魔導具なら買い取ります!古道具屋『がらんどう』

なかな

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ランタン

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 目的地「代々木上原駅」の上空に着いた。

 商店や住宅に囲まれた駅前の道は狭く、エリィちゃんといえども降りるのは難しそうだ。

「エリィ、ここまでで大丈夫だ。私達が降りたら、直ぐに隠業魔術を解いて元の世界に戻すから、そのつもりでいるように」

ーー「分かったわ」

 エリィちゃんは寡黙なタイプみたいだ。

「さぁ、降りるぞ。ミツリは私に掴まっていろ」

「へっ?!」

 ユーリは駅前の商店街を見下ろし、私を抱えたまま飛び降りた。





 耳元で風の音が鳴り、ユーリの銀髪が私の顔に絡みつく。
 ユーリがよく使う風魔術だ。

 風を使って私達2人が落下する速度を落とし、商店街の人通りが少ない脇道に無事、着陸する。

 ユーリは落下しながらも、エリィちゃんの方に向かって片手で術を発していた。

 これでエリィちゃんも無事に自分の場所に戻れただろう。

 だが、同時に異なるタイプの術を使いこなすユーリは、極めて有能な魔術師だ。

 この人は、私と日本で仕事をしていて良いのだろうか?

 ユーリはもっと、国に役立つ仕事が出来るだろうに‥。

 何故、ユーリはここに居るのだろう??





「たーっ!てぇーっ、やー!!」

 何か、ヤケクソっぽい声が聞こえる。
 それも、聞き覚えのある声だ。

「あーっ、分っかんねー!!ユーリさんは、こんな感じで手を出して、力集めて、ビュンッて飛ばして‥」

 蓮くん、何やってるんだろう?

 蓮くんの周りには、小さな咬み傷から血を流し、座り込んでいる人が数名いる。
 その周りには、忙しなく動く鼠が20匹以上はいるだろうか?

 座り込んでいる大人達は、蓮くんを生暖かい視線で見守っていた。

「あれって‥」

 私がユーリを見ると、ユーリは片手で目を覆い上を向いている。
 どう見ても蓮くんのあれは、先日ユーリがシリルに使った水魔術の真似事だ。

 遠くから、パトカーのサイレンが聞こえる。
 騒ぎを見て警察を呼んでくれた人がいたようだ。

「蓮くんっ!こっち!」

 私は自動販売機に隠れて蓮くんに声を掛ける。

「あっ!ミツリさん、ユーリさんっ!俺、怪しいの見つけてっ!」

 蓮くん指差した場所には小さなランタンが置いてあった。

「あれは‥、野鳥を呼び寄せる魔導具に似てる。子供がフィールドワークに行った時とかに使うタイプの」

 私はランタンに近寄り、調整ハンドルを回して灯りを消した。
 流された魔力が残っていても、あとは自然に消失して行くはず‥。

「よし。とりあえず効果は出ないようにできた」

 周りにいた鼠達は、我先にと物陰や小さな穴を見つけて潜って行く。

「混乱?させられていたみたい。これは間違いなく魔導具だよ。それも私が見たところイシュタニアで使われているものと酷似している」

「蓮くん、よく持ち堪えてくれたな。周りの人達も、蓮くんの勇敢な姿に感謝しているようだぞ」

 蓮くんを見る周りの人々の目は、ついさっき生暖かい視線を送っていたとは思えないほど、感謝を表していた。

「ステラもご苦労だったな。蓮くんに結界を張っていたのだろう?」

ーー「蓮が助けに入った時には既に、何人も傷つけられていたの。蓮は守れたけど力及ばすだわ」

 ステラさんも鼠を沢山蹴散らかしてくれたのだろう。
 顔の毛を手で撫で付け、毛繕いを始めている。

「もう警察も到着する。蓮くんは現場の証人だから、このまま残っていてくれ。私達は、このランタンの回収をして、この場にいる人々の‥記憶を消し去るとする」

 ユーリは珍しく詠唱を始めると、呪文を乗せた声を集まっていた1人1人に聴かせるように目線を送り始めた。

 ユーリに見つめられた人は表情が固くなり、目を見開いたまま動けなくなっている。

 意識に干渉する魔術を目の当たりにして、この系統の術が禁忌である意味がよく分かった。

 ユーリが静かに詠唱を終えた。

「これで私とミツリ、ランタンについては思い出せないだろう‥」

近くで声を張り上げ、通行人を止めている声が聞こえる。警察はもう直ぐ近くだ。

「蓮くん。私たちは帰ってこれを調べる。ステラ、後は任せたぞ」

「は、はいっ!お気をつけて!」

 蓮くんがまだ元気そうな声で見送ってくれる。怪我が無くて本当に良かった。


 ユーリがランタンを抱える私の肩に長い腕を回すと、転移の指輪を起動する。 

 光に包まれた私達は『がらんどう』まで転移した。
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