スライムイーター ~捕食者を喰らう者~

謎の人

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2話 捕食者を喰らう者

対スライム戦の心得

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「だあっ!」


 気合一閃。クランさんの長剣が閃き、飛びかかってきたスライムを真っ二つに両断します。

 新米冒険者に似つかわしくないその業物は、一体どこから入手したのか。幾度振るわれようと、まるで切れ味が鈍る様子をみせません。


「やあっ!」


 リーフさんの扱う武器は、先端にルビーの宝玉が煌めく錫杖。先端を叩き付けられたスライムは、水路の石床に叩きつけられて染みと化します。

 少女の細腕から発揮されたとは到底考えられないようなパワー。煌々と光を放つ宝玉が、彼女の身体能力を底上げしていると見えます。
 魔法道具と称されるアイテムを用いた武器。お高いやつです。

 これでもう何匹目でしょうか。前衛を務めるクランさんとリーフさんは、雨霰のように飛びかかってくるスライムの軍勢をものともせず、次から次へと薙ぎ倒していきます。

 狭い通路内にもかかわらず長物を自由に振り回せるのは、二人の息がぴったり噛み合っている証拠です。


「さすがみなさん言うだけあって、腕が立ちますねえ」


 パーティーの中頃を歩く私は大変楽でした。
 ランタン片手に見取り図を確認しつつ、自分の仕事に専念できます。


「ねえ、さっきから何をしているの?」
「核を回収しているんです」


 最後尾を務めるオリビアさんが怪訝そうに私の手元を覗きこみます。

 ちょうど、前衛の活躍によってそこら中に散らばったドロップアイテムを回収し終えたところです。


「これをこうして乾燥した和紙に包み、小分けにしておくと保存可能です」


 拾った核の水分を拭き取り、用意しておいた小紙に包んでバッグの中へ。


「スライムへの有効打は核への攻撃です。ここを叩けばスライムは肉体を保てなくなります。ただし、単に切り裂けばいいかというとそうでもなく」
「どういうこと?」
「スライムは水分さえあれば復活します。例えば、核を二つに叩き割った場合は」
「まさか分裂するの?」
「稀にそういう個体がいるようです。スライムの生命力はそれだけ馬鹿げています」


 故に、逐一回収しておく必要がありました。

 何せ、ここは地下水道。湖から引かれた水が私たちのすぐ横を流れており、苔むしった地面や壁、湿った空気は、たっぷりと水気を含んでいます。

 要するにここは、スライムにとっての楽園。
 それが予想できていたので、出来得る限りの準備は済ませておきました。


「こうして水気から離しておけば復活する心配もありません」
「へえ、詳しいわね」
「まあ、ひと通りは学びました。生きていくのに必要なので」


 街の美化作業は、そこに住みついたスライムの駆除から始まるといっても過言ではありません。

 どうやれば効率的に殺せるのか。
 どうやれば復活させずに済むのか。
 彼らに対し、やってはいけないことは何か。

 街中のスライムは特別に弱く数が多いので、事あるごとに捕まえてきて実験を繰り返しただけのお話。

 冒険者になる以前は、怪物なんてろくに相手にせず逃げ回ってばかりでしたから。まるで知らないことばかりで新鮮でした。

 独自の調査では限度がありますが、ギルドは怪物生態について冒険者からの話を細かくまとめ、学習書として新人へ貸し出しています。
 これも大いに役立ちました。


「おい、おしゃべりはいいけど隊列が乱れるぞ、リーダー」
「ああ、はいはい」


 気付かぬうちに先行する三人との間が少し離れていたようです。

 私たちはおしゃべりを切り上げ、隊列を組み直します。 


「ったく。スライムなんていくらいようと物の数じゃないだろ?」


 クランさんは吐き捨てるように言います。


「さあどうでしょうか、私は十匹以上の群れに遭遇したことがないので。囲まれでもしたら対処できないと思います」


 街中でそんな危機的状況に陥ることはまずありえません。

 しかし、この地下水道ではどうでしょうか。
 四方八方から大量のスライムに襲われでもしたら、ほうきを振り回す程度でどうにかできるほど甘くはないでしょう。

 やや考えを改め直します。


「パーティーを組んで正解だったのかも……」
「はん、そんなんでスライム掃除屋なんて。笑えるね」


 彼の嫌味に耐えることと引き換えですが。


「そうですか」
「……ちっ」


 もう無視しときましょうと決め込んだ矢先、露骨に舌打ちされてしまいました。

 私もう黙っていた方がいいかと思い、口を閉ざし始めた頃合いです。
 一行は分岐路に差し掛かります。

 降水時、増量した水の勢いを殺すために時折こうして大きな分かれ道が用意してあります。
 分かれた先でまた別の支流とぶつかり、街全体へ網目状に広がっていくのです。


「お、分かれ道か。ちょうどいいな」


 先頭の彼がにやりと笑いました。私も同意見です。

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