短編集

紫苑色のシオン

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同棲

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 4月8日
 今日からいよいよ新生活が始まる。ずっと憧れていた親元を離れての生活。あの口うるさい母親はいなくてかなりスッキリした。
 7.5帖の1Kに今は私一人。そんなに広いわけではないけど、一戸建ての実家より広く感じる。心持ちのせいかしら。
 大きい荷物は粗方片付けたから残りの細かい荷物は明日片付ける事にしよう。
 大学で友達、どんな人ができるかな。楽しみで仕方がない。

 4月20日
 大学が始まって忙しい。お陰でこの日記を書くのも久しぶりだ。
 とにかく初めてのことだらけでちんぷんかんぷん。カリキュラムの組み方とか単位の規定数とか。周りの人達はもう決まってるみたいでサクサクとカリキュラムを組んで行っていた。なんで皆同時にスタートなのにこんな差が...。
 でも、友達が一人出来た。同じように図書館でパソコンのカリキュラムを組む画面と睨めっこしてたもんだからつい、声をかけちゃった。そしたら同じ学部だったから殆ど同じ授業にしちゃった。
 仲良くできるといいなぁ。

 4月25日
 いきなり声をかけてワタシを助けてくれた人とずっと同じ授業を組んだため、ずっと顔を合わせることになり、今ではすっかり仲良しだ。
 この人とワタシは、これからも長い付き合いになる予感がする。

 5月2日
 すっかり大学の雰囲気になれ、今では図書館で知り合った友香とずっと一緒に食堂で授業の合間を潰す仲だ。
 友香はどうやら関西の方からこの大学に来るために引っ越して来たらしい。
 東京生まれ東京育ちなのにも関わらず親元を離れたいがために一人暮らしを始めた私とは大違いだ。
 友香は料理が上手だ。いつもお弁当を作ってきていて、色鮮やかでとても綺麗なお弁当だ。
 同じ女として見習わなければ...!

 5月9日
 優はワタシの作る料理を気に入ってくれている。いつもワタシのお弁当からおかずを盗んでいく。お陰でひと品多く作るようになってしまったではないか。太ってしまったら訴えてやるんだから。
 まぁ、それはそれとして。優は今まで料理をあまりしたことがないらしく、ワタシの家に、料理を教えて、と最近よく来るようになった。なんならそのまま泊まっていく。
 そのせいで掃除には更に気を使うようになった。いつも綺麗だぞ。いつ来てもいい様にね。

 8月5日
 テストが終わって夏休みにようやく突入した。ちょっと日記の期間が空きすぎたのはテストのせいだ。私は悪くない。
 さて、夏休みに入ったわけだ。花の大学生、遊ばずして何をするというのか。
 というわけで早速友香と海に行く予定を建てた。お互い彼氏がいない身、ナンパとかされたらどうする?って聞いたら友香は「えー?いいよ、そんなの」って乗り気じゃなかった。要らないのかな、彼氏。私は欲しい!

 8月12日
 優と海に行った。人が多くてワタシは辛かったけど、優はテンションが天を突き抜ける勢いだった。きっと彼氏候補でも見つけに来たんだろう。
 そんなに彼氏が欲しいかね...?ワタシは彼氏なんて出来ても鬱陶しいだけだと思うんだけどなぁ。
 あ、日焼け止め忘れたから優に借りよう。

 8月13日
 海で彼氏は作れなかった。
 しかし諦めない...!次は20日にある花火祭りだ!

 8月20日
 まぁ、ある程度予想は着いていたと言うものだけど、予想の1.5倍も気合いの入った浴衣を着て来た。
 なぜそんなに優は彼氏が欲しいのか。いい加減諦めたらいいのに...。

 8月31日
 ダメだ、この夏に彼氏が出来そうにもない。サークルにも何も入ってない私達には無謀だったのか...?
 いや、きっとそんな事はない、諦めるな、私!挫けるな、これからの私!

 9月4日
 さて、大きな報告がある。なんとワタシは優の家に住むことになりましたー!

 12月22日
 いや、忘れてたとかそういうんじゃない。うん、決して忘れてなかった。
忙しかっただけ。うん。友香とテニスサークルに入ったり、ゼミの発表があったり、バイト始めたり。うん、気付けばクリスマス前だよ。
 街並みはクリスマス一色。私はバイトのシフト一色。
 いいもん、家で友香と一緒にバイト後にパーティーするもん。絶対楽しいもん。
 ........................リア充、爆発しろ。

 12月24日
 優の家でクリスマスパーティーを行う。あれからずっと頑張ってたけど、結局彼氏出来ず終いだったもんね、優。
 そんな可哀想な優にプレゼント奮発してあげよう。バイトのお陰で結構お金貯まったしね。何買ってあげようかなぁ。
 とかあれこれ考えてたけど、あまり良いの思いつかないのがワタシ。結局アロマキャンドルを買ってあげた。

 1月11日
 お互い正月は流石に実家に帰ってたから友香と会うのは久しぶり。
 思いっきり甘えてやる。まずは膝枕を要求してやるぅ...!

 1月12日
 何だったんだろう、あの優の甘えっぷり。今でも思い出すわ。
 書くことが今日はなくてこれで終わり。

 2月8日
 春休み!今度こそ彼氏作って、私もリア充の仲間入りするんだから!

 2月9日
 もう、優の春休みの予定の立て方が彼氏作ることだけに全力が注がれてたね。
 そういうのが男にとったらドン引きする要因ってなぜ気付かなかったんだろうね。まったく...そういう所が優の可愛い所だ。空回りしてるっていうのがね。

 4月8日
 ちっくしょう...。一年経ったのに...。
 私にはもう、友香しかいないのか...ッッッ!!!

 4月9日
 優はワタシとずっと一緒にいたらいいよ。

 9月1日
 去年と同じことをしてしまった。また忙しかったんだ。
 夏休みもサークル活動やバイトで家にいる時間の方が短ったんだ。許してくれ。
 でもね、そのおかげでね!彼氏が!出来ました!
 バイト先の同じ歳のちょっと爽やかな人です!

 9月2日
 おめでとう、ってどうして言ってあげられなかったんだろう。
 なんで喧嘩になっちゃったんだろう。
 なんでワタシがいるじゃん!って言っちゃったんだろう。
 なんで...なんで...ワタシの馬鹿...
 今でも夢に見るよ。去年の1日の事。
 優の命日になってしまった、9月1日の事。

 9月4日
 喧嘩して優が走って行ってしまったがためにトラックに轢かれて優は死んだ。
 それがどうしても受け入れられずにワタシは元いた家を出て、優が住んでいたこの部屋に引っ越した。
 家具も同じ物を揃えた。同じ配置にした。完璧に優の家を再現した。
 優と同棲のスタートだ。
 そう、張り切ってたんだけどね。何かね、もうね、やっぱり辛いや。
 大好きな優がいた部屋で、ワタシ一人で過ごすなんて、もう、限界だ。
 ワタシが殺してしまった優。ごめんなさい。ワタシは地獄に堕ちましょう。

 日記はここで終わっていた。
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