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1話 アルル・ジョーカー
……だって、ねえ?
しおりを挟む「あの、受付嬢さん」
「……出過ぎた忠告でしたね。分かりました、それでは―――」
「いえ、そうでなく。罰則は?」
「罰則?」
何のことかと訊き返すリオンさんに、私は盗んだ硬貨を指差して見せます。
「……ああ! ふふ、そうでしたねえ」
リオンさんはどこか嬉しそうに表情筋を緩めると、手元の書類の束から一枚抜き出しました。
依頼書です。
馬車を停める広場の景観を保持するため、しばらくの間定期的に清掃を行ってほしい、という旨の記載があります。
「これを今回の件に対する罰則とします。無事に完遂できたのなら、報酬から登録料を差し引き、正式な冒険者として認めましょう」
「どうも」
私は依頼書を受け取り、神妙な態度で剣士以下三名さんに頭を下げました。
「お誘いどうも。しかし私はまだ冒険者の見習いでして。こちらの依頼を優先しなくてはならないのです」
「ああ、そう……。じゃあいいや、別の奴誘うから」
すっかり興味を無くした調子で別れを告げて、クランさんとそのパーティーは酒場の方へと去っていきました。
その後、私は順当に事を運びました。
リオンさんから依頼についての簡単な説明をしてもらい、依頼書を片手にそそくさとギルドをあとにします。
単身依頼書が示す場所へ。
「……」
去り際、先のパーティーがまた別の新米冒険者に声を掛けているのを見て、
「……だって、ねえ?」
独りきりなのをいいことに、つい苦笑いしてしまいました。
新しい自分になろうと決意して、こんなところまで来て、冒険者になって……。
いきなり怪物と戦って怪我でもしてしまったら、最悪の事態に陥ったら、もうそこまでではありませんか。
要は、ビビってしまったのです、怪物退治という聞き慣れないワードに。
団体行動という苦行に。
怪物怖い。
団体行動難しい。
ならば一人でやるしかありません。
何事も経験を積んでから。
「そのために冒険者になったんだから。人生、楽しまないとね」
改めて依頼書に目を通します。
これが冒険者としての第一歩になるわけで。
ひと悶着ありましたが、胸のわくわく感は収まるところを知りません。
気づけば、自然と駆け出していました。
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