魔導具なら買い取ります!古道具屋『がらんどう』

なかな

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戦い、その後

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*****

『こちら新宿駅南口です。あちらに見える新宿御苑から煙が登っていると昨晩消防に通報があり、警察、消防共に現場に向かったところ、何故か入り口の鍵が壊され開かない状況だったようです。その他、多くの光が近隣ビルの住民や歩行者からも目撃されており、何らかの人為的な破壊行為や放火などが疑われています。苑内の防犯カメラには特に不審な人物は映っておらず、時折映像が乱れている事から、特殊な機器による妨害があった可能性も考えれ、厳重に捜査が進められているという状況です。以上、現場から‥‥。』


◇◇◇

 案の定、翌朝のテレビや報道は、御苑内で起きた騒ぎで持ちきりだった。


「あー、これは問題だね。イシュタニア国に持ち帰る案件だ。」

「シリル、そう言ってくれるな。これは不可抗力だ。時期国王の私が言っているのだから間違いない。」

 ユーリが結界を張ってくれたおかげで、父ランドールの攻撃で崩壊する建物もなく、もちろん近隣への被害も出なかった。
 入り口の鍵は壊していないが、普通の人は結界内に入る事が出来ないので、そう受け取られたのだろう。
 防犯カメラが結界の影響を受けて正常に動いていなかった事は幸いだった。


「今回の事は私にも責任がある。何らかの形で罰は受けよう。」

 ユーリは昨日の出来事を重く受け止めていて、気鬱な雰囲気だ。

「まぁ、カイゼル殿下がこう言ってるんだから、ユーリは気にしなくて良いんじゃない?」

「シリルは黙っていてくれ。目覚めてから何故か私は気分が悪い。悪いが少し休む。」

 ユーリはそう言って、自室に篭ってしまった。

「あーぁ、気難しい男は大変だね。記憶どころか自分の事も分かんないんじゃない?」

「どういうこと?」

「さっきさぁ、目が覚めたユーリが、ミツリちゃんの部屋に様子を見に来たじゃない?その時さ、僕がもの凄ーく眠かったから、ミツリちゃんが寝ているベットに潜り込んで、一緒に寝てたでしょ。」

「あぁ、あれね。私も目が覚めたら横にシリルが居たから、すっごく驚いた。」

「ミツリちゃんは昨晩冷え切っちゃてたし、僕が隣で寝てたら暖かいから、まぁ良いかと思って、横で寝てたんだけど、見つけたユーリがすっごいショックみたいな顔しててさ。」

「そうなんだ。確かにシリルと一緒に寝てるとか訳わかんないもんね。」

「うーん。訳わかんないというか、その辺りなんだよね。普通に怒ったりからかったりしてくれたら良いのに、何でそんなに真に受けてるのか。記憶を無くしても変わらないとかねぇ‥これってどう言う事だろう?」

「ユーリの事は分かったふりしないって決めたから、ノーコメントで。」

「そうなの?ユーリが分かってもらいたいのは、ミツリちゃんなのに。上手くいかないよね‥。」



 ◇◇◇



 午後になり私の体力も回復してきたので、4階にいる父の様子を見に来た。

 ユーリのような魔力切れではなく、低体温になり動けなくなってしまった事が気にかかる。

「リチャード、入っても良い?」

 玄関は空いており、声をかけると奥から「はーい、どうぞーっ。」と、リチャードの声がする。

 そろそろと廊下を歩き、奥の部屋まで行こうとすると、
 ″ガチャッ″
 ドアノブの回る音がして、近くのドアが開いた。

 明るい照明の元で初めて顔を合わせる。

「お、父さん?もう、大丈夫なの?」

「ああ。体は無事だが、腹が減った。」

 リチャードから借りたのか、洗いざらしのパジャマを着ている。
 邪気が程よく抜けて、昨日とは別人のようだ。

 無事だと言っている父だが、水竜から逃げる時にでも負ったのか、顔や手にいくつかの生々しい傷が見える。
 削られたように並んだ線の傷跡は、もしかしたら水竜の爪痕かもしれない。

「とりあえず、食えるもんなら何でも良い。」

「そう。食欲があって安心した。」

 廊下の奥から、疲れた表情のリチャードがノロノロと現れた。
 見た目だけならば、父の方が元気そうだ。

「ミツリ、ランドールに食事を与えると、もうここには用が無いとか言って、多分、いなくなる。」

「ええっ?!」

「食事を出す前に、色々と約束事を決めて、次の予定を立てさせよう。ここに居る理由を分からせるんだ。」

「ちっ、余計な事を言いやがって。」

「うんにゃ、ゼーったい必要だ。居なくなって、余程の理由がなければ帰ってこない。そうに決まってる。」

「それじゃ駄目なのかよ。」

「‥‥、駄目だよ、お父さん。」




「はーいっ、それじゃ僕から行くね。ランドールは、ミツリが王宮に行くまで、護衛として付いていること。ユーリ殿下がいるけど、まだ記憶が戻っていないし若干不安定だから、ミツリに張り付いといてよ。」

「王宮に行くことを俺はまだ認めていない。ミツリが自由に生きられると確約できるまで、俺は王宮行きを阻止してやる。」

「まぁ、そういう理由でミツリの護衛をしてたら良いんじゃない?カイゼル殿下とユーリ殿下に交渉してみてね。はい、次ミツリ。」

「私も、それで良いや。身代わりの魔導具が完成して、私のシードとしての仕事がはっきりしたら、魔導具師の仕事と二本柱で頑張るつもり。私は魔導具師としても、シードとしても頑張りたいと思ってる。」

 父が一瞬、目を見開いた後、ニヤッと笑った。

「それでこそ俺の娘だな。絶対諦めるなよ。」

「娘、娘っていう割には、私は全然育てられた覚えないんだけどね。私の育ての親はリチャードだよ。」

「ぐっ。」

「どうして会いに来てくれなかったの?魔石を届ける時も、会ってくれなかったじゃないっ。」

 ずっと、気になっていた事だ。
 娘に会いたいという気持ちさえ、魔王と呼ばれる父には無かったのだろうか?

「任せたから‥。リチャードに任せたから、俺は必要ないと思った。」

「は!?」

「俺は、一緒に暮らせないし、時々しか会えないから、邪魔なんじゃないかと、そう思っていた。」

「ばっ‥。」

 また、馬鹿じゃないの?って言いそうになってしまった。
 多用して良い言葉じゃ無いな。

「俺は、ミツリに会っても怖がられると思っていたし、恐怖を植え付けるくらいなら、会わない方が良いだろう?」

「私の気持ちまで決めないでよっ!全然怖くなんてないから!」

 なんで勝手に決めちゃうのだろう?
 私は、お父さんの気持ちが、そのまま欲しかっただけなのに。

「俺はミツリが元気なら、それで良い。会いに行くとか行かないとか、そういうのは、正直どうでも良いんだ。」

「それじゃ、このまま私に会えなくなっても大丈夫ってこと?」

「‥‥ああ、そうだ。」


「とりあえず、ご飯にしよっか?」

リチャードが助け舟を出してくれた。
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