魔導具なら買い取ります!古道具屋『がらんどう』

なかな

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「事件」起こる

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 夜9時を回り、そろそろシャワーでも浴びて寝支度しようかと思った頃だった。

 ダイニングテーブルには、相変わらずパソコンを開くユーリの姿がある。
 時々、微笑を浮かべているので今は仕事ではなく、ネットで娯楽的な物でも見ているのだろう。

「なっ!それはどこだ?」

 突然ユーリが話し出した。
 ユーリの事だから、まさか見ている動画に突っ込みを入れている訳ではない。

「ユーリ?どうしたの?」

 私は何が起こったのか分からず、ユーリに注視する。

 ユーリは上げた片腕を私の方へ向け、制したまま目線を斜め下に向けて集中している。
 もう片方の手で自分の耳を覆うように押さえているので、何かを聞き取っているようだ。

「状況は?ステラ、詳しく説明してくれ」

 どうやら、使い魔のステラさんから連絡が入ったらしい。
  
「鼠?蓮くんに怪我はないか?」

 蓮くんに何かあったのだろうか?
 最近のシリルを見ていると、何か仕掛けたとは考えづらいが‥。

「今から向かう。案内してくれステラ!」

「ユーリっ、何処に行くの?」

「あぁ、これからエリィを呼び出して代々木上原駅に向かう。塾帰りの蓮くんが、鼠の集団に出くわしたらしい」

「鼠?ステラさんがいるから問題無いんじゃない?」

「確かにステラなら戦えるが、どうやら相手は意識を錯乱させられ凶暴化した鼠らしい。被害が出ないよう、ステラには蓮くんや他の人達を守ってもらっているから、その間に私達は原因を探る。ミツリも早く準備しろっ」

 ユーリは10月の寒空を飛ぶ準備を整え、ベランダへ続くガラス戸を開けて外に出た。

「ここから飛ぶ」

 ユーリはそう言うと、手の平にペンで召喚陣を描き、魔力を込めて陣をベランダの床に飛ばした。

 大きく広がりながらベランダの床に落ちた召喚陣は、赤黒く焼き付くように、その形を表した。

「おいでエリィ、また夜の散歩だ」

 ユーリが声を掛けながら魔力を陣へ流すと、白い光が溢れ、中からお目目をパチパチさせたエリィちゃんが現れた。

「ちょっと待った、ユーリ。もしかして、ここからエリィちゃんが飛ぶの?!」

「そうだ、周りに気をつけてもらえば行けるだろう」

 繊細に見えて大雑把。
 ユーリのこういう所にはまだ驚かされる。

 周りをキョロキョロ見渡して、首を傾げるエリィちゃん。
 やっぱり、羽を広げるには狭くないか?

「エリィ、少し狭いが飛べるな?こういうのは、得意だろう?」

ーー「そうね」

 エリィちゃんも話せたんだ‥。

 ユーリに言葉少なく返した後、エリィちゃんは「行けるわっ!」とばかりに鼻息を荒くして、私たちが乗りやすいように背を下げてくれた。

 こんなにやる気出されたら、返って心配になるかも‥。

 私とユーリを乗せたエリィちゃんは、あの横浜のジェットコースターを彷彿とさせるような急上昇をし、渋谷の街を見下ろす高さまであっという間にたどり着いた。



 ◇◇◇



 私とユーリを乗せたエリィちゃんは、冷たい空気を切り裂くように猛スピードで目的地に向かった。
 遥か下に広がる色とりどりの街明かりが、現れては消えていく。

 正面から秋の夜風が吹き付けるので、ユーリが後ろから私を抱え込むようにして、防御魔術をかけてくれている。

 生身の体でこの冷気を受けたら、あっという間に低体温になってしまうだろう。

 ユーリの魔術あってこその夜の飛行だ。


「まさか、シリルは関係無いよね。最近、蓮くんに突っかかる事も少ないし」

「そうだな。私としても、そこは奴を信じている。蓮くん個人を攻撃することで何かを得ようという、浅はかな奴ではないはずだ。それに‥、蓮くんは他の人を助けようとして巻き込まれたらしい」

「ターゲットは蓮くんじゃなかったの?」

「あぁ。ステラが言うには、鼠の集団が人を襲っていたのを、通りかかった蓮くんが見つけて助けに入ったらしい。その時に蓮くんが口にした言葉が『鼠が、変な明かりに操られている』だったんだ」
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