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「というか、お母さん……。なんで映画まで……。網羅しすぎでしょ」
鼻声になった自分の声が一人のリビングに響いた。母の仁人さん愛がすごい。ドラマだけかと思ったら仁人さんが出ているバラエティー番組や映画まで録画で残しているようで、もはやコアなファン。でも、見てみたいと思っていたから、母には感謝だ。
「ふふっ、なに、これ!!」
映画の次に入っていたバラエティー番組は、年末特番の某お笑い系で、どうやらその年の年始に放送された特別ドラマの番宣で出演していたようだった。さっきまで泣いていたのに、今度はケラケラと笑い転げる羽目になり、改めて仁人さんの演技力のすごさを知った。
「これ、も……、すごい……。ミステリーで最後の最後にわかる黒幕なんて、絶対予想できない」
演技力を高く評価されている、実力派、と評判があるのも頷ける。どんな役にでもなり切ってしまう仁人さん。普段はクールな人ととしてストイックな演技にかける思いとかをネットのインタビュー記事が掲載されていたりする。バラエティー番組を見ても思ったけど、演技をする以外で笑ったところが少ない、仁人さん。私と話すときは笑顔も多いけど、控えめな笑顔で、思いっきり笑ったところは見たことがない。
「うわぁ、こんなの、あこがれるよ……」
そのミステリーは、最後まで味方で悪ではないと思わせておいて、最後に裏切る黒の親玉だった。最後のシーンの悪人として街中に平然と溶け込むその姿は本当に悪人だとはわからない。そしてクライマックスで迎えた、一緒に今まで行動していた刑事との対峙。
『お前が、お前が……、そんな、嘘だろう!?』
『はは、楽しかったよ。俺の掌の上で踊る姿を見るのは』
『頼む、俺は、お前を……撃ちたくないっ!!』
『撃てばいい、その手にあるもので』
『近づくな、頼む、近づかないでくれ!!』
拳銃を構える刑事に余裕の表情で近づいて、その拳銃の引き金を向かい合った状態で優しくつかんで、そっと照準を自分の心臓にあわせる。
『ほら、撃て。お前の望んだ、悪の滅びる瞬間だ』
笑った顔はひどく綺麗で。そのままパンっと発砲音が聞こえ、画面は暗転し、映画は終わった。後でわかったことだけど、この映画の続編を望む声が多くあり、鋭意製作中と公式サイトがアナウンスしていることからいつか、続編が出る予定らしい。
「か、かっこいい……」
残念ながらエンドロールまでは録画されていなかったが、これはブルーレイディスクを買いたくなる、そう思ってしまうような作品だった。まだドキドキしている、心臓が。
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