインとくっつくのかと思えば、まさかのくっつかない。後で調べてみると、二人の男性のうち、どちらの男性とくっつくのかは最後までわからないように作っていたらしく、最後を見ないとわからない、それが面白い、と評判だったようだ。しかも、仁人さんの演技は最後の最後まで見抜けない、繊細であり、大胆さを感じられるのに、丁寧な演技だとそこから人気が急上昇したようだった。仁人さんの役とヒロインはくっつかなかったけど、その二人でくっついてほしかった、という声も多くコメントに見られたので改めて、そう思わせるだけの力があるってすごいと感じた。いったん、休憩を挟もうと、客間で寝ている仁人さんの様子を見たら、水は飲んだようでボトルの水が減っていたので、一時的に起きていたことはわかった。でも全然起きる気配がないので、そっと襖を閉めてまたリビングに戻った。
「うわぁ、泣ける……」
すでに夜中の三時。ズビズビと鼻をすする音がリビングに響いた。二つ目に見たものは泣ける映画だった。病気で亡くなってしまう役の仁人さん。つい感情移入してしまってボロ泣きしたのは言うまでもない。
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