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「まさか、そんな・・・」
「いや、だがしかし・・・」
朝、女子生徒用の制服を着用し、半年で伸びた髪の毛をアークライト家の使用人さんに綺麗にスタイリングしてもらって登校した。しかも主様にエスコートされて。主様が私の名を呼んだことで、すでに私が従者だったノア・オルブライトだということは知れている。最初は同姓同名と思われていたようだが、顔立ちがあまりにも同じ、ということとイザベル様やカーティス様、ランドルフ様と面識があることから本人と断定された。
「まぁ、ノア!!よく似合っているわ!!」
「お褒めいただき、光栄にございます」
「もう、堅苦しいのはやめましょう?同じ立場よ」
「で、すが・・・」
「順に、慣れていきましょう?」
「はい」
イザベル様に主様から引き渡された私は、彼女からいろいろなルールを聞いた。従者時代に知っていたことよりも細かい女性のルールに目を剥きかけたのは秘密だ。
「ねぇ、ノア。キースとは両想いになったのよね?」
「えっと、その私のようなものが・・・、本当に未だに信じられないくらいです」
「よかったわ、キースの家の条件は知っていたから、無理やりなんてことになってたらどうしようかと思ったの」
そのとおりです・・・。とは言えず、苦笑いを溢す。
「さて、もうノアは既婚者だからこの辺りのルールはいらないけど・・・、口調はできる限り直した方がいいわ。さすがに従者時代の口調では舐められちゃう。もうあなたは、アークライト次期公爵夫人なのだから」
「は、はい・・・」
主様の隣に立つ妻であるという実感がわかず、どうすればいいのかわからない。その不安を感じ取ってか、イザベル様は、ふんわりと笑って励ましてくださる。
「男よりも女の社交場は戦争だけど、ノアなら大丈夫。キースがノアを危険な目には遭わせないし、ノアのコネクションはさっき見せつけたからね。もしも喧嘩を売ってくるなら、ノアに何かあれば、彼らが出てくることは承知の上で挑んでくるわ」
思ったよりもさばさばした話し方をするイザベル様に驚きはしたが、すぐにそれは慣れた。様々なことを教えてもらい、いざ、振り分けられた教室に入ると、ヒソヒソとした噂話で持ち切りだった。


自分で言うのもなんだが、ノア・オルブライトという従者の青年は人気だった。何をしても褒められるし、人から認められた存在だった。だけど今は違う。従者の私じゃない、ただのノア・オルブライト。
嘘つきな、ノア・オルブライトしかここにはいない。実家が原因とはいえ、それを知ってる人間はここにいない。知らない人からすれば、騙されたと思うわけだ。
「ノア、背筋を伸ばすのよ」
「はい、イザベル様」
こっそりと耳打ちされた言葉に、もう一度、背筋を伸ばし直す。今、私は従者としてではなく主様の婚約者としているのだと頭に叩き込んで。
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