魔導具なら買い取ります!古道具屋『がらんどう』

なかな

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『がらんどう』休店

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 父は、その翌日にはもう居なくなっていた。

 余り日本に執着はなさそうなので、おそらくイシュタニア国に戻ったのだろう。

 通行証を持っているとは聞かなかったけれど、以前、カイゼル殿下が自力で異世界門を渡った話もあるので、どうにか出来ているに違いない。





 シリルが残してくれた通信機で、カイゼル殿下とシリルには直ぐ、ユーリの記憶が戻ったと伝える事が出来た。

 カイゼル殿下は父ランドールが去った事は残念がったが、ユーリが番人で居続けることを、とても喜んでくれた。

 シリルは通信機の向こうで、何故か終始無言だったが、「ふーん、まだ楽しめそうだね‥。僕も本気出すから待っててね、ミツリちゃん。」と謎の言葉を残して、通信を勝手に切ってしまった。


 後は私とユーリが『身代わりの魔導具』と一緒にイシュタニアに移動し、神力を込めて起動させれば、一先ず大きなイベントは終了だ。


 私とユーリはしばらく『がらんどう』を閉めなくてはいけないので、今は魔導具と書類の整理に追われている。





「ユーリっ、これで良いかな?」

 ガラス戸の自動ドアには、

『しばらくお休みさせていただきます。
          がらんどう店主』

 シンプルな貼り紙をしておいた。

 いつか、この貼り紙を剥がすのも私で在りたいと、心から願う。

「うん、良いんじゃないか?前は貼り紙もなかったからな、親切だろ。」

 そう言って貼り紙を眺めるユーリの顔は、とてもスッキリとしている。

 1年前は私とユーリ、それぞれが秘密を抱え、隠れるように異世界日本にやって来たというのに、今ではそれを解消してイシュタニア国に戻ろうとしている。

「ユーリはまた、『がらんどう』で働きたいと思う?」

 気になっていた事を聞いてみる。
 番人であり新しいカイゼル殿下の王政では、重要なポジションを任されそうなユーリの事だ、願っても叶わない事だとは思うのだが‥。

「そうだな、休暇をもらったら日本で『がらんどう』を開くのも良いな。そうしたら、ミツリと2人で過ごせるだろう?」

 そう来るとは思わなかった‥。
 気のせいだと思っていたが、記憶を取り戻してからのユーリは少し、いや大分甘いのだ。

「えっ?それって‥。」

 流石にここまで言われて、気が付かないフリをする気はない。

「2人で生涯、『がらんどう』をやれば良いだろう?手が必要なら、誰かの助けを得れば良い。」

「いや、そういう話では無くて。」

 ユーリは確実な言葉を選ばずに、いつも曖昧な表現をする。

 ただ、直接的な表現をされたら、私も何かしらの答えを探さなくてはいけないから、今はまだ、この状態が有難い。

「私はミツリから離れないって決めたからな。ミツリが望むなら『がらんどう』は生涯2人で管理しよう。助けが必要なら、蓮くんという有望な若者もいるしな。」

「流石に蓮くんを『がらんどう』の社員にするのはどうかと思うよ?保険も完備してないし、そもそも蓮くんが望んでいない物を押し付けたくは無いよ。」

「ちわーっ、ユーリさんとミツリさんに挨拶しに来ましたっ。」

 話をすれば影とはいうが、丁度、話をしていたところで蓮くんがやってきた。

「そうだな、丁度良い、直接聞いてみよう‥。蓮くんは、私たちが忙しくてこちらに来れない時、この『がらんどう』の手伝いをお願いするとしたら、受けてくれるだろうか?」

「そうっすね、良いですよ。俺の家お寺なんで、親に話せば副業させてもらえると思いますっ。」

「本当に?蓮くんは良いの?」

「俺、ユーリさん達と会ってから、すごくやる気が出て来たんです。生きる目標っていうか、やれる事やってみたいなって、そう思えたから‥。『がらんどう』で繋がって行けるなら、全然やってみたいですっ。」

「蓮くんっ、ありがとーっ!!」


 私とユーリは今は日本を離れるけれど、きっとまた『がらんどう』に戻ってくる。
 そうしてこの先も、大切な人達と繋がりながら過ごしていくんだ。




 ◇◇◇




最後まで、ミツリとユーリの物語にお付き合いいただき、ありがとうございました。

『がらんどう』これにて一時休店いたします。


 
 なかな
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