魔導具なら買い取ります!古道具屋『がらんどう』

なかな

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リチャード

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 あれから、動物園を後にしようとしているリチャードに声をかけると、余り驚いた様子もなく、
「ミツリ、久しぶりだねぇ」
と、ニヤニヤした顔で返された。

 私が突然現れて、それも瞳の色が虹色になっているのに、リチャードは大して動揺するわけでもなく平然としている。

 父ランドールがリチャードを友人としていたのは、この規格外のメンタルがあったからなのだろう。

「リチャード、こっちに来るなら連絡寄越してよ。色々と勘違いして、大変だったんだから!」

「異世界に行ってるミツリに連絡するなんて面倒じゃないか。こうして来れば会えるのに」

 またもやニヤニヤして、さも当たり前のように言ってくる。
 リチャードと話をしていると明らかにこちらが正論なのに、彼の言うことの方が正しいような気がして来るから不思議だ。

「会えるって、私が来たから会えただけだからね。‥もしかして『がらんどう』まで来るつもりだったの?」

「そうだね。会えなければ行こうかなくらいに思ってたよ。まぁ、こうして会えたからね。ミツリもパンダを見に来たのかい?」

 もう私には、斜め上にあるユーリの顔を見る勇気はない。私とリチャードの会話を聞いて、面食らっているに違いないのだ。

「そうだったら良かったんだけどね‥。リチャード?久しぶりに会えたのに、素直に喜べ無くてごめんなさい。こっちの状況が複雑で、さっきまで警戒していたから‥。あぁ、もう‥。ユーリに無理して来てもらったのに、何だろうこの感じ」

 リチャードは訳がわからないとでも言う様に肩をすくめている。
 そりゃそうだよね。

「ミツリ、いいんだ。悪いのは全てシリルだから。何故こんな事をしたのか‥、理由に寄っては罰則か罰金だな。奴は水竜の餌になるのと全財産を奪われるのと、どちらを選ぶかな」

 ‥‥‥。
 ユーリ、めちゃくちゃ怒ってるな。


「あぁ、もしかして、この方がランドールの言っていた、ミツリと暮らしている殿下なのかな?ご挨拶が遅れまして申し訳ありません。元々は王宮で魔術師をしておりました、リチャード・ヴィトマンにございます」

 ユーリが青ざめている。
 どうやら父ランドールにも、私がユーリと暮らしている事が伝わってしまったようだ。

 目の前にいる育ての親のリチャードにも、二人暮らしを指摘されて、益々気まずい。

「慣れない日本の土地を歩かれて、さぞお疲れでしょう。よろしければ、宿までお送りいたしますよ」

 ユーリがリチャードから早くも距離を置こうとしている。
 ユーリにしてはあからさまだな。

「宿はまだ決めておりませんで。後で空いているところを探そうかと」

 ほら、リチャードはこういう人なんだよ。
 おそらく、世話焼きのユーリとの相性は最高であり最悪だ。

「それでは宿はこちらで手配しよう。異世界にまで来て、泊まる所も見つからなかったら大変だからな」

 ほら‥。

「感謝申し上げます、殿下。‥実は、こちらの国に来ましたのも、ランドールが集めた魔石の数々を是非見てみたいと思ったからでして。出来れば、お二人のお住まいに近い所にお願いしたいのですが」

「お二人のお住まい」って‥。

 ユーリが触れて欲しく無い所に、全く悪気も無く触れてくるリチャード。
 本人は多分、ユーリが気にしている事さえ気が付いていない。

「それでは、渋谷駅周辺のホテルを選ぼう。私達の住むマンションにも空き部屋があるから、そこで良ければ自由に使ってもらって構わない」

 ユーリはもう開き直る事にしたんだな。 

「空き部屋があるなら、是非そちらへ。ミツリの側にいられるのは久々ですから!」

 ユーリの表情が険しい。
 流石に疲れたのだろうか?



 ◇◇◇



 上野からは山手線を使い移動をした。

 ユーリに転移してもらっても良かったのだが、リチャードの観光になるからと、珍しくユーリからの提案で電車に乗った。

 3人で転移するのは、流石にユーリも大変なのだろうか?
 帰ったら極力ユーリを休ませないといけないな。





 私達が帰ると、5階のリビングにシリルの姿は無かった。

「ちっ、やっぱり逃げたな」

 いつになく品の無い言葉を使うユーリに驚く。

 魔石は、私が作成した盗難防止用魔導具「ミミック」の中で、丁寧に仕分けされており、明晰なシリルの思考が読み取れるかのようだった。

「これは凄いね。ランドールが集めた魔石の種類や品質も凄いけど、この用途を理解して的確に仕分けが出来るなんて、随分とミツリも成長したんだね」

 後ろから「ミミック」の中を覗き込んでリチャードが関心したように言う。

「これは私がやったんじゃないの。シリルって言う魔術師が、分かりやすいよう分けておいてくれたんだよ」

「シリル君か‥。ランドールってば僕に聞かないで、そのシリル君に魔石の使い方を相談したらしいじゃない?おまけに集めた魔石も全部渡しちゃうんだからね。僕はね、本当は少し怒ってたんだ。‥でも、これだけでも、彼の実力は分かるよ。魔石の扱いもうまいんだろうね。いやー、僕のライバルになっちゃうかな」

 執着心など無いと思っていたリチャードが、父ランドールが魔石を渡した事で、シリルに密かな対抗心を持っていたとは知らなかった。





 先程からユーリは、スマフォ使ってシリルにメッセージを送っている。

「どう?シリルは何て言ってる?」

 ユーリのスマフォを覗き込むと、シリルから送られてくるのは殆どが貼り付けられたイラストだ。

「奴は会話する気がないらしい」

眉間に皺を寄せたユーリがぼやく。

「待てよ、これって‥」

 ユーリが何かに気付いたのと同じタイミングで、使い魔からの連絡が入った。
 ユーリは片耳を押さえながら、使い魔からの報告を聞いている。

「やっぱりそうか。ミツリ、奴だ。メガネの男が真犯人だ。シリルめ、全部知った上で仕掛けていたなっ。今から現場へ行く。ここから近い山手線の線路沿いの道だ」

 ユーリはそう言い、リチャードに留守番を頼んだかと思うと、私の手を引き走り出した。

 いつもはゆったりと優雅に身動きするユーリが、髪を振り乱して疾走しているのは見たことが無い。
 腕を引かれている私もかなりの速度で走っている。

「ユーリっ、これって魔術使ってる?」

「もちろんだ。風魔術の応用は速度を上げるからな。この辺りは人が多いから、戦闘時のように視覚も聴覚も上げて、神経を張り巡らしている。ぶつかる事は無いから安心しろ」

 いつもは魔導具で運動能力を変えている私だが、ユーリのスピードは早すぎて感覚が追いつかない。

「ユーリ、何だか酔いそう‥」

「問題ない。もう現場だ」

 ユーリが静かに失速し立ち止まった現場では、ランタンを前に「丸メガネのおっさん元同僚」が転がっていた。
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