魔導具なら買い取ります!古道具屋『がらんどう』

なかな

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3兄弟(ユーリ視点)

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 急ぎエレベーターに乗り3階で降りると、目の前に兄達が居た。

 イシュタニア国の仕立ての良い刺繍入りのジャケットにブラウス。
 センタープリーツがきっちりと入った質の良いウールのパンツに、磨き抜かれた革靴を履いた気品溢れる姿の兄達だ。

 目の前の扉が左右に開き、突然、私が現れたので3人が共に目を丸くして驚いている。

 あぁ、兄達はエレベーターを知らなかったか‥。

 自分も、日本に来た初めの頃は、慣れない生活機器に驚いた事を思い出す。

「兄上、ようこそいらっしゃいました。まずは、あちらの部屋にお戻り下さい。」

 とりあえず、コイツらの話を聞くしか無い。



 『がらんどう』の入口にある自動ドアは、電源を切っていたので、無理やり押し開いて通ったようだ。
 自動ドアに付いた手回しの鍵を開けられるくらいには知恵が回るのだと、心なしかホッとする。

 店内の細長い通路を4人1列に並んで歩き、奥にあるソファーを進めると、3人並んでギュウギュウに詰めながら上座のソファーに座った。

 だから頭の中身が硬い奴らは嫌なんだっ!

 かしこまって育てられた兄達は、形式にこだわり過ぎる所がある。
 私よりも地位が上だと、よっぽど知らしめたいのだろう。

 私は向かい合った下座側のソファーに、1人ゆったりと座る。

 兄達を立てる為、私は先に口を開かずにとりあえず待ちの体制だ。

「‥‥‥。」

「‥‥‥。」

「‥‥‥。」

(誰も喋らんのかっ!!)

 3人が、共に押し黙り肘で小突きあっている。

 あーっ!誰から何を話すか、先に決めてから来いっ!!!

 また、カイゼルとは違った意味で面倒な奴らだ。
 


 ◇◇◇



 覚悟を決めたように、第1王子であるイェデンが口を開く。

「ユーリよ‥久しいな。私達がここに来た理由は、既に分かっているだろうが‥。そう、ユーリを、助けたくてな。」

 はっ?
 これは思っても見なかった‥。
 どんなシナリオを練ってきたんだ?!

「ユーリはカイゼルに騙されている。奴がどういう奴かは身を持って知っているだろう?」

 イェデンが静かに、諭すように語りかけてくる。

「そ、そうなんだ!ユーリはいつもカイゼルから嫌がらせを受けていただろう?私は見ていたっ!ユーリがパブリックスクールに入りたての頃、歌劇の人気女優の奇抜な絵姿を、カイゼルがユーリのノートに挟んでいた所を!」

「ぐっ!」

 あ、あれはカイゼルの仕業だったのか!?あのノートを教官に提出して、生温かい目で見られた事は、今でも生々しく残る痛い記憶だ。

 第2王子ドゥヴァの激白に、私の動悸は激しくなる。
 落ち着け、おそらくこれは奴らの作戦の内だ。

 ドゥヴァの言葉に被せるように、第3王子のトゥシュが息急き切って話し出す。

「そうそうっ!それにカイゼルは言っていたんだ。ユーリさえ居なければって。ユーリさえ居なければ、俺が1番強かったのにって。ユーリが居るから兄弟の誰が努力をしても、1番にはなれない‥って。」

‥‥‥。

心の中で、何かが静かに壊れていく音がした。



 ◇◇◇



「そうか。カイゼルに利用されている私への警告として、今回は兄上3人揃って、わざわざ異世界の日本までやってきたと言う訳、か。」

 3人はまだコソコソと小突き合いながら、狭いソファーに並んで座っている。

 話にならん‥。

 人の過去の悪行をバラし、それで正義を行使したつもりでいるのか?

 何の解決にもならない下らない話なら、胸のうちに秘めておけば良いものを。

 小物だな。
 善悪の区別も付くかどうか分からぬ小物だ。

 カイゼルは少なくとも、善悪は分かっている。
 その上で、悪を手段として使うことさえする、大局を見られる人間だ。

 兄達とカイゼル、勝敗は決まった。

 どう考えても兄、王位継承権1位のイェデンは王の器では無い。

 今まで明言は避けてきたが、これでカイゼル側に付く決心がついた。

「兄上方、私は国王の意見に従おうと考えております。国に戻り、正式な決定が出るのを待っては如何か?」

 国王は今頃、カイゼルに痛い腹を突かれ、王位を手放すよう決断を迫られているだろう。

「それでは、間に合わないでは無いか!ユーリ、私達の言っている事が分からないのか?!」

 助けたいと言ったかと思えば、次には脅してくる。
 私にこれ以上、情けない姿を見せないでくれ。

「これが、最後だと思って答えてくれ。ユーリ、カイゼルの事は無かった事にして、これからは私に尽くせ。私の世に貢献すると誓い、父、国王にそれを示し、カイゼル廃嫡に力を貸せ!」

 イェデンの目が血走っている。
 後もなく追い詰められていることには同情するが、この兄では、国王の重責に耐えることは難しいだろう。
 兄の先々を思っても、私の決断は1つしかない。

「断る。」

 そう言った瞬間、隣に座るドゥヴァが、私の目前に、見た事のある魔導具を突きつけた。

 これは‥。

 そう思った瞬間、意識が薄れ、頭にモヤが広がった。
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