魔導具なら買い取ります!古道具屋『がらんどう』

なかな

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 リチャードが来てくれた事で、私の身代わりとなる魔導具の製作は、急ピッチで進められている。

 シードの力をを流しても耐えられる、魔導具の要となる魔石の候補も大分、絞られてきた。

 私はと言えば、不本意ながら「魔石の耐久実験装置」としての役割を得て、今日も活動に勤しんでいる。

「も、もう駄目‥。力使い過ぎた。この魔石、すっごく力を吸ってくる。」
 
「へーっ、そんなにミツリの力を吸収してくれる魔石も珍しいね。最有力候補じゃない?」

「ミツリちゃんの力を吸っても溜められずに垂れ流すだけなら、他の魔石と合わせるか、漏れ出さないような仕掛けをつくらなきゃね。とりあえず保留。判定はAで。」

 シリルとリチャードは打ち解けた訳ではないけれど、特殊なタイプ同士、ある部分だけは理解し合えているように見える。





 ユーリは先日の眼鏡のおっさん元同僚の事件以来、イシュタニア国の各所から連絡が立て続けに入り、ため息を吐きながら返答業務をしている。

 眼鏡のおっさんを取り押さえた際、「特別警備隊」の誰かがユーリの姿を見つけてしまったらしく、居場所が特定されてしまったのだ。

 イシュタニア国内では今、時期国王を推す勢力が2分化しており、それぞれの派閥が有力者を引き入れようと画策しているらしい。
 
 毎日のように送られてくる権力者達からの熱烈なラブコールを、ユーリは読んだ端から返答を書いて送っている。

 本当に律儀だな‥。

「ユーリ殿下は人気ものだねぇ。見方に付ければとてつもない戦力になるだろう?今はランドールが居ないから、どこも欲しがるんだろうねぇ。」

「まぁ、表向きはそうかもね‥。ユーリを欲しがるのは不自然に見えないからね。ただ、政局を見られるような情報を持っている奴らは面倒なくらいに諦め悪いから、ユーリも大変だよね。」

「それじゃ、ランドールが戻ってきたらどうなるんだい?ユーリ殿下と敵対している側に付いたら、盛大に国が滅びるじゃないか。」

「ミツリちゃんがいるから、それは流石に無いでしょ?でも、ランドールがユーリを敵対視したら、手っ取り早くそれを選ぶかもね。」

 2人で何やら恐ろしい話をしている。

 ユーリ vs 父ランドール。

 そんな事になったら私はどっちに付けば良いのだろう?
 
「ミツリちゃん面白い顔してる。めっちゃ不安そうじゃない?」

 シリルが美麗な薄い緑色の瞳を輝かせ、私の顔を覗き込む。

「うーん。瞳の虹色だけはもう隠せないみたいだね。ここにある魔石を使って腕輪も改良した方が良いかな。注ぎ込む魔力もあそこに潤沢にあるからね。」

 その潤沢な魔力とやらは、あそこで眉根に皺を寄せてデスクワークしている人の事だろうか?

「使える物は、使わなきゃね。」

 シリルはさも当然とばかりに微笑んだ。




 ◇◇◇




 シードの神力と違い、ユーリの魔力はすんなりと魔石に受け入れられた。

 無論、魔石は弾けたり欠けたりしていない。

「ミツリの腕輪、キラキラにしておいたよ。魔石たっぷり。」

 元々の腕輪の製作者であるリチャードのおかげで、腕輪の改良は直ぐに出来た。

 シリルが言うように使える魔石も魔力もあるのだから、作業が始まったら完成までは早かったのだ。

 皆が居るリビングのソファを見ると、度重なるデスクワークと魔力の大量消費でユーリが寝落ちしている。

 警戒心の強いユーリにしては珍しく、無防備に顔を上向きにして、口元を薄らと開けている。

 ユーリにとって不本意な状況なのは、火を見るより明らかだ。

 本人に指摘すると気にしてしまいそうなので、希少な姿をこの目に収めるに留めて、後はそっとしておこう。

「あれー、ミツリちゃん。ユーリの寝姿見つめちゃって‥、そんな趣味あったの?」

 シリルが目ざとく見つけて嫌な所を突っ込んでくる。
 男女に関わらず、綺麗なものを愛でるのは楽しいじゃないか。

「そういうシリルも、珍しいユーリの寝姿を見に来たんじゃない?ほら、こんな姿は中々見られないよ。」

「うーん、確かに。でも、せっかくだから、少しアレンジ欲しくない?」

 シリルはそう言うと、ユーリの顔に落ちた長い前髪を耳に掛けて、頬と首筋を露わにする。

「うわっ、シリルこそ、そんな趣味あったんだ?ユーリの美しさを露わにしてどうするつもり?」

「まだまだだよ。後はシャツのボタンを1つ外して、首筋から胸元を見せる感じかな‥。」

 こだわりの強さと有能さを併せ持つシリルによって、ユーリは色気をダダ漏れさせられている。

「ちょーっと待ったーっ!これ以上は、ユーリのパートナーの権限で止めさせて頂きますっ。」

 ユーリの了解無しに、これ以上の色気を盛ることは出来ない。

 今の姿でさえ、写真の流出でもしようものなら、イシュタニア国でのユーリ争奪戦に違う意味で拍車がかかってしまう。

「え?つまんない‥。ミツリちゃんは綺麗な物が見たいでしょ?あっ、そうか!綺麗さで言えば、僕もユーリには負けていないよね。」

 シリルが良い事を思い付いたとばかりに満面の笑みを浮かべている。

「僕さ、魔術を操るのに結構体を鍛えてるんだよね。すっごく綺麗だから見せてあげるよ。」

 変な所でユーリへの対抗心を燃やしてしまったのか、シリルは自分のシャツのボタンに手を掛けた。

「待ったーっ!シリルが綺麗なのは分かってるから。脱がなくてもメチャクチャ綺麗だから!」

 シリルは少しつまらなそうな顔をすると、「もう一回言って。」とおねだりをしてきた。
 こういうシリルは面倒くさいけど、放っておくと余計にこじらせそうで、放って置けない。

「シリルはすっごく綺麗だよ。本当に顔も体も綺麗だから‥。」

 そう言った瞬間、ユーリの閉じていた目が開き、アイスブルーの瞳と目が合った。


 ◇


「シリルっ!いつからユーリが起きてるって気付いてたの?!ワザとあんな事を私に言わせるとか、酷すぎる!」

「ミツリちゃんがユーリばっかり見てるからだよ。僕という美しい人が近くにいるのにさ。」

 拗ねたシリルは面倒だ。
 何を仕掛けてくるか分からない。

「あの時は寝てるユーリが珍しかっただけでしょ?!ユーリも起きてから何か機嫌悪そうだし‥。」

 シリルは、ユーリが起きそうなのが分かっていて、私にもう一度言わせたらしい。

 私がシリルの容姿を称賛している所をユーリが偶然見てしまった、みたいな感じになっていて、すっごく居心地が悪い。

「ごめんね、ちょっと悪ふざけが過ぎたね。ミツリちゃんがいつもと違う事してたから、つい虐めたくなっちゃった。」

 シリルは多分、全く反省はしていない。

 こんなシリルだけど、私達を騙す事はあっても、結局、裏切る事はないのだろう。
 私はいつの間にか、そう思うようになっていた。
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