魔導具なら買い取ります!古道具屋『がらんどう』

なかな

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散る2

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「よぉっ!ミツリちゃんっ。リチャードもイシュタニアに戻ったんだってな?シリルから連絡もらって聞いたんだ‥。それはそうと、正式にこっちに来てもらう日が決まったぞ!2週間後に正式に迎えを寄越すから『身代わりの魔導具』と共に、こちらに来てくれ!護衛はこちらからも出すが、ランドールとユーリがいるからまず問題はないな。
 それじゃ、ミツリちゃん。再会を楽しみにしているっ!」

 相変わらずのカイゼル殿下だった。

 ユーリにはイシュタニア国より書類が定期的に送られてきているので、きっと、スケジュールは把握出来ているはずだ。

 ユーリの記憶が戻らないまま、この時を迎えてしまった。

 ユーリはカイゼル殿下を思い出したというのに、私の事は全然なのだ。
 そもそも、私の記憶を取り戻す気はあるのだろうか?

 私とはいつも一定の距離を保ち、近づくのを避けているような気さえする。
 記憶を取り戻したくない理由でも、実はあるのかもしれない。

 振り返ってみれば、私はいつもユーリに無理ばっかり言っていたし、実は『神の蒔きし種』でした、なんて爆弾までも抱えていたのだ。

 その所為で、ユーリが苦しんでいたのも事実だし、もしかしたら、心の奥深くで思い出したくない記憶になっているのかも‥。

 今更、悔やんでも始まらない。
 でも、ユーリが忘れたままで居たいなら、それを尊重しようとは思う。

「はぁーっ。」

 抱えていた問題が次々と片付いたはずなのに、何だかスッキリしない。

 取り残されたような寂しさが、私に付きまとって離れない。



 ◇◇◇



 翌朝いつものように5階へ行くと、いつも座っているダイニングの椅子に、ユーリの姿が無かった。
 珍しく、寝坊でもしているのだろうか?

 特に急かす必要も無いので、ユーリがいない中、勝手にキッチンで食事の準備をする。

 いつも居るはずのユーリの姿が無いだけで、妙に静かだ。 

 ユーリは記憶を失ってから私に話しかける事が殆ど無くなったけど、元々無口だから余り気にしていなかった。

 私は最近、ユーリと何を話しただろう?
 思い当たる事はと言えば、何を食べるかとか、必要最低限の事ばかり。

 ユーリが私を避けているからって、私も対話から逃げていなかっただろうか?

 ‥‥‥。

 間違い無く、私は逃げていた。
 私を思い出せないユーリが、困惑しつつ距離を取るのが、悲しかったのだ。

 逃げたところでどうなる訳でも無いのに、時間が解決するとうそぶいて、ユーリと向き合う事を避けていた。

 私はユーリに沢山助けてもらってきたのに、戸惑うユーリから、目を逸らしていた。

 心に大きな罪悪感がのしかかる。

 ユーリは、何を思っていた??

 余りにも静か過ぎる室内に、嫌な予感がする。

 まだ寝ているかもしれないけど、私はこの不安を払拭したくてユーリの自室のドアへ向かった。

″ ドンッ、ドンッ、ドンッ ″

「ユーリっ!おはようっ、朝だよっ!ご飯にするから起きなよっ!」

 激しくドアを叩き、叫ぶような大声を出しても返事は無い。

「ユーリっ?入るよっ?」

 私はドアノブを回して、ユーリの部屋を覗き見る。

「ユーリ?!」


 ユーリのベッドには丁寧にカバーが掛けられ、服や私物も綺麗に無くなっていた。



 ◇◇◇



「お父さんっ、大変っ、ユーリが居ないっ!」

 私は4階でまだ寝ていた父を揺り起こした。

 面倒臭そうに、薄めを開けた父は一言、

「ほっとけ。」

 と言うと、また眠りに就こうとしている。

「だから起きてって言ってるでしょ!?どうしよう、カイゼル殿下に報告したら良い?」

 父はまだ眠いのか、目を開けるのも億劫そうだ。

「ユーリが決めた事だろう?拐われた訳でも無いなら、放っておく他無いだろ?」

 父は当たり前の事を聞くなとばかりに、ため息混じりで返してくる。

「それで、大丈夫なの?」

「知らん。」

「‥‥、お父さんに聞いた私が間違いだったよ。」

「そうか?俺は一つの真理を言ったまでだ。」

 私には今、的確なアドバイザーが居ない‥。


 ◇

 少し気持ちを落ち着けた後、やっぱりカイゼル殿下には報告をする事にした。
 状況を伝えておいた方が、後々スムーズに事も運ぶだろう。

 何度か通信機で連絡をしたが、カイゼル殿下に繋がらない。
 忙しい身だろうから仕方がないと諦めた昼下がり、カイゼル殿下の方から連絡が来た。


「ミツリちゃん?何度も連絡くれたのに出られなくて済まない‥。
 
 そうか。やっぱりな。私の方には番人を降りると、正式な文書が届いていた‥。

 そうだ。もう、昔ながらの番人の仕事は無いからな。シードへの取り次ぎ役も必要無ければ、特殊な魔術でシードを眠らせる事も無い。番人という名は残るが、専属の護衛として側に居れば良いだけだ。

 あぁ、それはな、ミツリちゃんの父親、ランドール殿が適任だと思っている。国としても、ランドールを王宮に縛り付けておく、良い口実になるからな。

 ユーリは‥、そうだな。今まで番人という名に縛られていたし、少し自由にしてやろうと思っている。

 それでユーリは良いのかって?
 知らん。そこまでは分からんな。」


 どうして誰も、ユーリを引き留めようとしないのだろう。
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