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捕まったのは‥
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アスファルトのザラザラした地面に転がされた「おっさん元同僚」は、呻き声を上げてジタバタしている。
日没まで後わずかという、薄暗がりの中にいるため良く見えないが、黒い煙のような物が体を覆い、逃げられないでいるらしい。
「ユーリ、おっそーい。もう少し早く気がついてくれるかと思ったのに‥。このおっさんを押さえるなんて、僕の趣味じゃないんだよね。早く代わってよっ」
どこからか、シリルの声が聞こえてくる。
「だったら謎かけなんてしてないで、さっさと用件だけ送れば良いものを。使い魔からの知らせがなければこの場所だって、特定にもう少し時間がかかったぞ!」
「だって、ユーリ怒ってたし?新たなトラブルふっかけるなんて、僕のメンタルじゃ無理だったんだよ」
元同僚にまとわりついていた黒い煙が、シュルシュルと地面に吸い込まれるように消えたかと思うと、その中から黒い影が立ち上がり、シリルの姿を結んだ。
「あーっ、やっと開放された‥。ずっと潜ってるのって地味にキツイんだよね。おっさん縛って抱えてるとか、何の罰ゲームかと思ったぁ」
「私たちに隠して、陰でコソコソ企んでいた罰にしては軽いな。なんなら、その眼鏡の男と2人並べて、一緒に縛り上げてやっても構わない」
シリルは本当に嫌そうな顔をすると、ユーリの方に向き直った。
「それは悪かったと思ってる‥。ただ、このおっさんを捕まえるのは僕が受けた依頼だったから、邪魔されたくなかったんだよね」
シリルが受けた依頼?
シリルはそんな仕事までしているの?
「眼鏡のおっさんの悪巧みに、あの坊やが関わらなければ、僕の仕事は楽だったのに‥。ユーリから連絡が来て、僕も焦っちゃったよ。事件を知らないふりするのも不自然だし、だからと言って協力しても墓穴を掘るだけなんだ。ユーリに犯人突き止められたら、僕の仕事の評価が下がって、失敗も同然になるからね」
シリルは態とらしくプンプンしている。
まだ色々とシリルは隠していそうだけど、詮索しても隠されてしまうのが落ちだろう。
ユーリも疑わしそうな瞳をシリルに向けているから、大方、私と同じような事を考えていそうだ。
「こいつはどうする?いつまでも、こうして拘束したまま道端に転がしている訳にはいかないぞ」
緊縛の魔術をかけているユーリがうんざりとした様子で言う。
「ああ、それは既に連絡済みだから、直ぐにお迎えが来るよ。‥ほらっ」
シリルが私の前に立ち、隠すように背後へと追いやる。
「な、何?シリル。全然見えない」
「しっ!黙って。イシュタニア国の特別警備隊だから」
目の前で転がる眼鏡のおっさんは、見えない誰かに助け起こされたかと思うと、そのまま頭から順に見えなくなって消えてしまった。
特別警備隊がおっさんにも隠業魔術をかけたに違いない。
地面に転がるおっさんと、ユーリとシリルという美丈夫2人に釣られて集まっていた人々は、急に見ていた人物が消えた事に驚きどよめいている。
ユーリが仕方がないという顔をして、魔術行使のために詠唱を始めた。
蓮くんの鼠騒ぎの時に使った、記憶の一部分だけを消すあれだ。
「大丈夫だよユーリ。特別警備隊にはもう、僕が作った記憶操作の魔導具を提供済みだから。今は、1人1人の記憶を消してくれてる最中のはずだよ。ユーリの魔術みたいに広範囲で多人数とはいかないけど、1人ずつなら数秒でどうにか出来る」
シリルが何でもない事のように言ってのける。
「記憶の改ざんは、魔導具の製作用途として禁止されていたはずだよ!?シリル!」
「そんな怖い顔しないでよミツリちゃん。記憶の改ざん魔術は国益になるなら使用は可能だからね。現にユーリも魔術つかってるでしょ?」
私が手を出せなかった領域の魔導具を、さも当然のように手掛けてきたシリルが羨ましく憎らしい。
「そんな、何でシリルだけが許されて‥。私なんて魔術書の閲覧さえ許されなかったのに」
「今更だね。僕が許されて持っている特権なんて、他にもあるでしょ。もー、ミツリちゃんは魔導具の事になるとお馬鹿だからね、良い意味で」
シリルは呆れた顔をしながら、私の頭をポンポンと掌で叩いて撫でた。
俯くと悔し涙が流れてしまいそうだったので、態と上を向いて目をしばたかせる。
すると、夜の街灯の輝きを受けたユーリの銀髪が、私とシリルの間を分つかのように滑り込んで来るのが見えた。
薄暗い夜の景色に浮かび上がった銀の色は、まるで刃のように私とシリルの間を切り離した。
「ミツリ、帰るぞ。シリルは帰ってから改めて説教だ」
そう言ってユーリが私の腕を引くので、何故か私は連行されるように歩かされている。
そういえば、11月の日も暮れた時間なのに、ずっと寒さを感じていない。
急いで出てきてジャケットも着ていなかったのに‥。
また、ユーリが私に防御魔術を使ってくれているに違いない。
本当にお節介な人だと思うが、それを嫌だとは思わない。
ただ、「ありがとう」と伝えるタイミングが見つからずに決まりが悪い。
振り返ると、つまらなそうな顔をしたシリルと目が合った。
何か小さな声で言っている。
「ユーリのバーカ」
そう聞こえたのは気のせいだろうか?
日没まで後わずかという、薄暗がりの中にいるため良く見えないが、黒い煙のような物が体を覆い、逃げられないでいるらしい。
「ユーリ、おっそーい。もう少し早く気がついてくれるかと思ったのに‥。このおっさんを押さえるなんて、僕の趣味じゃないんだよね。早く代わってよっ」
どこからか、シリルの声が聞こえてくる。
「だったら謎かけなんてしてないで、さっさと用件だけ送れば良いものを。使い魔からの知らせがなければこの場所だって、特定にもう少し時間がかかったぞ!」
「だって、ユーリ怒ってたし?新たなトラブルふっかけるなんて、僕のメンタルじゃ無理だったんだよ」
元同僚にまとわりついていた黒い煙が、シュルシュルと地面に吸い込まれるように消えたかと思うと、その中から黒い影が立ち上がり、シリルの姿を結んだ。
「あーっ、やっと開放された‥。ずっと潜ってるのって地味にキツイんだよね。おっさん縛って抱えてるとか、何の罰ゲームかと思ったぁ」
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シリルは本当に嫌そうな顔をすると、ユーリの方に向き直った。
「それは悪かったと思ってる‥。ただ、このおっさんを捕まえるのは僕が受けた依頼だったから、邪魔されたくなかったんだよね」
シリルが受けた依頼?
シリルはそんな仕事までしているの?
「眼鏡のおっさんの悪巧みに、あの坊やが関わらなければ、僕の仕事は楽だったのに‥。ユーリから連絡が来て、僕も焦っちゃったよ。事件を知らないふりするのも不自然だし、だからと言って協力しても墓穴を掘るだけなんだ。ユーリに犯人突き止められたら、僕の仕事の評価が下がって、失敗も同然になるからね」
シリルは態とらしくプンプンしている。
まだ色々とシリルは隠していそうだけど、詮索しても隠されてしまうのが落ちだろう。
ユーリも疑わしそうな瞳をシリルに向けているから、大方、私と同じような事を考えていそうだ。
「こいつはどうする?いつまでも、こうして拘束したまま道端に転がしている訳にはいかないぞ」
緊縛の魔術をかけているユーリがうんざりとした様子で言う。
「ああ、それは既に連絡済みだから、直ぐにお迎えが来るよ。‥ほらっ」
シリルが私の前に立ち、隠すように背後へと追いやる。
「な、何?シリル。全然見えない」
「しっ!黙って。イシュタニア国の特別警備隊だから」
目の前で転がる眼鏡のおっさんは、見えない誰かに助け起こされたかと思うと、そのまま頭から順に見えなくなって消えてしまった。
特別警備隊がおっさんにも隠業魔術をかけたに違いない。
地面に転がるおっさんと、ユーリとシリルという美丈夫2人に釣られて集まっていた人々は、急に見ていた人物が消えた事に驚きどよめいている。
ユーリが仕方がないという顔をして、魔術行使のために詠唱を始めた。
蓮くんの鼠騒ぎの時に使った、記憶の一部分だけを消すあれだ。
「大丈夫だよユーリ。特別警備隊にはもう、僕が作った記憶操作の魔導具を提供済みだから。今は、1人1人の記憶を消してくれてる最中のはずだよ。ユーリの魔術みたいに広範囲で多人数とはいかないけど、1人ずつなら数秒でどうにか出来る」
シリルが何でもない事のように言ってのける。
「記憶の改ざんは、魔導具の製作用途として禁止されていたはずだよ!?シリル!」
「そんな怖い顔しないでよミツリちゃん。記憶の改ざん魔術は国益になるなら使用は可能だからね。現にユーリも魔術つかってるでしょ?」
私が手を出せなかった領域の魔導具を、さも当然のように手掛けてきたシリルが羨ましく憎らしい。
「そんな、何でシリルだけが許されて‥。私なんて魔術書の閲覧さえ許されなかったのに」
「今更だね。僕が許されて持っている特権なんて、他にもあるでしょ。もー、ミツリちゃんは魔導具の事になるとお馬鹿だからね、良い意味で」
シリルは呆れた顔をしながら、私の頭をポンポンと掌で叩いて撫でた。
俯くと悔し涙が流れてしまいそうだったので、態と上を向いて目をしばたかせる。
すると、夜の街灯の輝きを受けたユーリの銀髪が、私とシリルの間を分つかのように滑り込んで来るのが見えた。
薄暗い夜の景色に浮かび上がった銀の色は、まるで刃のように私とシリルの間を切り離した。
「ミツリ、帰るぞ。シリルは帰ってから改めて説教だ」
そう言ってユーリが私の腕を引くので、何故か私は連行されるように歩かされている。
そういえば、11月の日も暮れた時間なのに、ずっと寒さを感じていない。
急いで出てきてジャケットも着ていなかったのに‥。
また、ユーリが私に防御魔術を使ってくれているに違いない。
本当にお節介な人だと思うが、それを嫌だとは思わない。
ただ、「ありがとう」と伝えるタイミングが見つからずに決まりが悪い。
振り返ると、つまらなそうな顔をしたシリルと目が合った。
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「ユーリのバーカ」
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