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3話 すずの鬱屈
すずの理由
しおりを挟むまりあとしぐれは、揃って肩を跳ね上げる。
屋上の入り口から、十文字鈴がこちらを見つめていた。
鋭利な刃物を思わせる眼差しがまりあとしぐれを射抜き、次いでかがみんに差し向けられる。
「君がボクをこの学校へ呼んだんだ。なのに、敵と仲良く作戦会議とはどういう了見?」
「これが仲良く見えるのかい、鈴?」
名を呼ばれ、鈴は途端に眉間に皺を寄せる。
「その名前で呼ばないで。ボクの名はクロイツ・フォン・グランド・ベル」
「ああ、ごめんよ。ベル」
「なんでそんなに拘って……。あっ」
まりあがどうでもいいことに引っかかっている間に、かがみんはするりとまりあの手から逃げ出した。
「僕は彼女たちに拷問されていたんだ。君のこと話してしまったのは仕方のないことだよ、鈴」
「そういうのはボクが君を慰める時に言うセリフ。……あと名前」
「ああ、すまない。君は本当に自分の名前が嫌いなんだね、ベル」
「知ってるでしょ、ずっと一緒にいるんだから」
気の置けないやり取りを交わしながら、かがみんは鈴のもとへ。
まるでそこが定位置と決まっているかのように、右肩の上に飛び乗って、頬ずりをした。
一人と一匹の仲睦まじいその光景が、まりあには解せない。
「どうして?」
「何が?」
「あなたも魔法少女なんでしょう?」
「魔法少女じゃない、魔術師」
「その拘りは別にいいけど……。とにかく、私たち魔法少女は、かがみんに騙されて魔女退治に利用されているんだよ? そうと知ってて、それと一緒にいるのは何故?」
まりあの疑問に、鈴はまるで咎めるような警告を返す。
「……言葉に気を付けた方がいい。ボクの家族をそれ呼ばわりしないで」
「か、家族?」
驚きを隠せないまりあに見せつけるように、鈴はかがみんの頭を優しく撫でた。
まるで羨ましくない、どころかより不信感が募る。
「でもそいつは!」
「騙されてもいい、利用されても構わない。誰よりも親身にボクを迎え入れてくれたのは、かがみんだけだから。だからこの子だけが、ボクの家族」
起伏の乏しい表情の中に、ほんのりとした親愛が垣間見えた気がした。
まりあの中で疑問がひとつ融解する。
十文字鈴は最強とまで称されるほどの力を持ちながら、何故かがみんに利用され続けているのか。
呼びつけられて素直に応じるだなんて変だ、
何か弱みを握られているのかも知れない。
もし、それを解決する手助けができたなら、あるいは……。
そんな打算的な希望観測は脆くも崩れ去った。
他ならぬ彼女自身が、望むままにかがみんに協力している。
かがみんの言う通り、付け入る隙はなかった。
「これで分かっただろう、まりあ。君に逃げ場はない。今度こそ終わりだよ」
「くっ……」
状況は最悪だ。
まりあの手元にはプロテインがない。
仮に魔法少女へ変身できたとしても、昨日の二の舞だ。
絶望とともに募る無力感が手足を重く鈍らせる。
勝てる見込みのない相手と向き合わなければいけないことが、想像を絶するほど辛く苦しいことを、まりあは今初めて知った。
身構えるまりあを睥睨し、鈴は静かに口を開いた。
「そんなに怯えなくていい。もう君とは戦わない」
「え……?」
「もう興味がないっていうこと。かがみんがもの凄く強いっていうから楽しみにしてたのに、期待外れ」
向けられる瞳に浮かぶのは、かがみんのような嫌味ではなく、純粋な失望。
吐き出されたため息の深さが、何よりも鮮烈にまりあの心を傷つけた。
「勝手に期待して、無理やり勝負して、そんな言い草……っ」
わなわなと握った拳を震わせるまりあを完全に無視して、鈴はしぐれに興味を移す。
「君は? 強いの?」
「ひぅっ、や、あのぅ……」
途端に喉を引き攣らせたしぐれは、助けを求めてまりあの制服の裾を掴む。
涙で潤ませた瞳を伏せ、必死で隠れようとする。
そんな有様を前にして、鈴はうんざりした顔で言う。
「かがみんの嘘つき」
「嘘は言ってないよ、まりあは強敵だ。けれどベル。君の方がさらに強いだけさ。最初から分かっていたことだ、まりあは君に勝てないよ。しぐれに至っては論外だ。どうやら変身もできないみたいだし」
「そうみたい」
「他の魔法少女を紹介しようか?」
「強い?」
「暇潰しにはなるんじゃないかな」
「……。うん、行こう」
鈴は、まりあたちに背を向けた。
校舎内へ入って、階段を下りていく。
最後に、まりあの方を一瞥し、
「……」
何も言うことなく、そのまま去って行った。
キーン、コーン。
授業開始のチャイムが無情に鳴り響く中、屋上に残された二人もまたしばらくの間無言で、何かしゃべる気になれなかった。
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