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積み上げられた机 解決編
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1
さて、沢藤先輩を上手く乗せる事が出来ました。これで沢藤先輩はきっとあの机の謎を解明してくれることでしょう。
とはいうものの、本当にあの普段は穏やかの権化である沢藤先輩に謎を解明することはできるのでしょうか。
正直な所私は全く沢藤先輩という人間を信用出来ていません。いえ、決して人となりが悪いとかそういうわけではないのです。只あくまで、こういう事の解決が果たしてできる人なのか、という点で信用できていないのです。
いや、私としてはこの謎は解けなくても良いのです。重要なのは『沢藤先輩が解こうとした』という事実一点のみなのです。なので既に目的は達成寸前というつまり私有能!と自画自賛なのです。
さぁ、沢藤先輩はこの謎を解くことができるのでしょうか!?
2
私、三河加奈という人間の紹介から始めようと思う。
私は極一般的な家庭に生まれた長女で、優しい両親に愛情いっぱいに育てられてきた。その甲斐あってか、一人目の弟が産まれて、両親が弟にかかりっきりになってもひねくれたりはしなかった。むしろできた弟が可愛くて仕方なかった。私は両親と同じ様に、ひょっとしたらそれ以上に弟を可愛がった。それからも更に弟が二人産まれた。女が私一人だけというのはほんの少しだけ寂しく感じたけども、それを差し引いても弟は可愛かった。
私の人生は幸せ一杯になっていくのだろうと思っていた。
しかし、それは子供の淡く儚い希望でしかなかった。私達一家は詐欺にあった。多額の金を騙し取られてしまい、借金を抱えてしまったのだ。当時私は小学四年生。長男は二年生で次男はまだ幼稚園、三男はまだ母が付きっ切りでないとダメな幼児。それでも私と長男にはその事の重大さが分かる程に両親は絶望していた。
元の家は引き払い、安く狭いアパートで住むことになった。私はこのアパートに引っ越した時に子供ながらに覚悟した。しっかりしなくては、と。
幸いにも借金は思っているよりも早く返せたそうで、今は借金取りに追われる、なんてことはない。ただ、子供四人も抱えたまま今まで通りの生活に戻れるほどの余裕はなく、両親は家にいるより仕事に行っている時間の方が何倍と長くなった。むしろ両親が家に居るところをあまり見なくなった。両親がいつ寝ているのかすら分からなくなったのだ。
そんな時、末っ子が私に聞いた。
「パパとママはどこ?」
と。
まだその時の私は幼かった。気の利いた一言が出てこずに、抱きしめる事しかできなかった。それと同時に私は強く思った。母と父の代わりになろう、と。
それからは私は友達と遊ぶことはなくなり、学校が終わったらすぐに家に帰って幼稚園にいる弟を迎えに行く。それからは夕ご飯の支度をし、弟達と一緒に食べる。食べ終わったら片付けて、弟達を先に風呂に入れ、洗濯、干して私の一日は終わる。何とも小学生らしくない一日ではあったが、可愛い弟のためであれば何も苦ではなかった。
それに何より早く料理を美味しくできるように上達したかった。必死に練習した。時には失敗もした。それでも弟が私の料理を食べて笑顔になってくれるのが非常に嬉しかった。
中学に進学する頃には家事もすっかり身について慣れたモノだった。母も私に家事を全て任せるようになり、家の管理は私の管轄になった。その頃の私はもうとっくに立派なブラコンになっていた。弟三人全員が可愛くて仕方なく、私の時間は全て弟達に捧げていた。
とまぁ、こんな感じだ。一見不幸な様に聞こえるかもしれないが、私は特にそう思ったことは無い。両親はあまり家に居ないだけで健在だし、可愛い弟三人に囲まれての生活は幸せだ。それになにより、私はもっと不幸な人を知っているから。その人を知った時に私は何と恵まれている方なのだろうかと感じた。
同情するとその人は怒るから何も言わないし、思わないけども。
学校も順風満帆だった。放課後に友達と遊ぶことは無かったけど、それなりに友達もいたし、楽しく過ごしている。弟も虐められることは無く、毎日楽しそうに学校の話をしている。
ちなみに私のブラコン度は凄まじい、とクラスメイトに言われたことがある。私としては普通に弟を可愛がっていただけなのだが、他の人からするとそれは異常なものらしい。中々にここのさじ加減が難しい。いっそのこと開き直ろうか。
そう悩んでいた時だ。私が高校に進学し、余計にその事に神経質になっている時期に私はアルバイトを始め、そして新聞部に入った。そこには沢藤という名前の先輩がいた。
見た感じ少し童顔ではあるものの、地味で目立たない感じのクラスにいたら端の方でひっそりと二、三人程度のグループを作っていそうな部長に出会ったのです。
別に一目惚れとかではないですよ。私のタイプは私より身長が十センチないとダメなので。部長は私とあまり身長が変わりませんからね。
しかしその部長、前任の部長さんと凄く親しい仲の様でして、その人の事を話す部長はとても幸せそうで。要は惚気を聞かされている気分でした。そこで私は思わず聞きました。
「そんなに好きって感情を表に出して恥ずかしくないんですか?」
と。今にして思えばこれはかなり不躾な質問だったでしょう。
「何が?」
全く私の不躾な質問など気にも留めず、というよりは皮肉が伝わっていない様子でした。これはこれは、見た目通りの阿呆なのでしょか、この人は。いや、恋は盲目といいますし、そういう事にしておきましょう。
「でも好きなものは好きだからしょうがないさ」
太陽よりも眩しい笑顔で恥ずかしいことを言ってのけるこの部長は恐らく十年後、いや、五年後にこの発言を思い出して枕に顔を埋める事でしょう。それもまた青春なのでしょうが。
しかし私も部長の事を馬鹿にすることはできないのでしょう。なぜなら、私もまた、部長の言葉で胸に突っかかっていた蟠りの様なものが晴れていくようなものを感じていたからです。
好きなものは好きだからしょうがない。なんて単純で分かりやすい理屈なのでしょうか。えぇ、私もそれは良いと思います。
3
私が友人知人に弟愛を隠さなくなって二ヶ月が経ちました。流石に二ヶ月もあればクラスも落ち着き、グループも完全に出来上がっていました。私はそんな中でクラスの中心的なグループの中に居ました。
私としては別にクラスでの立ち位置なんてどうでもよかったので、ただ学校生活を楽しく過ごせそうな人たちに声をかけただけなのです。
しかしどうでしょう。なんともまぁ、話に付いて行くのが大変です。バイトして帰って家事をして、弟達の世話をしていると自然とテレビ等を見る機会は無くなっていきます。今ではすっかりテレビなんて見なくなりました。遊びに行くこともなくなりました。
なので当然の結果なのでしょう。話に全くついていけないのです。
「え?これ知らないの?流行ってるよ」
この言葉を二ヶ月の間でどれくらい聞いたことでしょうか。
うっせーこちとらあんたらが遊びに行ってる間に料理の腕上げてるんだよ。なんて当然口に出せるわけもなく。簡単に「ごめんねー、家、親がいないから家事しなきゃだし」程度で話す。誤解を招こうが私にとってはどうでもいい。だから適当に好きな様に妄想させておく。
言い方がちょっと冷酷の様に聞こえたかもしれないけど別に嫌いというわけではない。まぁ、好きでもないけど。私はあくまで弟が一番なだけである。
しかしこの適当な説明は結構便利で、深い家庭事情があると勝手な憶測をしてくれるので何も聞いてこないのは楽だ。
「加奈も大変だよね。毎日家事してるんでしょ」
たまにこういう事を言われる。
「小学校からやってるし、慣れだよ、慣れ」
「弁当も毎日自分で作ってるんでしょ?」
「まぁ、そりゃあね」
主に昨晩のおかずをちょっと多めに作って弁当にしてるだけだけどね。朝起きて作るのは卵焼きぐらいなものだ。慣れればこういうのもすっかり習慣になってしまい、苦でも何でもなくなっている。
でも確かに最初は色々と苦戦したなぁ、とはもう遠い過去の思い出。
それに私が全て家事をしているのは弟達には好きな様に遊んで自由に過ごしてほしいからである。長男の智也はバスケに熱中してほしいし、次男の翔太と三男の樹は友達と遊びたいだろう。子供は遊ぶのが仕事なのだからしっかりと遊んで欲しいものだ。それにバスケの練習着を着て帰ってくる智也を見ると逞しく成長しているのを実感できて何とも嬉しく思えるのだ。だけど同時にまだあどけなさの残る出で立ちが可愛くて仕方ないのだ。
そんな弟が私の作った料理を美味しいと言って食べてくれるだけで私は何でも作れるというものなのだ。
「むしろ楽しいしね」
「へ~、女子力高いよね」
高校に進学してからよく聞くようになった女子力とは何なのだろうか。高ければ第二形態とかに変身できるのだろうか。怖い。
「あ、そうだ、加奈。今日ユウ達とカラオケ行くんだけど、来ない?」
ユウというのはこのクラスの男子の中心人物である。一見軽そうに見えてやはり軽い性格が受けているようだ。
「ごめん、今日バイトなんだ」
「また?」
「うん、ごめんね」
というわけで折角のお誘いをお断りし、私はアルバイトに勤しむのである。そろそろ樹の誕生日だから何か買ってあげたいし。最近流行ってるゲーム機かなぁ…。
「おはよう、三河さん」
「おはようございます!」
バイト先の先輩に挨拶をして、制服に着替えてホールに出る。しかしこのファミレスは全国チェーンとはいえ立地が大通りから少し外れているため、忙しい日の方が少ない。結構のんびりと働けるので私としてはお気に入りの職場だったりする。
今日も今日とてお客さんは数人しかおらず、私と先輩の二人で暇を持て余していた。
「暇ねぇ…」
「そうですね…」
因みにこの先輩は私の通う学校のOGでもあり、私が入る部に悩んでいると、新聞部はどうかと勧めてくれた人だ。何でも先輩が在学中に大きな事件が二回ほどあり、その両方とも大きく新聞部が関わっていたらしい、との事。刺激的な学校生活を望むならどうか、という事でどうせ他に入る部もなかったので入ることにした。
「しりとりでもしませんか、先輩…」
「おでん…」
「やったー…勝ちましたー…」
いや、やっぱり人というのはある程度忙しい方がいいのかもしれない。こんな退廃的な会話、している方が辛い。ここは一つ、年頃の女の子らしい会話をしてやりますか!
「先輩って好きな人いますか!?」
「いません」
「私もです」
私の唯一の引き出しが三秒で終わってしまった。
いや、好きという意味では弟が好きなんだけど流石に弟に恋愛感情は無い。だからこの引き出しには合わない。となると私が話できることは何も無くなってしまう。
互いに無言のまま無情に時間は流れ、いや、アルバイトの途中なのだから無情ではないか。働けという話である。しかし本当にすることがないのだから仕方がない。
それにしても先輩って本当に美人だなー。学校に可愛い子はいても美人の人って希少だなって思う。
「…?どうしたんです?」
「い、いえ、何も!」
別に悪い事なんて思ってもないのに隠してしまった。あくまで咄嗟的な反応でやってしまっただけ。しかしそれだけ何となく本当の事を言いにくくしてしまった。
「あ、そういえば三河さん」
「はい?」
「あのね_________」
4
ある日の事。たまたま友人とほんのちょっとした言い合いになってしまい、教室に居づらい雰囲気になってしまった私は少し一人になりたい気分だった。しかし学校というのはどこかしかも人が必ずいるのだ。一人でお弁当を食べられる場所となると…。いや流石にトイレは勘弁してほしい。話で聞いたことはあるけど、する人なんていないよね。え、ネタだよね、あれって…。
とにかく私はそういうのは流石に勘弁願いたいので何とか一人になれる場所を探していた。
そういえばこの学校って屋上はどうなっているのだろうか。普通は立ち入り禁止になっていると思うけども。そう思い、屋上に続くと聞いたことのある階段を昇っていく。そして、そこで私は奇妙なものを見たのです。
それこそが、高く積み上げられた机だったのです。
人というのは心の底から理解不能な何かに出くわすと意外と冷静になるんだ、という事を学びました。
机。高い。積まれてる。屋上。出られない。なんで。誰が。どうやって。何のために。運ぶの大変そう。脳内で目の前の現象を一つ一つ箇条書きにしていきます。
いやほんと何これ。誰も得しないようなこの机。しかも丁寧に机を噛み合わせ、極力隙間の無いように置かれている。なんだこれは。
あっけに取られて立ち尽くしていた私を腹の虫が正気にさせます。うん、取り敢えずお弁当を食べよう。話はそれからだ。
しかし私は別にこういった事(といってもどうカテコライズすればいいのか分からないけど)に関して頭が回る人間ではないのだ。私がいくら考えても全くそれらしい解答は浮かばない。
代わりにあることが浮かんだ。
(そういえば、部長って起きた事件二回とも関わってるって先輩言ってたな)
関わってると言っても、事件の真相を暴こうとした探偵の様なことをしていたそうだ。それにその事に関して先輩は頭が回るらしい、と言っていた。ならばここは適材適所。先輩に聞いてみることにしよう。
というわけで物凄く渋る部長を何とか梃子でも何でも使って動かし、現場に連れて行くことに成功した。
しかし部長はどうも乗り気では無いように見える。確かに部長は今年受験生で勉強第一なのは分かるが、まだ半年以上も先だ。多少の休息はむしろ必須なのではないだろうか。そう思うが部長はそうではないらしい。
「あぁ、それならこういうのはどうかしら」
バイトの先輩が妖しい笑みを浮かべてある事を提案する。この人は狡猾な人なんだな、と私にしては珍しく口には出さなかった。
その次の日に早速先輩に言われたとおりに部長の教室に行き、近くにいた人に部長の席はどこなのかを聞き、教えられた席に座っておく。周りの人がこっちをジロジロと見てくるが関係ない。所詮は名も知らぬ、そしてこれから先も知ることのない人達ばかりだ。どう思われたって構わない。
部長がやってくるやいなや、苦虫を噛み潰したようだ。すぐに追い出されてしまった。しかし中々に効果てきめんだったようで、部長は頭を抱えていた。
その日もバイトで、先輩はこう言った。
「これを使うといいわ」
昨日とは違って無邪気に笑って目薬を渡してきた。まるで遊んでいるかのようだった。
次の日も先輩の言う通りに部長の席でスタンバイし、目薬を軽く差しておく。うわ、スーっとする。
またも部長は苦虫を食い潰した顔をした。しかし効果は覿面のようだった。以上でサジェスト終わり!これで部長も本格的に知恵を働かせることだろう。
そう思っていた次の日だ。なんと机は全て綺麗に撤去されていた。
私は逸る気持ちを必死に抑えて放課後まで待ち、放課後を告げるチャイムが鳴った瞬間に部室めがけて一直線に走った。途中先生に怒られた気がしたけどきっと気のせいだろう。今は校則よりも大事な事があるのだから。
「先輩!」
「やぁ、三河さん。こんにちは」
部長はいつもと変わらずに部室で問題集を広げていた。今日は生物をやっているようだ。
「机が!机がないんです!」
私の一聞では何のことを言っているのかさっぱり分からないような事でも部長にはしっかりと伝わる様です。
「あぁ、うんそうだね」
「部長、何かしたんですか…?」
「まぁ、ちょっと教員に一言ね」
「じゃあ机の意味分かったんですか!?」
ふぅ、と一つ溜め息を溢した部長は問題集をパタンと閉じて私の方をジッと見て口を開く。
「あれは結構単純なものだったよ。机は屋上への扉を封鎖するためのものだったんだよ」
「え、でも屋上への扉は鍵が掛かってて、その鍵は何年も前に喪失してるんじゃありませんでしたっけ?」
「そう。だから鍵はない」
「はぁ…?」
部長が何を言いたいのかさっぱり分からなかった。鍵が無いのに扉は開くはずはない。
「映画でこういうシーンを見たことがないかい?ドアノブを壊して扉を無理やりこじ開けたりする所」
「あっ」
智也がそういうアクション要素が強い映画が好きなので私も一緒になってよく見る。その中に必ずというわけではないが高確率で銃でドアノブのあたりを撃って壊し、こじ開けるシーンを見る。
「机は重いからどかすのは諦めたけど、隙間をよく覗いたら見えたよ。壊れたドアノブがね」
「つまり屋上へは…」
「うん、出ることが出来る状態だった」
「でも誰がそんな事…」
「さぁ、流石にそこまでは。でも理由なら大体察することはできる。扉が壊れていて出ることはできるけど、あの机をどかさない事には出ることはできない。でもあの机はどかすのも一苦労する程度には重い。何度も出入りするのにそれはちょっと不便すぎる。なのにそうまでして屋上へ出られる事を隠すとなると、屋上では」
「少なくとも先生が表立って動かざるを得ない程度には悪いことが行われている、という事ですか」
あの机の量を部長一人で片付けたとは到底思えない。それに最初に部長は「教員に一言」と言った。きっとその「一言」で先生達はあの机を片付けたのだろう。そこまでして先生が動くとなると…。
「タバコ、とかでしょうか」
「恐らくね」
「…どうして部長は分かったんですか?」
「仮定から見直しただけだよ。今回は偶々それで『屋上に出られるのかも』っていう憶測が当たっただけさ。屋上で何が行われてるかはまだ推測の域を出てないしね」
正直な所私は呆気に取られていた。手かがりとかそういったもは無かったのにまさか当ててしまうとは思わなかったからだ。部長にはちょっとした息抜きになったらいいな、程度でこの話をふっかけたのだから。
「こういうのはこれっきりにしてね、三河さん」
「さぁ、どうでしょうか」
私は悪戯っぽく笑った。
さて、沢藤先輩を上手く乗せる事が出来ました。これで沢藤先輩はきっとあの机の謎を解明してくれることでしょう。
とはいうものの、本当にあの普段は穏やかの権化である沢藤先輩に謎を解明することはできるのでしょうか。
正直な所私は全く沢藤先輩という人間を信用出来ていません。いえ、決して人となりが悪いとかそういうわけではないのです。只あくまで、こういう事の解決が果たしてできる人なのか、という点で信用できていないのです。
いや、私としてはこの謎は解けなくても良いのです。重要なのは『沢藤先輩が解こうとした』という事実一点のみなのです。なので既に目的は達成寸前というつまり私有能!と自画自賛なのです。
さぁ、沢藤先輩はこの謎を解くことができるのでしょうか!?
2
私、三河加奈という人間の紹介から始めようと思う。
私は極一般的な家庭に生まれた長女で、優しい両親に愛情いっぱいに育てられてきた。その甲斐あってか、一人目の弟が産まれて、両親が弟にかかりっきりになってもひねくれたりはしなかった。むしろできた弟が可愛くて仕方なかった。私は両親と同じ様に、ひょっとしたらそれ以上に弟を可愛がった。それからも更に弟が二人産まれた。女が私一人だけというのはほんの少しだけ寂しく感じたけども、それを差し引いても弟は可愛かった。
私の人生は幸せ一杯になっていくのだろうと思っていた。
しかし、それは子供の淡く儚い希望でしかなかった。私達一家は詐欺にあった。多額の金を騙し取られてしまい、借金を抱えてしまったのだ。当時私は小学四年生。長男は二年生で次男はまだ幼稚園、三男はまだ母が付きっ切りでないとダメな幼児。それでも私と長男にはその事の重大さが分かる程に両親は絶望していた。
元の家は引き払い、安く狭いアパートで住むことになった。私はこのアパートに引っ越した時に子供ながらに覚悟した。しっかりしなくては、と。
幸いにも借金は思っているよりも早く返せたそうで、今は借金取りに追われる、なんてことはない。ただ、子供四人も抱えたまま今まで通りの生活に戻れるほどの余裕はなく、両親は家にいるより仕事に行っている時間の方が何倍と長くなった。むしろ両親が家に居るところをあまり見なくなった。両親がいつ寝ているのかすら分からなくなったのだ。
そんな時、末っ子が私に聞いた。
「パパとママはどこ?」
と。
まだその時の私は幼かった。気の利いた一言が出てこずに、抱きしめる事しかできなかった。それと同時に私は強く思った。母と父の代わりになろう、と。
それからは私は友達と遊ぶことはなくなり、学校が終わったらすぐに家に帰って幼稚園にいる弟を迎えに行く。それからは夕ご飯の支度をし、弟達と一緒に食べる。食べ終わったら片付けて、弟達を先に風呂に入れ、洗濯、干して私の一日は終わる。何とも小学生らしくない一日ではあったが、可愛い弟のためであれば何も苦ではなかった。
それに何より早く料理を美味しくできるように上達したかった。必死に練習した。時には失敗もした。それでも弟が私の料理を食べて笑顔になってくれるのが非常に嬉しかった。
中学に進学する頃には家事もすっかり身について慣れたモノだった。母も私に家事を全て任せるようになり、家の管理は私の管轄になった。その頃の私はもうとっくに立派なブラコンになっていた。弟三人全員が可愛くて仕方なく、私の時間は全て弟達に捧げていた。
とまぁ、こんな感じだ。一見不幸な様に聞こえるかもしれないが、私は特にそう思ったことは無い。両親はあまり家に居ないだけで健在だし、可愛い弟三人に囲まれての生活は幸せだ。それになにより、私はもっと不幸な人を知っているから。その人を知った時に私は何と恵まれている方なのだろうかと感じた。
同情するとその人は怒るから何も言わないし、思わないけども。
学校も順風満帆だった。放課後に友達と遊ぶことは無かったけど、それなりに友達もいたし、楽しく過ごしている。弟も虐められることは無く、毎日楽しそうに学校の話をしている。
ちなみに私のブラコン度は凄まじい、とクラスメイトに言われたことがある。私としては普通に弟を可愛がっていただけなのだが、他の人からするとそれは異常なものらしい。中々にここのさじ加減が難しい。いっそのこと開き直ろうか。
そう悩んでいた時だ。私が高校に進学し、余計にその事に神経質になっている時期に私はアルバイトを始め、そして新聞部に入った。そこには沢藤という名前の先輩がいた。
見た感じ少し童顔ではあるものの、地味で目立たない感じのクラスにいたら端の方でひっそりと二、三人程度のグループを作っていそうな部長に出会ったのです。
別に一目惚れとかではないですよ。私のタイプは私より身長が十センチないとダメなので。部長は私とあまり身長が変わりませんからね。
しかしその部長、前任の部長さんと凄く親しい仲の様でして、その人の事を話す部長はとても幸せそうで。要は惚気を聞かされている気分でした。そこで私は思わず聞きました。
「そんなに好きって感情を表に出して恥ずかしくないんですか?」
と。今にして思えばこれはかなり不躾な質問だったでしょう。
「何が?」
全く私の不躾な質問など気にも留めず、というよりは皮肉が伝わっていない様子でした。これはこれは、見た目通りの阿呆なのでしょか、この人は。いや、恋は盲目といいますし、そういう事にしておきましょう。
「でも好きなものは好きだからしょうがないさ」
太陽よりも眩しい笑顔で恥ずかしいことを言ってのけるこの部長は恐らく十年後、いや、五年後にこの発言を思い出して枕に顔を埋める事でしょう。それもまた青春なのでしょうが。
しかし私も部長の事を馬鹿にすることはできないのでしょう。なぜなら、私もまた、部長の言葉で胸に突っかかっていた蟠りの様なものが晴れていくようなものを感じていたからです。
好きなものは好きだからしょうがない。なんて単純で分かりやすい理屈なのでしょうか。えぇ、私もそれは良いと思います。
3
私が友人知人に弟愛を隠さなくなって二ヶ月が経ちました。流石に二ヶ月もあればクラスも落ち着き、グループも完全に出来上がっていました。私はそんな中でクラスの中心的なグループの中に居ました。
私としては別にクラスでの立ち位置なんてどうでもよかったので、ただ学校生活を楽しく過ごせそうな人たちに声をかけただけなのです。
しかしどうでしょう。なんともまぁ、話に付いて行くのが大変です。バイトして帰って家事をして、弟達の世話をしていると自然とテレビ等を見る機会は無くなっていきます。今ではすっかりテレビなんて見なくなりました。遊びに行くこともなくなりました。
なので当然の結果なのでしょう。話に全くついていけないのです。
「え?これ知らないの?流行ってるよ」
この言葉を二ヶ月の間でどれくらい聞いたことでしょうか。
うっせーこちとらあんたらが遊びに行ってる間に料理の腕上げてるんだよ。なんて当然口に出せるわけもなく。簡単に「ごめんねー、家、親がいないから家事しなきゃだし」程度で話す。誤解を招こうが私にとってはどうでもいい。だから適当に好きな様に妄想させておく。
言い方がちょっと冷酷の様に聞こえたかもしれないけど別に嫌いというわけではない。まぁ、好きでもないけど。私はあくまで弟が一番なだけである。
しかしこの適当な説明は結構便利で、深い家庭事情があると勝手な憶測をしてくれるので何も聞いてこないのは楽だ。
「加奈も大変だよね。毎日家事してるんでしょ」
たまにこういう事を言われる。
「小学校からやってるし、慣れだよ、慣れ」
「弁当も毎日自分で作ってるんでしょ?」
「まぁ、そりゃあね」
主に昨晩のおかずをちょっと多めに作って弁当にしてるだけだけどね。朝起きて作るのは卵焼きぐらいなものだ。慣れればこういうのもすっかり習慣になってしまい、苦でも何でもなくなっている。
でも確かに最初は色々と苦戦したなぁ、とはもう遠い過去の思い出。
それに私が全て家事をしているのは弟達には好きな様に遊んで自由に過ごしてほしいからである。長男の智也はバスケに熱中してほしいし、次男の翔太と三男の樹は友達と遊びたいだろう。子供は遊ぶのが仕事なのだからしっかりと遊んで欲しいものだ。それにバスケの練習着を着て帰ってくる智也を見ると逞しく成長しているのを実感できて何とも嬉しく思えるのだ。だけど同時にまだあどけなさの残る出で立ちが可愛くて仕方ないのだ。
そんな弟が私の作った料理を美味しいと言って食べてくれるだけで私は何でも作れるというものなのだ。
「むしろ楽しいしね」
「へ~、女子力高いよね」
高校に進学してからよく聞くようになった女子力とは何なのだろうか。高ければ第二形態とかに変身できるのだろうか。怖い。
「あ、そうだ、加奈。今日ユウ達とカラオケ行くんだけど、来ない?」
ユウというのはこのクラスの男子の中心人物である。一見軽そうに見えてやはり軽い性格が受けているようだ。
「ごめん、今日バイトなんだ」
「また?」
「うん、ごめんね」
というわけで折角のお誘いをお断りし、私はアルバイトに勤しむのである。そろそろ樹の誕生日だから何か買ってあげたいし。最近流行ってるゲーム機かなぁ…。
「おはよう、三河さん」
「おはようございます!」
バイト先の先輩に挨拶をして、制服に着替えてホールに出る。しかしこのファミレスは全国チェーンとはいえ立地が大通りから少し外れているため、忙しい日の方が少ない。結構のんびりと働けるので私としてはお気に入りの職場だったりする。
今日も今日とてお客さんは数人しかおらず、私と先輩の二人で暇を持て余していた。
「暇ねぇ…」
「そうですね…」
因みにこの先輩は私の通う学校のOGでもあり、私が入る部に悩んでいると、新聞部はどうかと勧めてくれた人だ。何でも先輩が在学中に大きな事件が二回ほどあり、その両方とも大きく新聞部が関わっていたらしい、との事。刺激的な学校生活を望むならどうか、という事でどうせ他に入る部もなかったので入ることにした。
「しりとりでもしませんか、先輩…」
「おでん…」
「やったー…勝ちましたー…」
いや、やっぱり人というのはある程度忙しい方がいいのかもしれない。こんな退廃的な会話、している方が辛い。ここは一つ、年頃の女の子らしい会話をしてやりますか!
「先輩って好きな人いますか!?」
「いません」
「私もです」
私の唯一の引き出しが三秒で終わってしまった。
いや、好きという意味では弟が好きなんだけど流石に弟に恋愛感情は無い。だからこの引き出しには合わない。となると私が話できることは何も無くなってしまう。
互いに無言のまま無情に時間は流れ、いや、アルバイトの途中なのだから無情ではないか。働けという話である。しかし本当にすることがないのだから仕方がない。
それにしても先輩って本当に美人だなー。学校に可愛い子はいても美人の人って希少だなって思う。
「…?どうしたんです?」
「い、いえ、何も!」
別に悪い事なんて思ってもないのに隠してしまった。あくまで咄嗟的な反応でやってしまっただけ。しかしそれだけ何となく本当の事を言いにくくしてしまった。
「あ、そういえば三河さん」
「はい?」
「あのね_________」
4
ある日の事。たまたま友人とほんのちょっとした言い合いになってしまい、教室に居づらい雰囲気になってしまった私は少し一人になりたい気分だった。しかし学校というのはどこかしかも人が必ずいるのだ。一人でお弁当を食べられる場所となると…。いや流石にトイレは勘弁してほしい。話で聞いたことはあるけど、する人なんていないよね。え、ネタだよね、あれって…。
とにかく私はそういうのは流石に勘弁願いたいので何とか一人になれる場所を探していた。
そういえばこの学校って屋上はどうなっているのだろうか。普通は立ち入り禁止になっていると思うけども。そう思い、屋上に続くと聞いたことのある階段を昇っていく。そして、そこで私は奇妙なものを見たのです。
それこそが、高く積み上げられた机だったのです。
人というのは心の底から理解不能な何かに出くわすと意外と冷静になるんだ、という事を学びました。
机。高い。積まれてる。屋上。出られない。なんで。誰が。どうやって。何のために。運ぶの大変そう。脳内で目の前の現象を一つ一つ箇条書きにしていきます。
いやほんと何これ。誰も得しないようなこの机。しかも丁寧に机を噛み合わせ、極力隙間の無いように置かれている。なんだこれは。
あっけに取られて立ち尽くしていた私を腹の虫が正気にさせます。うん、取り敢えずお弁当を食べよう。話はそれからだ。
しかし私は別にこういった事(といってもどうカテコライズすればいいのか分からないけど)に関して頭が回る人間ではないのだ。私がいくら考えても全くそれらしい解答は浮かばない。
代わりにあることが浮かんだ。
(そういえば、部長って起きた事件二回とも関わってるって先輩言ってたな)
関わってると言っても、事件の真相を暴こうとした探偵の様なことをしていたそうだ。それにその事に関して先輩は頭が回るらしい、と言っていた。ならばここは適材適所。先輩に聞いてみることにしよう。
というわけで物凄く渋る部長を何とか梃子でも何でも使って動かし、現場に連れて行くことに成功した。
しかし部長はどうも乗り気では無いように見える。確かに部長は今年受験生で勉強第一なのは分かるが、まだ半年以上も先だ。多少の休息はむしろ必須なのではないだろうか。そう思うが部長はそうではないらしい。
「あぁ、それならこういうのはどうかしら」
バイトの先輩が妖しい笑みを浮かべてある事を提案する。この人は狡猾な人なんだな、と私にしては珍しく口には出さなかった。
その次の日に早速先輩に言われたとおりに部長の教室に行き、近くにいた人に部長の席はどこなのかを聞き、教えられた席に座っておく。周りの人がこっちをジロジロと見てくるが関係ない。所詮は名も知らぬ、そしてこれから先も知ることのない人達ばかりだ。どう思われたって構わない。
部長がやってくるやいなや、苦虫を噛み潰したようだ。すぐに追い出されてしまった。しかし中々に効果てきめんだったようで、部長は頭を抱えていた。
その日もバイトで、先輩はこう言った。
「これを使うといいわ」
昨日とは違って無邪気に笑って目薬を渡してきた。まるで遊んでいるかのようだった。
次の日も先輩の言う通りに部長の席でスタンバイし、目薬を軽く差しておく。うわ、スーっとする。
またも部長は苦虫を食い潰した顔をした。しかし効果は覿面のようだった。以上でサジェスト終わり!これで部長も本格的に知恵を働かせることだろう。
そう思っていた次の日だ。なんと机は全て綺麗に撤去されていた。
私は逸る気持ちを必死に抑えて放課後まで待ち、放課後を告げるチャイムが鳴った瞬間に部室めがけて一直線に走った。途中先生に怒られた気がしたけどきっと気のせいだろう。今は校則よりも大事な事があるのだから。
「先輩!」
「やぁ、三河さん。こんにちは」
部長はいつもと変わらずに部室で問題集を広げていた。今日は生物をやっているようだ。
「机が!机がないんです!」
私の一聞では何のことを言っているのかさっぱり分からないような事でも部長にはしっかりと伝わる様です。
「あぁ、うんそうだね」
「部長、何かしたんですか…?」
「まぁ、ちょっと教員に一言ね」
「じゃあ机の意味分かったんですか!?」
ふぅ、と一つ溜め息を溢した部長は問題集をパタンと閉じて私の方をジッと見て口を開く。
「あれは結構単純なものだったよ。机は屋上への扉を封鎖するためのものだったんだよ」
「え、でも屋上への扉は鍵が掛かってて、その鍵は何年も前に喪失してるんじゃありませんでしたっけ?」
「そう。だから鍵はない」
「はぁ…?」
部長が何を言いたいのかさっぱり分からなかった。鍵が無いのに扉は開くはずはない。
「映画でこういうシーンを見たことがないかい?ドアノブを壊して扉を無理やりこじ開けたりする所」
「あっ」
智也がそういうアクション要素が強い映画が好きなので私も一緒になってよく見る。その中に必ずというわけではないが高確率で銃でドアノブのあたりを撃って壊し、こじ開けるシーンを見る。
「机は重いからどかすのは諦めたけど、隙間をよく覗いたら見えたよ。壊れたドアノブがね」
「つまり屋上へは…」
「うん、出ることが出来る状態だった」
「でも誰がそんな事…」
「さぁ、流石にそこまでは。でも理由なら大体察することはできる。扉が壊れていて出ることはできるけど、あの机をどかさない事には出ることはできない。でもあの机はどかすのも一苦労する程度には重い。何度も出入りするのにそれはちょっと不便すぎる。なのにそうまでして屋上へ出られる事を隠すとなると、屋上では」
「少なくとも先生が表立って動かざるを得ない程度には悪いことが行われている、という事ですか」
あの机の量を部長一人で片付けたとは到底思えない。それに最初に部長は「教員に一言」と言った。きっとその「一言」で先生達はあの机を片付けたのだろう。そこまでして先生が動くとなると…。
「タバコ、とかでしょうか」
「恐らくね」
「…どうして部長は分かったんですか?」
「仮定から見直しただけだよ。今回は偶々それで『屋上に出られるのかも』っていう憶測が当たっただけさ。屋上で何が行われてるかはまだ推測の域を出てないしね」
正直な所私は呆気に取られていた。手かがりとかそういったもは無かったのにまさか当ててしまうとは思わなかったからだ。部長にはちょっとした息抜きになったらいいな、程度でこの話をふっかけたのだから。
「こういうのはこれっきりにしてね、三河さん」
「さぁ、どうでしょうか」
私は悪戯っぽく笑った。
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