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2話 捕食者を喰らう者
病室にて
しおりを挟む散々たる結果に終わった、地下水道調査から十日あまりが過ぎた頃。
私は街の治療院を訪れていました。
ここは教会に併設された施設で、女神様に仕える神官が病人たちの治療に当たってくれます。
彩り豊かな花束を持ってのお見舞いです。
「おや。ちゃんと綺麗な顔に戻りましたね」
よく晴れた午前の爽やかな空気の中、ベッドの上で日向ぼっこしていたオリビアさんに微笑みかけます。
今朝ようやく包帯が取れたそうで。
見るも無残に崩れていた顔は、以前と変わらないくらい綺麗で知的に整っていました。
「顔だけね。まだ少し引き攣るし。元通りになるまでにはもう少しかかるって」
患者服の隙間から、未だ真っ赤に焼けたままの素肌がちらりと顔を覗かせます。
一度溶かされてしまったのです、無理ありません。
もちろん、自然治癒力のみではこうはなりません。
聖職者たる神官が扱う御業のおかげです。
〝女神の祝福〟とも称されるその力の恩恵は絶大で、魔術師の用いる魔法とはまた別の、神聖な力がもたらす奇跡、なのだとか。
ただし、願う事柄の大きさにより敬虔あらたかな信者が複数人祈りを捧げる必要があるとかで。
使いどころは難しいです。
他にも聖職者は特殊な水薬の調合にも秀でていて、冒険者の間ではパーティーメンバーに加えようと取り合いが起こるほどの人気職。
そんな方々から施された治療です、おいそれと与るものでないことは確かだったようで。
「おかげで借金まみれだわ」
「お高いですものねえ」
治療の値段を聞いてびっくり。
私の部屋の家賃と比べて桁が三つ違いました。
そんな治療を受け続けていれば、そうなるでしょう。
下手な同情はしないでおきます、命より高いものはないのですから。
いずれにせよ、何をするにもお金が必要です。
私も精神的なショックを言い訳にここしばらく冒険者家業をさぼっていましたし。
少しの間休んだ分、これからたっぷり稼がなくては。
「……やっぱり続けるのね、冒険者」
オリビアさんがぽつりと零しました。
「ええまあ、そうですね」
答えはすんなりと出ていました。
私の場合、他に道が残されていないので。
「私は……、どうかしら。魔導書もなくしちゃったし。みんなも、もういないもの……」
憎まれ口を叩こうと、彼ら四人はパーティーでした。
それぞれの目標を掲げ、強くなろうと切磋琢磨し、隣に立って同じ道を歩んだ者たち。
今はもう誰も残っていません。
彼女一人きりです。
仲間との死別、迷いが生じるのも無理はないでしょう。
「どうせすぐには動けないのなら、今答えを出さなくても良いのでは?」
「……そうかもね。そう、なのかしら……」
オリビアさんの自問自答に口を挟むことなく、私は席を立ちます。
「それでは、また来ますよ。生きていれば」
去り際にそう付け加えると、オリビアさんは一瞬だけ目を丸くし、泣きそうな顔でくすりと吹きだしました。
「あんたって、ほんと生意気な奴ね」
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