魔導具なら買い取ります!古道具屋『がらんどう』

なかな

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涙の後は

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 私の涙が止まるまで、ユーリは私をコートの中に隠してくれた。

 全速力でここまで走ってきて、今度は力一杯に泣いて、もうヘトヘトだ。

「ユーリ、もう本当に疲れちゃった。帰りは転移でも良い?」

 ユーリをタクシーのように使う自分は、やっぱり我儘なのだと思う。

「もちろんだ、私もこの時間帯の電車には乗りたく無いからな。」

 そういうユーリもまあまあ我儘だ。

 そもそも、日本暮らしに慣れていない2人が都市部に住んでいるのだから、無理があっても仕方がない。


「帰る前に、1つ誓っても構わないだろうか?」

ユーリがどこか遠くを見ながら不思議な事を言う。

「誓うって、何を?」

「私が今こうして記憶を取り戻せたのも、ミツリにした約束があったからだと思うんだ。きっと私はこれからも迷ったり、判断を間違える事があると思う。だから、今、ここで誓って、いつかの私の為に揺るがない物を残したい。」

「ふーん、そうなんだ。別にいいよ、私が聞くので良ければ。で、何を誓うの?」

「‥‥‥私は、生涯、ミツリの、世話を焼く事を、誓う。」

「‥何それ?」

「さっき、面倒見ろって言ったのはミツリだろ?」

「それはそうだけど‥、誓うこと?それ?」

「あぁ、私にとっては大事な誓いだ。」


 ユーリはそう言うと、私の手を引いて、転移する場所を探し始めた。

 日も沈み始め、辺りは薄っすらと夕闇に包まれている。
 園内のライトも方々に灯り、人目を避けて転移できる場所は思うように見つからない。

「あそこにしよう。」

 高い壁で覆われた特設スペースの向こう側が、人通りも無く転移に良さそうだ。

 ユーリは転移用の指輪を確認すると、私を引き寄せた。
 人目に付かないよう、壁面ギリギリの位置で私を抱き寄せる。

「そういえば、さっきの返事をもらってないな。ミツリは、私が生涯世話を焼き続けても良いのか?」

 何も、こんなタイミングで聞かなくても良いものを‥。
 私の反応が悪かったから、不安にでもなったのだろうか?

「うん、いいよ。是非お願いするよ。私の世話を焼けるのはユーリくらいだからね。」

 私がそう言うと、ユーリの透き通るような淡いブルーの瞳が僅かに揺れ動き、私の視界はユーリの綺麗な顔で埋め尽くされた。

 柔らかな感触が唇に触れたかと思うと、何故かユーリが眉根を寄せて自分の口を手で押さえた。

「‥っ!」

「な、なに?」

「なんだ?これは?俺の魔力じゃ、こうはならない。」

「あっ!」

 私は胸元からペンダントを取り出してユーリに見せた。

「これっ、お父さんが魔力を込め直してくれたんだ。ユーリに近づいてバレちゃうといけないからって。」

「余計な事をっ!いや‥、これは感謝すべきなのか‥。」

 ユーリは深いため息を付くと、私をぎゅっと抱きしめたまま、転移陣を起動した。



 ◇◇◇



 私たちが5階のユーリの部屋に帰り着くと、リビングでは父が暇そうに、床に寝転びながら光の輪を指先で振り回していた。

「遅かったな‥。」

 父は開口一番にそう言うと、突然その光の輪をユーリめがけて投げつけた。

「ミツリに手を、出したな?」

 ユーリは少し驚いたように目を見開いた後、光の輪を手のひらで受けて消し去った。

「だから、なんだ?」

 また、2人がバチバチやり出すのかと見ていると、父が突然立ち上がりユーリに近づいてきた。

「はっ!お前が帰って来たから許してやる。精々、面倒な番人の仕事を、一生懸命するんだなぁ。」

「記憶を失い混乱していただけだ。私は生涯、番人となって生きることを決意した。ミツリから離れることは、決して無い。」

「ほぅ、記憶が戻ったのかよ。全然別人じゃねえか。」


 父はそう言うと、その場で大きく伸びをした。

 その姿が何故かステラさんと被る。

 確かに父は気ままで自由で猫のようだ。
 番人とか魔術師団長とか、役職に縛れるような人ではない。

「ようやく、つまらない任務から解放されるなぁ。あ、ミツリの側に居たのにつまらないとか言ったら、ニコルにドヤされるな‥。ミツリ、時々ニコルに会いに行けよ。もう、ここまで周りが整ったのなら、それも出来るだろ?」

「分かった。」

 父は私には会いに来ないのに、母には会いに行けとか言うんだな。
 身勝手なのは知ってるけど、優しい所だってしっかりある人だ。

 私はこの先父に会えなくても寂しさを抱えずに、無事だけを祈っていられるだろう。

 だけど、やっぱり母ニコルの所には帰って欲しいと思う。
 考える事が一緒だ。やっぱり親子だな。
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