魔導具なら買い取ります!古道具屋『がらんどう』

なかな

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「シリル」現る2

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”カララーンッ”

 入口のクラシカルなベルの音が店内に鳴り響く。

 その日、シリルは約束の時間から2時間後、フラっと『がらんどう』の入口に姿を現した。

「ごめんね、ちょっと遅れちゃった」と言い、ニッコリと笑って‥。

 私とユーリもそれくらいは想定内なので、特に何か言うこともなく、シリルを店の奥へと案内する。

 店の奥には応接セットが置かれた商談スペース、私の作業台、ユーリの事務机がある。

 いつもユーリが腰掛けているそのオフィスチェアの向こうには扉があり、そ れが異世界へと続く門だ。

 シリルは異世界門の場所なら知り尽くしているだろうから、いざ逃げるとなれば、この扉は格好の逃げ場となってしまうに違いない。

 なので、ユーリと相談の上、この扉は一時的に結界を張り、出入りが出来ないように封じている。

 シリルが店内を歩きながら「ふーんっ‥。だよねっ!」と勝手に納得していたのは、おそらく結界があると分かったからだろう。

 普通の結界なら、シリルの手に掛かれば破って逃げる事も出来そうだが、今回張られているのは、ユーリと言う特別な魔術師によって何重にも張られた結界だ。
 破る労力を考えると実行するのが馬鹿らしくなるくらい、強固だ。


 古くなり、艶のなくなった革張りのソファーにシリルが腰かける。

 殺風景とも言える『がらんどう』の商談スペースに、絵画から抜け出して来たように煌びやかな風貌のシリルは浮いたように見える。

 母ニコルが来た時にもそう思ったのだが、バラの花でも置かないと周りとのバランスが取れない程の美貌なのだ。

 私も同じ血を引いているのにな‥。
 おそらく私は父に似ているのだと、そう思っている。

 私とユーリが並んで座り、ローテーブルを挟んだ向こう側にシリルがいる。

 肩までの緩くウェーブした金の髪は、薄手の漆黒のブラウスの上に重ね付けられた、繊細な金細工のネックレスと同じように輝いている。

 ペリドットのような宝石と見紛う緑の瞳は、下がり気味の目尻によって気怠く見えるが、その実、視線が鋭利な刃物のようになることは分かっている。

 深くソファーに腰掛け足を組み、不自然な程に鮮やかな桜色の唇に指先を2本、乗せている。
 
その指は先程から、唇をグネグネと摘んでいたり、引っ張ったりと忙しい。

 組んだ足先も、落ち着きなく上下に揺れ、体は小刻みに揺れている。

(座っているだけなのに、騒がしい奴だな‥)


 初めてシリルという人物と真面に向き合うと、落ち着きの無い奴という印象だ。

 日頃、悠然と構えている王族様のユーリを目にしているせいか、シリルの姿は観察さえ出来てしまうほどに忙しい。


「で、なんで呼び出したの?何かの口止め?」

 既に知っていると言う事を隠さずに、シリルが言う。

「何か、口止めをされるような事を知っている、と言うことで話を進めるが、良いか?」

 シリルとユーリとの間で会話が進む、まだ、私の出番では無いようだ。

 ちなみに、あれほど「頑張るっ!」と言っていた蓮くんは、学校が終わるまで来られない。間に合えば良いけど‥。





「僕としてはいくつかあるんだけど、どの辺りの事?オレンジのお嬢ちゃんの胸が意外に柔らかかった事?転移陣の中でタックルされた時、結構当たってて‥」

「意義ありっ!それは日本で言うところのセクハラですっ!」

 何を言い出すんだと、慌てて止めに入る私。

 ユーリは何か考えているのか、斜め下に視線を落としたまま動かない。

「それじゃ、あれだ!銀髪のお兄さんの性格が面倒くさい事だ!僕が言いふらしたら、王族なのに結婚相手決まらなくなっちゃうもんね。うん、分かる」

 何が分かるなのか、ウンウンと繰り返し頷くシリル。
 うん、残念だけど、私も分かるよ‥。

「それは言いふらしてくれて構わない。そもそも、私の性格なんて意味ある情報では無いからな。雑談はそれくらいにして、本題に戻ろう」

 シリルが話をはぐらかすのなんて、もちろん分かっていた。
 意味のある会話が出来るかどうかが、今日の話し合いの重要なところだ。

「ミツリについて知っている事。気が付いている事があるのなら、その事は他国はもちろん、イシュタニア国王にも伏せておいて欲しい」

「分かったよ。オレンジのお嬢ちゃんの胸がやわ‥」

「ストーップ!!何度も言いますが、それはセクハラです。次にまたそれを言うなら、お綺麗な顔にマジックで”変態”と書いて差し上げますっ!」

 シリルはキョトンとした顔になった後、然もおかしそうに笑い出した。

「はっ、はははっ‥。ニコルの娘だから、どっか面白いだろうなと思ってたけど、やっぱりそういう感じか。タックルするわ、追いかけて海に飛び込んでくるわ、本当にやっちゃうから、これ以上言うと本当にマジックで書かれちゃうんだろうね。消すのめんどいから、もう言わないよ‥」

「他の事についても、他言しないと誓えるか?」

 ユーリが本題に戻そうと話を被せてくる。

「他言ねぇ、それって僕に利益はあるの?立場で言えば、僕の機嫌を損ねちゃったら、銀髪のお兄さんもオレンジのお嬢ちゃんも、立場は危ういよね。もちろんニコルもだけどさ」

「利益と言えるか分からないが、私たちは今、新しい事を試みようとしている。神の力を使った魔導具を作るんだ。シードの純粋な力を溜め、供給できる魔導具を、ね。君にとって、誰も手掛けた事のない魔導具を作る機会は、魅力的ではないか?」
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