30 / 78
3話 アルルとリンネ
いっそのこと
しおりを挟む「それじゃあ、地下水道の調査の案件はまだ継続しているんですか?」
呼ばれてやって来た受付カウンターで、リオンさんからそんなお話を受けました。
あれから既に十日。とっくに別の冒険者に仕事を奪われたものと解釈していましたが……。
「うん、普通は失敗扱いになるんだけどね。今回は特別。手の空いている冒険者にはこの話を回すようにって、上から指示があったし」
「それならなおさら」
「それがねえ。説明した通り少ないんだよ、スライム討伐を快く請け負ってくれる腕利きの人って」
「はあ」
リオンさんは困り顔で愚痴を零します。
……困っている、んですよね? なんだかお花でも飛んでそうなくらい、緩んだ顔してますけど彼女。
いいことでもあったのかな?
さておき、地下水道の件です。
わざわざ中堅以上の冒険者に絞って話を通しているとのことで、要は新人には任せられない案件。
それだけ大ごとになっている上、未だ事態に収拾がついておらず、調査すべき事柄がまだ残されている、と……。
「それじゃあ、クランさんとマインさんはまだ?」
行方不明扱いだった、剣士の少年と尻尾の生えた獣人の少女のことを想います。
「それが……。実はついさっき報告があってね、剣士の子の死体が確認されたみたい。死者二名、行方不明者一名」
「んん……」
二人の無事を祈っている最中だっただけに、思わず喉を唸らせてしまいます。
「例の巨大スライムについても、いくつか目撃証言が来ているの。つまり、君たちが倒したのとは他の個体も地下水道に紛れ込んでいるみたい。ギルドもさすがに無視できなくなって、正式な調査隊を派遣せよ、との指令がでたの。アルルさん、君にも」
「そりゃあまあ、当事者ですからねえ……」
地下水道に向かったパーティーで、現状動けるのは私だけ。担ぎ出されても仕方なし、という気持ちはあります。
しかし……。
「あの、つかぬ事をお聞きしますが。どれだけ危ない目に遭ったか分かります? もう一度行けと言うのですか?」
「うん……、ぶっちゃけ、強制はできないなあ」
リオンさんに真を問うと、彼女はへにゃりと眉尻を下げ曖昧な笑みを見せました。
「ただね、一度受けたクエストはきちんと完遂させないと、君の経歴に傷がつくと思う」
「別にそれくらい構いやしないんですけどね」
名誉ある死よりも、わが身の安全が最優先。そもそも傷つくような名誉じゃないでしょう、掃除屋って。
「意地悪でごめんなさい。でもね、こうした案件は冒険者本人に決定権があるの。私からやめるよう促すことはできないんだ」
そうは言いつつ、微妙な表情が如実に語っています。危ないことは止めるように、と。
彼女は味方してくれるようです。
「つまりね、君が辞めようと思えばやめてしまっても構わないの。晴れてこのクエストを失敗してしまいました。ああ、とても残念でなりません。では、次はどういった掃除依頼にいたしますか? よりどり見どり取り揃えておりますよ?」
砕けた調子で事務的対応を取られ、私はどうしたもんかと唇をすぼませます。
「何というか、そこまで開き直られると、こう……いいのかなって」
「良いも悪いもないよ。規定に従い、失敗扱いにしただけ。そして失敗をいつまでも悔やんでいても仕方ないでしょう? 別の依頼を受けてもらえるよう、仕事を斡旋する。私は私の仕事を、君は君の役割を、それぞれやり遂げようとしている。それだけ」
「物は言いようですか」
「言ったもの勝ちとも言うじゃない?」
リオンさんはにこやかに微笑み、年下の妹を心配する姉のような眼差しで、私を見つめます。
「良いと思うよ、わざわざ危ない目に遭わなくたって。それにこういうのには専門家がいるから」
リオンさんは視線で神官の女性を指します。
「この間助けてもらったんだし、自己紹介は済んでいるかな? この人はね、冒険者となって以来数々のスライム案件を請け負ってきたベテランの冒険者なの。二つ名を〝捕食者を喰らう者〟。言ってしまえば君の先駆者ね」
「いつから私はスライム専門になったんです?」
きっとそれは、掃除屋なんて不名誉な二つ名を冠したその時に。
リオンさんは、私とスライムイーターさんを交互に見、そして提案します。
「いっそ二人でチームを組んでみたらいかがでしょう?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる