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現る
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「ミツリさんっ、ヤバそうな人が、下のエレベーター前で倒れてた!」
今日も絶好調なくらいに簡潔な言葉を使う蓮くんが、『がらんどう』に来るなり大声で呼びかける。
バージョンアップした腕輪のおかげで私の瞳の色も元に戻り、ユーリも各有力者からのオファーへの返答も落ち着いた、そんなタイミングだった。
もう、これ以上の騒動は遠慮したいと思っていた矢先にこれである。
「蓮くん久しぶりっ!ヤバそうな人ってどんな感じっ?!今すぐ警察か救急車呼ぼうか?」
店内の長い通路を真っ直ぐに駆け抜け、急いで蓮くんの側に行く。
もしかしたら急病人かも知れないので、直ぐにでも状態を確認したい。
「救急車はいるかもしれません!でも何か、違う感じもするというか、とりあえず来てくださいよっ。男の人だからユーリさんも!」
いつものように店内の奥まった場所で、事務机を前に作業しているユーリが、分かったとばかりに片手を上げる。
蓮くんと一緒にエレベーターで1階まで降りると、確かに、壁にもたれ掛かるようにして男性が倒れていた。
壁を背にしているので表通りからは見えづらく、このビルに用事がある人でなければ気付くことはないだろう。
「あのー、大丈夫ですか?どこか痛みますか?」
驚かさないように、男性の正面にひざまづいて声をかける。
男性は息も浅く、苦しそうに顔を歪めている。
「この人、ミツリさんの国の人って事ないですか?着てる服とか何か違うし、薄っすらとですけど普通の人に無いキラキラした物が飛んでるんで。」
キラキラした物‥?
蓮くんが言うのなら、きっとそうなのだろう。
だがそうだもして、なぜこんな所にイシュタニア国の人が倒れているのだろう?
不可思議ではあるが、今はとにかく医師に診せなければ。
イシュタニア国まで連れて帰るか、いや、医師を派遣してもらうのが良いのだろうか?
瞬時にアレコレ考えていると、背後からボソッとユーリの声が聞こえる。
「カイゼル‥か?まさか、逃げてきたのか‥?」
ユーリが深刻な顔で目の前の男性を見ている。
新たな騒動の幕開けらしい。
◇◇◇
ユーリが転移陣を使い、倒れていた男性を4階の空き部屋へと連れていった。
私と蓮くんは普通にエレベーターを使い、4階へと急ぐ。
合鍵を使いドアを開けると、どこから集めて来たのか、家電やパソコン、スマフォやタブレット端末などが、玄関から廊下へと所狭しと並べられている。
「しまった!リチャードから目を離しちゃった!」
実はシリルが別件の仕事で1週間程前、イシュタニア国に帰ってしまったのだ。
その為、私の身代わりとなる魔導具の製作は、シリルが戻るまで一旦休止となっている。
その間リチャードは日本観光だと言って、方々出歩いているなと、そう思ってはいたけれど‥。
「リチャード!リチャード?!」
呼びかけても返事は無し。
おそらく居ないのではなくて、部屋に閉じこもって何かに夢中になっているのだろう。
現に、一足しかないリチャードの靴は玄関に置いてある。
「蓮くん、ちょっと不思議なおじさんが今、この階に住んでるんだ。もし会っても驚かないでね。」
蓮くんはゴクリと唾を飲み込んで、「分かりました。」と深刻な表情をしている。
いや、そこまで大した事ではないのだけれど、蓮くんだから何が見えてしまうかは分からないからね‥。
奥の部屋のドアが開き、ユーリが手招きする。
あの男性が寝かされているのだろう。
蓮くんと2人、連れ立って部屋の中に入る。
先程の男性は、さっき見た時より幾分か顔色が良いようだ。
「ユーリ何かした?今はそれ程苦しく無さそう。」
「魔力切れの可能性が高かったから、とりあえず少しだけ私の力を流した。だが、もし毒でも盛られていたら、直ぐの回復とはいかないだろうな。」
男性は苦しそうには見えないものの、まだ寝たきりだ。
何があったのか聞ける状況ではない。
「名前を言っていたけど、ユーリの知り合い?」
気になっていた事を尋ねてみる。
状況把握は早い方が良い。
「あぁ。私が知っている人物と瓜二つという訳で無ければな。彼は現国王、私の父の側妃の子。私の腹違いの兄弟だ。」
髪の色も目の色も、顔つきもユーリとはまるで違う。
「へ?兄弟って事は王子様ってこと?」
ユーリが一瞬、もの凄く嫌そうな顔をした。
この男性もユーリも、王子様と言う柄ではない。
「対外的にはそうなるな。だが、私もカイゼルも王位継承権からは遠い身だ。国の仕事に関わってはいるが、公務は多くない。私は特に、だがな。」
こんな異世界の日本までやってきて倒れているなんて、どんな王子様だ‥。
関わり合いになんてなりたくは無いが、病人らしき人を追い出すわけにはいかない。
まして王族ならなおさらだ。
「また、面倒くさい事になったね‥。」
「全くだ。」
ユーリも間髪入れずに同意している。
おそらく、この人物自体が面倒くさい奴なのでは無いのか?
一抹の不安が頭をよぎる。
この男性には早く元気になってもらって、直ぐにでもお帰り頂かなくては。
”ガタタンッ、ゴトンッ”
隣の部屋から何やら騒ぎしい音が聞こえてくる。
リチャードは本当に何をやっているのだろう?
一難去ってまた一難どころか、三難くらいは余裕でやって来そうだ。
私は大きく溜息を吐いた。
これじゃユーリみたいだな。
今日も絶好調なくらいに簡潔な言葉を使う蓮くんが、『がらんどう』に来るなり大声で呼びかける。
バージョンアップした腕輪のおかげで私の瞳の色も元に戻り、ユーリも各有力者からのオファーへの返答も落ち着いた、そんなタイミングだった。
もう、これ以上の騒動は遠慮したいと思っていた矢先にこれである。
「蓮くん久しぶりっ!ヤバそうな人ってどんな感じっ?!今すぐ警察か救急車呼ぼうか?」
店内の長い通路を真っ直ぐに駆け抜け、急いで蓮くんの側に行く。
もしかしたら急病人かも知れないので、直ぐにでも状態を確認したい。
「救急車はいるかもしれません!でも何か、違う感じもするというか、とりあえず来てくださいよっ。男の人だからユーリさんも!」
いつものように店内の奥まった場所で、事務机を前に作業しているユーリが、分かったとばかりに片手を上げる。
蓮くんと一緒にエレベーターで1階まで降りると、確かに、壁にもたれ掛かるようにして男性が倒れていた。
壁を背にしているので表通りからは見えづらく、このビルに用事がある人でなければ気付くことはないだろう。
「あのー、大丈夫ですか?どこか痛みますか?」
驚かさないように、男性の正面にひざまづいて声をかける。
男性は息も浅く、苦しそうに顔を歪めている。
「この人、ミツリさんの国の人って事ないですか?着てる服とか何か違うし、薄っすらとですけど普通の人に無いキラキラした物が飛んでるんで。」
キラキラした物‥?
蓮くんが言うのなら、きっとそうなのだろう。
だがそうだもして、なぜこんな所にイシュタニア国の人が倒れているのだろう?
不可思議ではあるが、今はとにかく医師に診せなければ。
イシュタニア国まで連れて帰るか、いや、医師を派遣してもらうのが良いのだろうか?
瞬時にアレコレ考えていると、背後からボソッとユーリの声が聞こえる。
「カイゼル‥か?まさか、逃げてきたのか‥?」
ユーリが深刻な顔で目の前の男性を見ている。
新たな騒動の幕開けらしい。
◇◇◇
ユーリが転移陣を使い、倒れていた男性を4階の空き部屋へと連れていった。
私と蓮くんは普通にエレベーターを使い、4階へと急ぐ。
合鍵を使いドアを開けると、どこから集めて来たのか、家電やパソコン、スマフォやタブレット端末などが、玄関から廊下へと所狭しと並べられている。
「しまった!リチャードから目を離しちゃった!」
実はシリルが別件の仕事で1週間程前、イシュタニア国に帰ってしまったのだ。
その為、私の身代わりとなる魔導具の製作は、シリルが戻るまで一旦休止となっている。
その間リチャードは日本観光だと言って、方々出歩いているなと、そう思ってはいたけれど‥。
「リチャード!リチャード?!」
呼びかけても返事は無し。
おそらく居ないのではなくて、部屋に閉じこもって何かに夢中になっているのだろう。
現に、一足しかないリチャードの靴は玄関に置いてある。
「蓮くん、ちょっと不思議なおじさんが今、この階に住んでるんだ。もし会っても驚かないでね。」
蓮くんはゴクリと唾を飲み込んで、「分かりました。」と深刻な表情をしている。
いや、そこまで大した事ではないのだけれど、蓮くんだから何が見えてしまうかは分からないからね‥。
奥の部屋のドアが開き、ユーリが手招きする。
あの男性が寝かされているのだろう。
蓮くんと2人、連れ立って部屋の中に入る。
先程の男性は、さっき見た時より幾分か顔色が良いようだ。
「ユーリ何かした?今はそれ程苦しく無さそう。」
「魔力切れの可能性が高かったから、とりあえず少しだけ私の力を流した。だが、もし毒でも盛られていたら、直ぐの回復とはいかないだろうな。」
男性は苦しそうには見えないものの、まだ寝たきりだ。
何があったのか聞ける状況ではない。
「名前を言っていたけど、ユーリの知り合い?」
気になっていた事を尋ねてみる。
状況把握は早い方が良い。
「あぁ。私が知っている人物と瓜二つという訳で無ければな。彼は現国王、私の父の側妃の子。私の腹違いの兄弟だ。」
髪の色も目の色も、顔つきもユーリとはまるで違う。
「へ?兄弟って事は王子様ってこと?」
ユーリが一瞬、もの凄く嫌そうな顔をした。
この男性もユーリも、王子様と言う柄ではない。
「対外的にはそうなるな。だが、私もカイゼルも王位継承権からは遠い身だ。国の仕事に関わってはいるが、公務は多くない。私は特に、だがな。」
こんな異世界の日本までやってきて倒れているなんて、どんな王子様だ‥。
関わり合いになんてなりたくは無いが、病人らしき人を追い出すわけにはいかない。
まして王族ならなおさらだ。
「また、面倒くさい事になったね‥。」
「全くだ。」
ユーリも間髪入れずに同意している。
おそらく、この人物自体が面倒くさい奴なのでは無いのか?
一抹の不安が頭をよぎる。
この男性には早く元気になってもらって、直ぐにでもお帰り頂かなくては。
”ガタタンッ、ゴトンッ”
隣の部屋から何やら騒ぎしい音が聞こえてくる。
リチャードは本当に何をやっているのだろう?
一難去ってまた一難どころか、三難くらいは余裕でやって来そうだ。
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