弱虫くんと騎士(ナイト)さま

皇 晴樹

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弱虫くんと後輩くん

ずっと待ってた

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***

気づけば僕は、琉夏くんとお弁当を食べた場所にいた。

その場に座り込んで顔を覆う。


どうして速水くんはあんなことをしたの?

嫌とかそういうわけじゃなくて、理解が追いつかなくて混乱している。

だって、


はじめて……だったし。


これから普通に接することができるかな。
不安でしかないよ。

「優那くん。やっとみつけた」
「…琉夏くん」
「明日、戻ってくるよ」
「隼人が?」
「うん。だから、元気出して」

琉夏くんが僕の肩をポンッと軽くたたいたのを合図に、僕の中の細くて脆い糸がプツンと切れた。

彼は、幼い子どものように泣きじゃくる僕を突き離さず、しっかりと受け止めてくれた。


「ごめんね」
「謝らなくていいよ。優那くんは何も悪いことしてないんだから」
「……こんなにも弱いから、隼人を傷つけて嫌われちゃうんだ」
「そんなことない。兄ちゃんだって、優那くんが思ってるよりもずっと臆病で、繊細なんだよ」

僕にとって隼人は昔から、強くてかっこいい騎士だった。

琉夏くんの中には、僕の知らない隼人がいるんだ。
弟だから当たり前なのかもしれないけど、僕も隼人とずっと一緒にいたはずなのに……
まだまだ知らない彼がいる。

“隼人のことをもっと知りたい。”


「優那くんが今思っていることを兄ちゃんに言ってあげて。言葉にしないと伝わらないから」
「うん」

琉夏くんは人の心を読めるのではないか、と思う時がある。

僕がわかりやすいだけなのかな?

「オレはいつだって、優那くんの味方だから。何かあったらいつでも頼ってね」
「ありがとう」


明日は隼人に会える。

琉夏くんの言う通り、僕の今の気持ちをしっかりと伝えるんだ。

***

そして、隼人が戻ってくる日。

教室に入ると、すでに隼人のカバンがあった。
でも、彼の姿はない。
近くにいたクラスメイトに尋ねると「衣装班に連れて行かれたよ」と教えてくれた。

彼が休んでいる間に、文化祭の準備は進み、彼のあけた穴は大きくなっていた。
それを2日で——といっても、明日は開会式があるから、実質今日1日で埋めなければならない。


軽くため息をついて席に着くや否や、演劇部の部長に呼ばれて生徒会室へと向かった。

「おはようございます。会長」
「お、おはよう…」

先に来ていた速水くんといつも通りの挨拶を交わす。

彼は気にしていない様子だ。

僕も昨日のことは忘れよう。
今は練習に集中しなければ……

「菊地くんも学校に来たみたいだけど、いろいろ忙しそうだったから今日は練習に参加できないと思う。リハーサルなしで本番の可能性もあるからよろしく」

部長の言葉に思わず背筋を伸ばした。

「兄ちゃんにはオレから伝えておきます」
「うん。頼んだよ」
「はい!」

***

昼休みは隼人と話せると思ったのに、彼は教室からすぐに出て行ってしまった。
仕方なく一人で学食へ行くと、背後から「会長」と声をかけられた。

「速水くん…珍しいね」
「たまには学食もいいかなって……隼人先輩は一緒じゃないんですか?」
「うん。昼休みになってすぐにどこかに行っちゃった」
「そうですか……よければご一緒しても…」
「いいよ」

誰かと一緒にいたい気分だったから、ちょうどよかった。

速水くんと二人で行動するのは珍しいせいか、周囲から驚きの声が聞こえてくる。

「優那先輩。南野通りに新しくできた カフェ、知ってますか?」

周囲の目なんて気にも留めず、彼はにこにこと笑っていた。

「知ってるよ。パンケーキが話題のお店だよね?」
「はい。今度行きませんか?」
「え…」
「あ、二人でではなく文化祭の打ち上げで…」
「そうだね。いいと思う。まずは文化祭を成功させよう」
「はい! 頑張りましょう」

彼にとっては初めての文化祭だから、楽しみで仕方がないんだろうな。

速水くんが朝も昼休みも放課後も、生徒会とクラスの準備を頑張っていたことを僕は知っている。

きっと、成功するよ。



「会長。お先に失礼します」
「うん、また放課後に」
「……隼人先輩、来れるといいですね」
「そうだね」

もしかして、速水くんにも僕の気持ちがバレてる……!?

「応援してます」
「う、うん…?」

……バレてるみたい。




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