未完成のメソッド

紫苑色のシオン

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呪われたビデオ 解決編

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 1

 季節はすっかり冬。私、三河加奈は寒い季節が大の苦手なのです。寒いとベッドから出るのが億劫になるよね~。特にお弁当を作る時間はまだ日が昇り切っていなくて特に水が冷たい!肌が割れてしまうのです。もはや主婦の悩みを抱える女子高生ですとも。
 さてそんな私ですが、今日はバイト先の先輩が近々お誕生日という事で、普段お世話になっているお礼に何かプレゼントしようという心つもりで今日は商業複合施設にやってまいりました。人多くて暖かくていいいですねぇ。
 さて、先輩に何を買いましょうか。ちょっといい化粧用品とかどうですかね。先輩あまり化粧はしないみたいなんですけど、地顔が良いので勿体ないと常々思っていたのですよ。と、色々歩き回っていると、むむ、あれは我が新聞部を取りまとめる偉大なる唯一の三年生にして部長の沢藤部長ではありませんか。何やら部長には似つかわしくない可愛い雑貨店にいるではありませんか。これはもしや、世間では冬ですが部長には春が来たのではないでしょうか!ちょっとからかいに行くとしましょうか。

________________

 さて結局のところ部長に今巷で流行のタピオカなんちゃらなるものを奢っていただき、飲んだのですが、これそんなに美味しくないですね。流行の効果とやらは凄いですね。世間にはついていけません。
 先輩から以前の様に送っていくよ、と言って頂いたのですが、それは丁重にお断りいたしまして、今日は一人で颯爽と帰宅。あ、プレゼント買い忘れた。明日こそ買おう。
 そう活き込んでいたのですが、翌日、思いもよらぬ話が飛び込んできました。

「昨日部室から凄いの見つかってさ」

 クラスメイトの中ではあまり会話した記憶がない男子生徒が何やら騒いでいました。

「なにあれ?」
「何でも映研から呪いのビデオが見つかったとか何とか」
「呪いのビデオ?」

 ブルーレイが主流のこのご時世にビデオ?という疑問は確かにあったのですが、やはりそれよりは「呪い」という部分に引っかかりました。

「部室を整理してたらOBが撮ったものが出てきたらしくて、それを皆で見てたら何人か気分悪くなって今日休んでるんだってさ」
「ほぉほぉ」

 それはそれは…何とも興味深い。私は心霊とかそういったオカルトは結構好きなのです。体験したいとは思いませんが。しかしオカルトなんて結局は創作の中での出来事でしかないと思っていたのですがいやはや。
 今日一日クラスはずっとその話題で持ちきりでした。そしてなんと。

「これが呪いのビデオだよ」

 昼休憩の事です。教師が使う教壇に生徒が立ち、高らかにDVDを掲げていました。
 いやビデオちゃうやんけ。思わず関西弁が出てしまう程に心の中で突っ込みました。実際大阪は全国的に有名なレジャー施設に一回だけ遊びに行ったことがあるくらいなので関西弁なんて使いませんが。
 しかし聞けば何でもDVDにダビングしただけで元はちゃんとVHSだったそうだ。実際使ったことないけどね、VHS。
 みんな、DVDに興味深々のようで見たいとか貸してなど色々競争が始まっていた。私も気にはなるが、あの競争の中に混じる度胸はない。まぁ、回ってきたらいいや、程度だった。
 私が教壇に集まっている皆を遠巻きに似ていると、私の元に一つの人影が近づいてきた。

「や、加奈」
「よっす~、ユウ。ユウはあれに混ざんないの?」
「俺ホラーとかダメなんだよね…」
「そうなの?なんか意外」

 智也は平気で、いや、むしろ好き好んでそういうのを見ていて、智也が見ている横で翔太や樹も見ているからてっきり男の子というのはそういうのは好きだと偏見していた。まぁ、樹は始まって一時間も経たない内に寝てしまっているのだけど。
 でも、うん、そういうのも可愛いと思う。

「加奈こそ興味無いの?」
「流石にあの中に入るのはね…」

 二人して遠くから野次馬を眺める。
 あれが青春というのであるならば、私は青春から一歩遅れた場所が私の居場所で良い様な気がしてきた。
 しかし正直な所、私は今回の話題に関しては全く持って興味など無いが、内容はどうも部長向きな気がする。一度話を振ってみるのもいいかもしれない。

 2

『実は今日学校で「呪いのビデオ」の話を聞きまして』
『呪いのビデオ?』
『はい。なんでも映画研究会の部室で見つかったそうで』
『貴女はどんな内容か見たの?』
『いえ、皆が我先にと奪い合っていて、その中に入る勇気はちょっと...』
『そう。そうでしょうね』
『先輩は呪いなんてあると思います?』
『無いわ』
『ですよね~』
『まぁ、でも、そうね。部長さんなら真相見つけられるかもしれないわね』
『私もそう思います!』
『受験勉強の息抜きにでもいいんじゃないかしら』
『え?そうですか?』
『えぇ、そうよ』
『はぁ...』
『だから部長さんに頼ってみなさいな』
『先輩がそう言うなら...』

 3

「え?呪いのビデオを見たい?」

 次の日私はユウに話した。

「昨日は乗り気じゃなかったのに?」

 至極真っ当な意見だ。私もユウの立場ならそう思うし、そう言うことだろう。
 しかし勘違いしないで欲しい。私は昨日のあの烏合の衆に混ざる気は無かっただけで呪いのビデオというのがどういうものなのか自体は割と興味があったりする。その上、今回は目的もある。

「いや、智也がホラー好きでよく見てるから一緒に見てるのね。そしたらその内私も好きになっちゃって」

 半分嘘で半分本当。見てみたい気持ちは無いといえば嘘になるが今回は沢藤部長にこの話を持っていくのが目的だからだ。
 積まれた机に買えないパンの秘密、聞くところにもよると他にも不思議な事を解決したとかなんとかで、今回の呪いのビデオの一件も沢藤部長なら分かるかもしれない。受験勉強漬けの毎日辟易してる事だろうし、休憩がてらにこの話を持っていくのも悪くはないだろう。

「まぁ、加奈がそこまで言うなら何とかしてみよう」
「ありがと!」

 流石ユウ!頼りになる!と言っても急に入手できるわけもなく、明日以降に期待という所だろう。

「あのさ、加奈。ちょっといい感じの喫茶店見つけてさ。良かったら今日行かないか?」
「ん?あ~、ごめん。今日はバイトだし、部活にちょっと顔出してから直行するんだ。また今度ね」
「そ、そっか...。うん、またな」

 ?最近、ここのところユウの様子が少し変に感じる。なんだろう。
 と不思議に思いながらも思い当たる事も特にあるわけでもなく、気のせいということにして、今日はお開きになった。
 放課後も呪いのビデオについてクラスメイトが話していたが、私はそれを横目に部室へと直行した。その時に部長に呪いのビデオについて話してみたが、やはり時期が悪い。入試本番手前の人にこんな話をしたところで、やはり迷惑でしかないようで、頑なに部長は首を縦に振ることはなかった。まぁ、当然か。
 残念ながらその日の部活はそのまま解散となり、私はそのままアルバイトへ向かった。

「おはようございます」

 バイト先のファミレスの裏口から入りながら誰に向けた訳でもない挨拶を言う。
 ロッカールームは着替えの時以外は誰も入らないような場所だから、ホールやキッチンとは違い、どこか寒々しい。私はこの雰囲気が好きではない。だからさっさと着替えてしまう。
 今日は先輩とシフトが同じだ。先輩はとても綺麗な人で、それでいて賢い人だ。私の憧れの人だ。だから先輩とシフトが一緒だと働くのがちょっと楽しかったりもする。

「おはよう、三河さん」

 先輩は食器類を布巾で拭き、棚に戻す作業をしていた。時刻はまだ十八時前。お客さんが混み始めるのはまだ少し先だ。

「おはようございます、先輩」

 挨拶をし、私も作業に移る。各テーブルをこれから来店するであろうお客さんのために拭いていく。ついでにテーブルに置かれている塩や醤油、タバスコといった薬味が減っていないかのチェックをする。少なくなっているものは交換し、それが終えたら床を軽く掃除。ちりとりのゴミを捨て、半分程度まで溜まっているゴミ袋は新しいのと取替え、ゴミは収集箱に入れる。
 キッチン担当の人は混む前に休憩を取っているようで、バックヤードでタバコを吸っている人と、スマホを弄ってる人がいた。私が来た時にはまだ休憩に入っていなかったから恐らく、私が来た事で休憩に入ったのだろう。挨拶をしておく。

「三河さん」
「あ、先輩、どうしました?」
「あれから部活はどう?」

 先輩は何かと私に気を遣ってくれる。理由は分からないけど、きっと優しいのだろう。

「部長が受験前でピリピリしてますねー」
「あら、それは良くないわね。部長なんだから堂々としてないと」
「そうは言っても、どうしても緊張しちゃいますよ」
「私はしなかったけど?」

 いつも思うけど、先輩って大物なのではないだろうか。受験という人生の分岐路に立ってもなお、ただ普段の問題を解くのと何ら変わりないと言わんばかりに答えを記すだけだと。そう仰るわけで。
 私のようなただの一般人はもちろんこの高校の入学試験で心臓が破裂するのではないかと心配になるほどバクバクしたというのに。合格発表の日なんてとてもじゃないが、合否を見に行きたいような、見に行きたくないような、そんな両者の気持ちがせめぎ合っていた。
 それでも先輩は自分の番号は勿論記載されているだろうという確信を持って見に行ったのだろう。いや、ひょっとしたら合格は当たり前なのだから見に行く必要など無いと断じていた可能性も、この先輩であれば、ありえる。

「まぁ、私はともかく、部長がそんなに緊張していたら受かるものも受からなくなるわ。三河さん、多少強引にでも息抜きさせてあげた方が良いのではないかしら」
「え、でも...」
「何か学校で面白い事でも起きていないかしら?」

 一瞬、心臓が跳ねそうになる。この人は高校のOGとはいえ、卒業生だ。当然、もう高校には居ない。来る事もない。なのに「無い」と嘘をついても全てを見透かしてくるような、そんな、冷たいを目をしていた。

「え、えぇ...実は...」

 思わず呪いのビデオの話をしてしまう。
 この時私は思った。

(この人...怖い人だ...)

 もう十年以上前に私達一家を貶め、今も尚両親を苦しめている詐欺師の目と同じ目をしていた。
 背筋に百足のような不快な虫が這う感覚に襲われ、汗が一気に吹き出る。

(この人に嘘は付けない)

 もちろん、それ以外の悪意と呼べる行為は向けてはなならない。この人にそういった行為をしようものなら、今より更に悪い事態になる。
 根拠は一切ないが本能がそう告げる。直接何かをされたり言われた訳では無いが、野生の本能というものなのだろうか、心の奥底から警鐘が聞こえる。

「ふーん...そう...。呪いのビデオ...ね...」

 先輩は、さっきまでの冷たい目とは真逆の、心の底から楽しそうな目をしていた。

「先輩...?」
「いいわ、三河さん。その謎、部長さん向きだと思うわ。ぜひ『休息』を取らせてあげてね」
「は、はい...」

 とてもじゃないが、断れる雰囲気ではなかった。

 4

 数日後、運良くユウが呪いのビデオを手に入れてくれた。早速私はそれを部室に持っていき、強引な形で先輩も見なければいけない状況にもっていく。
 結果的に上手くいき、私と部長の二人で噂の呪いのビデオを見ていく。
 たかが数十分程度の短い動画で、内容もとっくに卒業したであろう数人の学生がこの学校の施設を紹介していくだけの非常につまらない映像だった。
 流石にまだ一年は経っていないが、一ヶ月もすれば学校の施設など嫌でも頭に入る。わざわざ知っている上に、現に通っている学校の紹介など、「もう知ってるって」と言いたくなる。
 しかしこの映像自体は学校のホームページに記載する、この高校に進学を考えている他学生向けのものだから仕方ないと言えば仕方ない。
 だが呪いのビデオと言われるからには何かしらの心霊的なものが映り込んでしまっているのではないか。
 私はそう考えて映像の端から端まで凝視していた。
 そんな時、何の変哲もない、ただの化学室を紹介している映像の途中に私に異変が現れた。

「気持ち悪い...」

 インフルエンザにかかってしまった時のような胃から逆流してくるあの感覚。胃酸も一緒に上がってきているのだろう、喉の辺りが非常に不快だった。
 部長が急いで部室にあった、ゴミ箱につけるようの袋を私の口に当ててくれた。

「おぇっ...」

 何とか袋が宛てがわられるまでは我慢できていたが、堰き止めていたものが一気に袋の中に吐き出される。酸っぱい臭いが私の鼻を容赦なく襲ってくる。口の中が気持ち悪い。うがいしたい。

「水買ってきます」

 何とか吐き気も治まった頃に私は部室を出て、水を買いに行った。
 買った水でトイレの洗面台でうがいをする。その後に喉にはまだ少し嘔吐したものが残っている感覚があったので、水を飲む。
 ふー、多少はスッキリした。だがそれでも身体が気怠い。

(呪いのビデオって本物なのかな...)

 あの何の変哲もない、ただただつまらないなんの面白みもない映像の何処が呪われているというのだろう。その原因は、何なのだろうか。

「うっ...」

考えるとまたしても気持ち悪さが襲ってくるので、今日はもう帰ることにしよう。

 5

 次の日も体調がいまいち優れず、私は学校を休んだ。だからその日、学校で何があったかは知らない。
 その次の日には流石に体調も元通りになっていたので学校に行った。そうするとどういう事なのだろうか、映研の人達があの呪いのビデオを全て躍起になって回収していったという。

「何があったの?」
「いや、分かんない。とにかくコピーした分も回収するって」

 手頃に近くにいたユウに話を聞いたがユウも何も分かっていなかった。
 元を回収するだけならまだ分からなくもないが、コピーまで回収する徹底さは何か違和感があった。
 一昨日に部長に映像を見せた次の日に躍起になってコピーされた分まで例のビデオを回収したというのは些か偶然にしては出来すぎている気がする。
 まさかとは思うが...。

「あぁ、あれ?うん、まぁ、『良くないもの』ではあったよね」

 放課後、今日も今日とて部室で受験勉強をする部長に話を聞いてみたところ、そう返ってきた。
 因みに私の聞き方は「呪いのビデオが回収されたらしいけど、何か知っていますか?」だ。若干解答としてはズレている気がする。

「回収されたのは僕がそう勧めたからだよ」
「部長が?」
「まぁ、流石に部員が倒れたとなると、僕だって呪いのビデオの秘密を暴かざるを得ないよ。部長だからね」

 飄々とした雰囲気で言う。何だろう、あの時の先輩程冷たい目も雰囲気もしていないのに同類の似たような恐ろしいものを感じた。

「なんだったんですか?」
「あれはサブリミナル効果を使った映像だったんだよ」
「サブリミナル効果?」
「そう、映像のコマとコマの間に別の何も関係ないコマを一瞬だけ挟むんだ。アメリカで普通の映画にコーラの映像のコマを一瞬だけ挟んだものを流すと売上が三十パーセント上がったという話もあるしね」
「あの映像には、何が挟まってたんですか?」
「挟まれてたのは、ちょっとアレなグロテスクな画像がほんの一瞬だけ挟まれてたよ」
「え、でも、私そんなの分からなかったですよ」
「目には見えなくても、脳はきちんと認識してるんだ。無意識下だとしてもね。だからこそのサブリミナル効果だったんだよ。そこに事前に『これは呪われているビデオだ』なんて情報を聞かされていたら、感受性の強い人なら気分悪くなる事もあるだろうね」

 という事らしい。正直私はちんぷんかんぷんで部長が何を言っているのかさっぱりだった。

「でもこれは一種の洗脳行為だからね。もちろん法的に禁止されてる」
「えっ、でも、あの映像は五年前に作られたものなんですから今の人達には関係ないものじゃ」
「いや、あれは今の部員達が作ったものだよ」
「え、そうなんですか」

 部長曰く、呪いのビデオは今の部員、少なくとも去年卒業した人達が悪ふざけで作ったものらしい。それが分かったのは映研の人に話を聞いて、五年前の人達が作ったにしては、呪われている理由等がやけに詳しかったからカマをかけたらしい。それと映像の秘密と違法だということを話して、回収を勧めたらしい。
 それが私が学校を休んでいる間にあった出来事らしい。

「なんだ、結局呪いなんてなかったんですね」
「被害者がよくそれ言うね」
「む、それとこれとは別ですよ」

 私はホラーが嫌いではない。弟達と一緒に見る程度には興味もあるし、好きでもある。
 だからこそ、現実離れした『呪い』というものにロマンも感じていた。
 だが、いざ箱を開けるとそこすらも科学に冒されている、面白みの欠片もない退屈な世界だった。

「はぁ...」

 溜め息一つ思わず零してしまう。

「面白くなーい...」

 私の呟きは部長にも聞こえていたはずなのに部長は淡々と問題集を解き始めた。
 もう流石に部長の邪魔は出来ないだろう。
 受かる様に私も少しばかり祈ってますよ、部長。
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