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最終章・約束の冠
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——戴冠と婚姻の儀、当日。
空は、悲しいほどに青く晴れ渡っていた。
清々しい晴天の下、国の民は誰もが言祝ぎ、新しき王と妃の誕生を歓迎した。
——この結婚は、神に祝福されている。
マルディーヴァの国はそんな予感に満ち、まだ見ぬ行く末に、明るい未来図を描き抱いていた。
♫
はるかに仰ぎ、麗しの
緑に萌える、神の御座
森より深き、慈悲と愛
栄光授けし、神の名を
かそけき風に、謳いませ
♫
——マルディーヴァ城の奥宮、神の居所、シンクス。
国の中枢たる神域には、今、神を讃える聖歌が響いている。
参列者の歌声が祝福を彩る中、燦然と輝く聖石の前に立つのは、これから若き王となる男と、王妃となる女だ。
若き王子・レインハールと、妻となる王女・フェルワ。
婚礼の衣を纏った二人の若き門出を、参列する両国の父王が、マルディーヴァとデルワトールの城の者が、一心に見守っている。
レインハールが、そっとフェルワの手を取った。
いつか触れた、マルディーヴァの手とは違う温もりに、レインハールは瞳を沈ませる。
一歩、二歩。
足を揃えたふたりが、目前まで歩み寄ったのは——マルディーヴァへと通じる、スピリール。
幼き頃から、想いを語り続けた聖石。
その恋の証に、レインハールは今、決別の意を抱き向かい合っている。
「レインハール=マール=ハイエンファルト。王の血を継ぎし、宿命の子よ。汝は今、王冠を戴き、民を導く王となる運命に立つ。剣を以て国を守り、慈愛を以て国を治め、その命の全てを賭して王の勤めを全うする覚悟があるか?この国を守る柱神・マルディーヴァと、今は亡き祖先の前に、誓いを立てる覚悟があるか?」
神司の問いに、レインハールは答える。
「我、レインハール=マール=ハイエンファルトの名において誓う。この命を国に捧げ、民のために剣を振るい、真なる心で治め、栄えあるこの大地を未来へ継がんことを」
澱みのない誓いに、神司はさらに続ける。
「更に問う。レインハールよ。汝は、傍らに立つこの者を妃とし、共に在り、共に歩み、共に苦しみ、いかなる時も心を分かち合い、ともに天命を全うする伴侶として迎えると誓うか?」
突きつけられた問いかけに、レインハールの胸が深く穿たれる。
懊悩に、目蓋を固く閉じ。
レインハールは——覚悟に唇を震わせる。
「……我、彼女を心より愛し、敬い、いかなる困難の時も傍に在り、生ある限り……ただ一人の伴侶として、永遠に添い遂げることを誓う」
——偽りの愛は、誓いとなる。
しかしその誓いを、誰もが祝福する。
「ならば、神々と万民の証のもとに此処に宣言する。レインハールは、今より六大国がひとつ、マルディーヴァの新たなる王なり。そしてデルワトールが姫、フェルワは、正妃としてその玉座を共にする者なり」
神司の宣言と共に、参列者が皆、国の前途を祝し胸に手を当てる。
「新たなる王の証を、その頭頂に」
恭しく差し出されたのは、王の冠。
黄金と白金で飾り作られた冠は、白い花の冠のように、枯れることなどありはしない。
——その重く輝く王の証が、今、レインハールの頭頂へと降り立つ。
「新たなる王、レインハールよ。ここに、永久の愛を誓う口付けを」
神司の導きに爪先を変え、純白のドレスを纏ったフェルワと向き合う。
薄く繊細なベールをめくれば、凛々しくも美しい、深緑の双眸が露わになる。
——しかしそこに、レインハールの姿は、映ってはいなかった。
フェルワの瞳は、アルティスを亡った日から、哀しみに凍ったまま時を止めていたのだ。
『フェルワは少し気の強いところがあるが、根は優しいし、弱い部分だってある。俺はそんなフェルワを、好ましいと思っているよ』
いつかの兄の言葉が蘇る。
そして、好ましいと思っていたのは、兄だけではなかったのだと思い知る。
——フェルワは、アルティスを愛していた。
レインハールは、目の前で向き合うフェルワもまた——愛を失った者なのだと知った。
望まぬ婚姻。
互いに違う者を愛しているのに、その愛が結実する日は来ない。
身を裂きちぎる悲しさを。
胸を押しひしぐ苦しさを。
同志として分かち合い、背負い合うように——レインハールは、フェルワへと口付ける。
心を捧げた相手ではない。
それでも——この痛みだけは、彼女と分かち合える。
——それは、悲しくもあたたかな、初めての口付けだった。
「王と妃に、万と栄光の祝福あれ」
「「王と妃に、万と栄光の祝福あれ」」
婚姻は結ばれた。
神司の祝詞を、人々が反唱する。
「マルディーヴァの未来に、万と栄光の祝福あれ」
「「マルディーヴァの未来に、万と栄光の祝福あれ」」
洋々とした前途を信じ、民は謳い、喝采する。
——若き二人の恋の死を、誰も知ることないままに。
空は、悲しいほどに青く晴れ渡っていた。
清々しい晴天の下、国の民は誰もが言祝ぎ、新しき王と妃の誕生を歓迎した。
——この結婚は、神に祝福されている。
マルディーヴァの国はそんな予感に満ち、まだ見ぬ行く末に、明るい未来図を描き抱いていた。
♫
はるかに仰ぎ、麗しの
緑に萌える、神の御座
森より深き、慈悲と愛
栄光授けし、神の名を
かそけき風に、謳いませ
♫
——マルディーヴァ城の奥宮、神の居所、シンクス。
国の中枢たる神域には、今、神を讃える聖歌が響いている。
参列者の歌声が祝福を彩る中、燦然と輝く聖石の前に立つのは、これから若き王となる男と、王妃となる女だ。
若き王子・レインハールと、妻となる王女・フェルワ。
婚礼の衣を纏った二人の若き門出を、参列する両国の父王が、マルディーヴァとデルワトールの城の者が、一心に見守っている。
レインハールが、そっとフェルワの手を取った。
いつか触れた、マルディーヴァの手とは違う温もりに、レインハールは瞳を沈ませる。
一歩、二歩。
足を揃えたふたりが、目前まで歩み寄ったのは——マルディーヴァへと通じる、スピリール。
幼き頃から、想いを語り続けた聖石。
その恋の証に、レインハールは今、決別の意を抱き向かい合っている。
「レインハール=マール=ハイエンファルト。王の血を継ぎし、宿命の子よ。汝は今、王冠を戴き、民を導く王となる運命に立つ。剣を以て国を守り、慈愛を以て国を治め、その命の全てを賭して王の勤めを全うする覚悟があるか?この国を守る柱神・マルディーヴァと、今は亡き祖先の前に、誓いを立てる覚悟があるか?」
神司の問いに、レインハールは答える。
「我、レインハール=マール=ハイエンファルトの名において誓う。この命を国に捧げ、民のために剣を振るい、真なる心で治め、栄えあるこの大地を未来へ継がんことを」
澱みのない誓いに、神司はさらに続ける。
「更に問う。レインハールよ。汝は、傍らに立つこの者を妃とし、共に在り、共に歩み、共に苦しみ、いかなる時も心を分かち合い、ともに天命を全うする伴侶として迎えると誓うか?」
突きつけられた問いかけに、レインハールの胸が深く穿たれる。
懊悩に、目蓋を固く閉じ。
レインハールは——覚悟に唇を震わせる。
「……我、彼女を心より愛し、敬い、いかなる困難の時も傍に在り、生ある限り……ただ一人の伴侶として、永遠に添い遂げることを誓う」
——偽りの愛は、誓いとなる。
しかしその誓いを、誰もが祝福する。
「ならば、神々と万民の証のもとに此処に宣言する。レインハールは、今より六大国がひとつ、マルディーヴァの新たなる王なり。そしてデルワトールが姫、フェルワは、正妃としてその玉座を共にする者なり」
神司の宣言と共に、参列者が皆、国の前途を祝し胸に手を当てる。
「新たなる王の証を、その頭頂に」
恭しく差し出されたのは、王の冠。
黄金と白金で飾り作られた冠は、白い花の冠のように、枯れることなどありはしない。
——その重く輝く王の証が、今、レインハールの頭頂へと降り立つ。
「新たなる王、レインハールよ。ここに、永久の愛を誓う口付けを」
神司の導きに爪先を変え、純白のドレスを纏ったフェルワと向き合う。
薄く繊細なベールをめくれば、凛々しくも美しい、深緑の双眸が露わになる。
——しかしそこに、レインハールの姿は、映ってはいなかった。
フェルワの瞳は、アルティスを亡った日から、哀しみに凍ったまま時を止めていたのだ。
『フェルワは少し気の強いところがあるが、根は優しいし、弱い部分だってある。俺はそんなフェルワを、好ましいと思っているよ』
いつかの兄の言葉が蘇る。
そして、好ましいと思っていたのは、兄だけではなかったのだと思い知る。
——フェルワは、アルティスを愛していた。
レインハールは、目の前で向き合うフェルワもまた——愛を失った者なのだと知った。
望まぬ婚姻。
互いに違う者を愛しているのに、その愛が結実する日は来ない。
身を裂きちぎる悲しさを。
胸を押しひしぐ苦しさを。
同志として分かち合い、背負い合うように——レインハールは、フェルワへと口付ける。
心を捧げた相手ではない。
それでも——この痛みだけは、彼女と分かち合える。
——それは、悲しくもあたたかな、初めての口付けだった。
「王と妃に、万と栄光の祝福あれ」
「「王と妃に、万と栄光の祝福あれ」」
婚姻は結ばれた。
神司の祝詞を、人々が反唱する。
「マルディーヴァの未来に、万と栄光の祝福あれ」
「「マルディーヴァの未来に、万と栄光の祝福あれ」」
洋々とした前途を信じ、民は謳い、喝采する。
——若き二人の恋の死を、誰も知ることないままに。
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