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22、第一騎士団、副団長という男。
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ウェイン・カテートは侯爵の長男だ。
物静かで無口な性格だが、努力家で剣の腕は優れていると聞く。
第一騎士団は第二に比べ上位貴族の七光が多いのだが、彼に関しては実力も伴っていたようだ。
歳は25と年相応で、テテのたっての希望で護衛をしていたらしい。
テテと王太子は無実の罪を公爵令息に着せた事で、現在捕らえられ取り調べを受けているのだが、テテが捕えられた時点で彼の『愛人』と呼ばれる者たちは、殆ど全員手を引いた。
どの子息も口を揃えて言った言葉。
テテが自分ではない別の誰かを愛していても構わない。
無邪気で純粋なテテは、最後にはきっと自分の元へ戻ってきてくれると。
そう信じていたのは、誰しも彼が王太子と結ばれるわけがないと思っていたから。
なのにテテは王太子と結ばれるために、王太子の婚約者を落としいれるなどという愚行に出た。
王太子と共に捕えられる姿を目の当たりにし、みんなが口々にいったのだ。
『天使なんかじゃなかった、悪い夢から覚めた。』
ここまで読んでもう見るのも嫌になり、書類を机に投げる。
「てかあれのどこが天使なんだっての」
「あー、ね。僕も無理だった。」
「だろ?あれが天使だったら俺は神様じゃん?」
「あ、うん、はいはい」
寮に帰ってまで愚痴るとは珍しい。
ハヴィはバカなので、今日あった事も夕飯食べて脳が幸せを感じたら、大体忘れるのだ。
だからこそ、本当に珍しい。
というか本当に自分のこと神様だとか思ってそうで怖い。
だってこの顔よ。
このドヤ顔、絶対思って自信たっぷり、間違いない。
オルトはうすら笑みを浮かべつつ、適当に誤魔化していた。
団長が逆取り調べを希望した時点で、午後の取調べは呆気なく無くなった。
あっちの団長は情報が上がっておらず、何も知らないと驚いていたという。
なので団長同士で午後はずっと会議していたらしい。
取り調べはなくなったと報告を受けたが、団長の姿はその後ずっと見えなかった。
なので定時でさっさと上がってきたというわけだ。
ハヴィたちの寄宿舎の部屋は大体二人部屋。
そんなに広くない部屋の両壁沿いにベッドが置いてあり、ベッドの間の窓側沿いに大きめの平机が置いてある。
その机の両サイドに一つづつランプが置いてあり、左右対照的な感じになっている。
二人はよく自分のベッドに座り込み、向かい合って話すことが多かった。
ふと、ハヴィの愚痴を聞きながら思い出す。
ここで甘やかし上手のアンセルならば『そんなの当たり前じゃないかハヴィ以外が神様なんてありえないんだけど』とか言いそう。いや絶対言うだろう。
そんな事を思いつくと、思わず口から言葉が漏れる。
「……アンセル今ごろ何してんのかなぁ」
ボソリと呟いたオルトの言葉に、ハヴィはびくりと体を揺らした。
あ、しまった今は地雷だったな、と思ったがもう遅い。
怯むオルトにハヴィが口を開いた。
「無事かだけでも、生きてるのかとか、少しでいいから知りたい。」
「うん……」
オルトは静かに立ち上がると、ハヴィのベッドに座り直した。
そして座ったままハヴィをギュッと包み込む。
ギュッと腕の中で抱え込むと背中をポンポンと優しく撫でるように叩いた。
そのまま倒れるようにハヴィのベッドに二人で転がりながら、ハヴィが寝付くまでオルトは無言で背中を撫で続けた。
呼吸が規則正しくなった頃、起こさないように気をつけながらハヴィから離れ、そっと布団をかける。
目の下のクマが明日は少し取れたらいいな、と。
指先で目の下をそっと撫でた。
子供の頃はよく、自分がハヴィにこうしてもらっていた。
マフィラフィが無理やり聞かせてきた怖い話のせいで、天井のシミが怖くて眠れなかった時や、川に落ちて冷えた体を震わしている時なんて、半笑いだったことを思い出しちょっとイラッとした。
思わずスヤスヤ眠るハヴィの頬をつねってやろうかと思っていた時に、ふと扉の外から気配を感じた。
じっと動かず、扉を見つめたまま様子を伺う。
しばらくゴソゴソ音がしたかと思うと、扉の下から何かが差し込まれるような擦れた音がした。
すぐに差し込まれた物を拾い上げ扉を開けたが、人が去る足音が遠くで響くだけで、もう誰も見えなかった。
ここで追いかけても無駄だろうと判断し、差し込まれた紙を表裏と観察。
『ハヴィ宛……』
紙は封書のようで表に『ハヴィエス・クロア様』と少しクセのある文字で書かれていた。
見た覚えがない文字。
裏には送り主の名前はなく、おそらく親しくないものからの手紙。
いつもならハヴィ宛の手紙なんぞ絶対開けることはしないのだが、この時何か嫌な予感がしたので迷わず開封する。
そもそも親しい者たちはハヴィをハヴィエスとは呼ばない。
そこがどうも引っかかってしまった。
しかももう、寄宿舎の消灯時間が迫るぐらいの遅い時間。
こんな時間に差し込まれる手紙なんて、恋文か果し状かぐらいしか思いつかなかった。
封筒は糊付けも甘く、すぐに開いた。
封筒の中には紙が一枚。
その紙に書かれていた文字に目を動かす。
『ハヴィエス様、アンセル様のことで、どうしてもお話ししたいことがあります。
どうかすぐにでもこちらの場所まで来てください。
彼がまだ、生きているうちに……。』
もう一度念入りに手紙と封筒をくまなく確認するが、他には何もなさそうだ。
宛名しかない手紙にオルトは眉を寄せた。
急いで紙とペンを取ると、自分の行動を告げるメモを二枚書き、一枚をハヴィの枕元へ。
そしてもう一枚手紙と一緒に口笛で呼び出した黒い鳥に託し、オルトはフードを片手に部屋から静かに出ていった。
暗闇だと自分とハヴィの区別はつかないだろう。
体格的にはハヴィの方が少し大きいのだが、フードのおかげできっと誤魔化せる。
時間を引き延ばせさえすれば、あとは父が助けてくれるかも、と。
メモとさっきの手紙で何かを察してくれるだろうと期待して、オルトは足早に寄宿舎を後にしたのだった。
物静かで無口な性格だが、努力家で剣の腕は優れていると聞く。
第一騎士団は第二に比べ上位貴族の七光が多いのだが、彼に関しては実力も伴っていたようだ。
歳は25と年相応で、テテのたっての希望で護衛をしていたらしい。
テテと王太子は無実の罪を公爵令息に着せた事で、現在捕らえられ取り調べを受けているのだが、テテが捕えられた時点で彼の『愛人』と呼ばれる者たちは、殆ど全員手を引いた。
どの子息も口を揃えて言った言葉。
テテが自分ではない別の誰かを愛していても構わない。
無邪気で純粋なテテは、最後にはきっと自分の元へ戻ってきてくれると。
そう信じていたのは、誰しも彼が王太子と結ばれるわけがないと思っていたから。
なのにテテは王太子と結ばれるために、王太子の婚約者を落としいれるなどという愚行に出た。
王太子と共に捕えられる姿を目の当たりにし、みんなが口々にいったのだ。
『天使なんかじゃなかった、悪い夢から覚めた。』
ここまで読んでもう見るのも嫌になり、書類を机に投げる。
「てかあれのどこが天使なんだっての」
「あー、ね。僕も無理だった。」
「だろ?あれが天使だったら俺は神様じゃん?」
「あ、うん、はいはい」
寮に帰ってまで愚痴るとは珍しい。
ハヴィはバカなので、今日あった事も夕飯食べて脳が幸せを感じたら、大体忘れるのだ。
だからこそ、本当に珍しい。
というか本当に自分のこと神様だとか思ってそうで怖い。
だってこの顔よ。
このドヤ顔、絶対思って自信たっぷり、間違いない。
オルトはうすら笑みを浮かべつつ、適当に誤魔化していた。
団長が逆取り調べを希望した時点で、午後の取調べは呆気なく無くなった。
あっちの団長は情報が上がっておらず、何も知らないと驚いていたという。
なので団長同士で午後はずっと会議していたらしい。
取り調べはなくなったと報告を受けたが、団長の姿はその後ずっと見えなかった。
なので定時でさっさと上がってきたというわけだ。
ハヴィたちの寄宿舎の部屋は大体二人部屋。
そんなに広くない部屋の両壁沿いにベッドが置いてあり、ベッドの間の窓側沿いに大きめの平机が置いてある。
その机の両サイドに一つづつランプが置いてあり、左右対照的な感じになっている。
二人はよく自分のベッドに座り込み、向かい合って話すことが多かった。
ふと、ハヴィの愚痴を聞きながら思い出す。
ここで甘やかし上手のアンセルならば『そんなの当たり前じゃないかハヴィ以外が神様なんてありえないんだけど』とか言いそう。いや絶対言うだろう。
そんな事を思いつくと、思わず口から言葉が漏れる。
「……アンセル今ごろ何してんのかなぁ」
ボソリと呟いたオルトの言葉に、ハヴィはびくりと体を揺らした。
あ、しまった今は地雷だったな、と思ったがもう遅い。
怯むオルトにハヴィが口を開いた。
「無事かだけでも、生きてるのかとか、少しでいいから知りたい。」
「うん……」
オルトは静かに立ち上がると、ハヴィのベッドに座り直した。
そして座ったままハヴィをギュッと包み込む。
ギュッと腕の中で抱え込むと背中をポンポンと優しく撫でるように叩いた。
そのまま倒れるようにハヴィのベッドに二人で転がりながら、ハヴィが寝付くまでオルトは無言で背中を撫で続けた。
呼吸が規則正しくなった頃、起こさないように気をつけながらハヴィから離れ、そっと布団をかける。
目の下のクマが明日は少し取れたらいいな、と。
指先で目の下をそっと撫でた。
子供の頃はよく、自分がハヴィにこうしてもらっていた。
マフィラフィが無理やり聞かせてきた怖い話のせいで、天井のシミが怖くて眠れなかった時や、川に落ちて冷えた体を震わしている時なんて、半笑いだったことを思い出しちょっとイラッとした。
思わずスヤスヤ眠るハヴィの頬をつねってやろうかと思っていた時に、ふと扉の外から気配を感じた。
じっと動かず、扉を見つめたまま様子を伺う。
しばらくゴソゴソ音がしたかと思うと、扉の下から何かが差し込まれるような擦れた音がした。
すぐに差し込まれた物を拾い上げ扉を開けたが、人が去る足音が遠くで響くだけで、もう誰も見えなかった。
ここで追いかけても無駄だろうと判断し、差し込まれた紙を表裏と観察。
『ハヴィ宛……』
紙は封書のようで表に『ハヴィエス・クロア様』と少しクセのある文字で書かれていた。
見た覚えがない文字。
裏には送り主の名前はなく、おそらく親しくないものからの手紙。
いつもならハヴィ宛の手紙なんぞ絶対開けることはしないのだが、この時何か嫌な予感がしたので迷わず開封する。
そもそも親しい者たちはハヴィをハヴィエスとは呼ばない。
そこがどうも引っかかってしまった。
しかももう、寄宿舎の消灯時間が迫るぐらいの遅い時間。
こんな時間に差し込まれる手紙なんて、恋文か果し状かぐらいしか思いつかなかった。
封筒は糊付けも甘く、すぐに開いた。
封筒の中には紙が一枚。
その紙に書かれていた文字に目を動かす。
『ハヴィエス様、アンセル様のことで、どうしてもお話ししたいことがあります。
どうかすぐにでもこちらの場所まで来てください。
彼がまだ、生きているうちに……。』
もう一度念入りに手紙と封筒をくまなく確認するが、他には何もなさそうだ。
宛名しかない手紙にオルトは眉を寄せた。
急いで紙とペンを取ると、自分の行動を告げるメモを二枚書き、一枚をハヴィの枕元へ。
そしてもう一枚手紙と一緒に口笛で呼び出した黒い鳥に託し、オルトはフードを片手に部屋から静かに出ていった。
暗闇だと自分とハヴィの区別はつかないだろう。
体格的にはハヴィの方が少し大きいのだが、フードのおかげできっと誤魔化せる。
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