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なかな

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ユーリの記憶を取り戻せ!2

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 部屋が、やけに静かに感じる。

 今さっきまでそこにいたユーリは、まるで嵐のように通り過ぎ、大切な物を消し去っていった。

「ねぇ、説明させてくれる?」

 シリルがそう言い、私に手を差し出す。
 急に立ち上がると目眩がしそうだが、ずっと座り込んでもいられない。

「ありがとう‥。」

 シリルの手を借りて起き上がり、そのまま手を引かれてソファーへたどり着く。

 珍しく真面目な顔をしたリチャードと2人、並んでソファーに腰掛けた。

 シリルはダイニングセットの椅子を運び私達の前へ置くと、向かい合うように座った。

「それじゃ、かいつまんで話すから、後で分からない事があったら質問してね。」

 シリルはそう言うと、長い足を組み話し始めた。

「元はと言えば、僕が作った記憶を消す魔導具。あれに殿下達が目をつけたのが原因だったんだ。この間の眼鏡くんの事件で、特別警備隊が使ってたでしょ?何処からか、話を聞きつけたらしくて。」

 記憶を消す魔導具は、魔術界の禁忌を犯して作られた物なので、イシュタニア国内で知る人は、それを扱う関係者や国王くらいだろう。

「何を思ったのか、あのドゥヴァ殿下から僕に内々に依頼がきてね。記憶を消して、なおかつ新しい記憶を植え付ける魔導具を作れないかって。」

 ドゥヴァ殿下は確か第2王子だ。
 そんな怪しげな魔導具を欲しがるなんて、公になったら罪を問われてしまうだろう。

「僕もそんな怪しい物を、個人からの依頼で作る訳にはいかないからさ。一応断りはしたんだけど保険を掛けたんだよね。」

「保険?巻き込まれないように、依頼の証拠でも消したの?」

「いや、その逆さ。別にドゥヴァ殿下に義理はないから、その依頼書は大事に保管してあるよ。いつか彼らを追い落とす有効なカードになるからね。保険と言ったのは、とりあえず似たような魔導具を渡してご満足頂いたと、そういう事さ。」

「似たような魔導具ってまさか、シリルは殿下に記憶を消す魔導具を渡したの?!」

「ちょっ、もう少し話を聞いて!ミツリちゃん!僕、ミツリちゃんに嫌われたくないから!」

 私どころか、リチャードまで珍しくしかめ面だよ。

「あのね、これには理由があるんだ。僕に魔導具の作成を断られたドゥヴァ殿下はきっと、力に物を言わせて特別警備隊の方から魔導具を手に入れるでしょ?記憶の改ざんは出来なくとも、記憶の消去だけで時には有効だから。」

 確かに、立場的に追い詰められた殿下達は、使える物なら何でも欲しいだろう。

「殿下達があの魔導具を手に入れて、カイゼルやユーリに使われたらどうする?あの魔導具は人の情報を消すんだ。見た人、知っている人、特定の人の情報を示して、その人にまつわる記憶を封印する。」

 記憶の入口を隠すという発想か‥。
 消すと言うより封印。

「特定の、今回ならユーリからカイゼルの記憶が消えていたでしょ?そこでもし、ユーリの記憶の中にミツリちゃんが残っていてごらん?兄殿下達の圧力の元で、ユーリがミツリちゃんの秘密をバラしてしまうかもしれないよ。」

「記憶を無くしてもユーリはユーリだっ!そんな馬鹿な事はしないっ!」

「そうだね。でも、僕はそうは思わなかったから、ドゥヴァ殿下に渡した魔導具には特別な効果を加えた。魔導具が使われる時は、必ずミツリという人物の記憶も、一緒に消える。」

 ‥‥‥。

 知らない内に溢れ出した涙が、頬を伝っていく。
 目の前のシリルの顔がユラユラと涙で歪み、彼が今、どんな表情なのかも分からない。

「ユーリは賢いから、国王に過ぎる浪費癖がある事も、兄殿下共が愚鈍で視野の狭い人間だと言う事も、重々分かっているはずなんだよ。だからこそ、イシュタニア国を守る為にミツリちゃんの事を、黙ってはいられないと、僕は思う。」

 そうだ。
 確かにユーリはいつも、より確実な手段を選んでいく。
 カイゼル殿下との記憶が消えたとしたら、選ぶとしたら国の再建。

「シリルは、殿下達が魔導具を使うのが分かっていて、それを止められ無かったの?」

「それを言われちゃうと辛いんだけど、殿下達が魔導具を使うかどうかは、僕のコントロール下ではないからね。僕が渡さなくても殿下達は魔導具を手に入れただろうし。ただ、こうして使った後なら、法に触れた殿下達を罪に問える。」

 今まで静かに聞いていたリチャードが、解決の糸口を手繰るように、発案する。

「ユーリ殿下の記憶が消されている事をまず、国王様とカイゼル殿下に知らせようか。あの3人の殿下よりも早く、伝える方法って、ある??」

「‥‥‥ある、よ。あーっもう、知られたく無かったんだけど、ここでこれを使ってみせないと、僕って最低最悪な自分を嫌いになっちゃう。‥‥新しい、未公開の魔導具、見る?」

「見る!」
「もちろん!」

 私とリチャードは言葉こそ被らなかったが、思いは一緒だ。
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