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春の章 遠くに咲く花5
それからも私は、『白雪さんとお友達になろう計画』の成功を目指し、奮闘し続けた。
昼休みや放課後は、間を開けつつも通い詰めてる。偶然見つけたフリして、会って挨拶して、こっそり隣に座って。
たまに会話してくれたら大成功!本の話は好きみたいだから、なるべく情報も仕入れて臨んだけど、知識量が圧倒的すぎて話についてはいけなかった。
でも、でもでもっ!
白雪さんに笑顔が増えた!!
笑顔っていうのかな……?もしかしたら私が笑われてるだけかもしれないけど、それでも楽しそうにしてる気がする!
これはもう、お友達と言ってもいいのでは……?
そう思って、思い切ってお昼に誘ったら、なっ、なんと!オッケーをもらっちゃった!!
嬉しすぎた私は、美樹たちそっちのけで白雪さんとお昼を食べることにした。図書室以外で会うのは初めてで緊張するけど、約束した裏庭なら気兼ねなくおしゃべり出来るし、たくさんお話が出来そう!
きっと、絶対、楽しい時間になる!!
そう思って迎えた日は、なんだかいつもより空が眩しく感じた。
ホントに晴れてよかった。雨だったら、本気で泣いてたかもしれない。
昼休み開始のチャイムと共に、ランチトートを持って教室を出る。美樹たちには、他のクラスの委員の子と食べるって言ってある。
……まぁ、ウソなんだけど。でも白雪さんと食べるとは、やっぱ言いづらくて。
昇降口から外靴に履き替えて、ぐるっと裏手へ回る。校舎裏には芝生があって、この時間は日陰だけど、人通りが少なくてすごく静かな場所だ。
大きな桜の木が一本と、古びたベンチがひとつ。そんな寂れたロケーションだけど、人が居ない方がかえって都合はいい。
だって白雪さん、どこにいても視線を集めちゃうから。
人の少ない裏庭はどうですかって、私から提案した。普段は教室で食べてるらしいけど、「そこなら良さそうだね」って、乗り気になってくれた。
ベンチに腰掛けて、まだかまだかとそわそわする。「現地集合で」ってお願いしたけど、そろそろ来る頃かな。
…………やだな、なんか変にドキドキしてきたかも。髪型おかしくないかな?いつも通りだよね?前髪も、崩れてないよね?
「こんにちは、桜井さん。待たせたね」
気になって前髪をいじっていた私に、涼やかな声がかかる。私は弾かれたように顔を上げて、声の主——白雪さんを歓迎する。
「白雪さん!こんにちは!来てくれて嬉しいですっ!」
裏庭に面した、校舎の角。日向に立つ白雪さんはきらきらしてて、今日もすっごく素敵!
一瞬、眩しそうに目を細めた白雪さんが、光と影の境界を超えてくる。私のそばに歩み寄って、小さく微笑んでくれる。
「ここ、どうぞ!」
「ありがとう。お邪魔するよ」
席を勧めると、白雪さんはスカートの皺をそっと撫でてから、静かに横へ腰を下ろした。
隣って、距離近いな……。図書室でも隣に座ってたけど、本に集中してる白雪さんって、ちょっと遠い感じだったし。
なんだかいつもより、物理的にも精神的にも距離が近い気がする。そう意識すると、なんだか緊張してきちゃう。
「し、白雪さんって、お弁当なんですか?私はいつも、お母さんのお弁当なんですけど!」
上擦った声で、小花柄のランチトートを見せつける。白雪さんはそれを見て、コンビニのビニール袋を軽く持ち上げて答える。
「私はいつも途中で買っているよ。ほら」
そう言って取り出したのは、昆布のおにぎりと、ハーブ味のサラダチキンと、豆と野菜のサラダ。チョイスが質素というかヘルシーというか……白雪さんらしいかも。私なら絶対スイーツ買ってるもん。
「白雪さんはお弁当じゃないんですね」
「うちは母が書の先生をしていて、朝から忙しいことが多いからね。作ろうとはしてくれるけど、コンビニでいいって断ってるんだ」
「そうなんだ……お母さん思いなんですね」
「その方が煩わしくないだけだよ。親子とはいえ、作る方も作られる方も気を遣うだろう?それなら、買った方がお互い気が楽だと思ってね。……まぁ、お金を出してもらっている身ではあるんだけどね」
……そんな考え方するんだ。
私、何も考えずにお母さんにお弁当作ってもらってたし、それが当たり前だと思ってた。でも、白雪さんはちゃんとお母さんのこと考えてて……なんだか急に、お弁当出すのが恥ずかしくなってきちゃった。
もじもじしだした私に、サラダを開けた白雪さんが、「食べないのかい?」って声をかけてくれる。
私がお弁当だってことを気にした様子はない。たぶん、人のことまで気にはしないんだ。
自分は自分、人は人。なんとなく、そんな線引きを感じる。
それってちょっと距離があって、冷たいようで——でもきっと、白雪さんにとっては、自分と相手を尊重していることなのかもしれない。
そう思うのは、こうして話してみて、白雪さんを冷たい人だと思ったことがないから。人嫌いだったとしたら、私のために本を選んでくれるはずがないもん。
自分の中でそう結論づけて、お弁当箱を開いた。
私の好きな星型ポテトと甘い卵焼きが入っていることに、今日はなんだか感謝したい気持ちになる。
——それから私たちは、晴れた空の下、他愛のない会話をしながらお昼を一緒に食べた。
クラスのこと、授業のこと、休みの日は何をしてるか。
聞きたいこと、話したいことがいっぱいあって、私は尽きることなくしゃべりかけ続けた。
そうしてる間にお互い食べ終えて、残り少なくなった休み時間が、どんどん惜しくなってくる。まだ終わってもないのに、この時間に終わりが来ることが、すでに寂しいと思ってる。
私、もっと白雪さんといたいんだ。
ハッキリそう思った時——白雪さんがふと、それまでの穏やかな微笑みを失くした。
「……桜井さんは、どうして私を誘ったんだい?」
突然の問いかけに、私たちの間の空気が揺れる。
——え?どうしてそんなこと聞くの?
言葉の意図がわからなくて、私は息を止めて続きを待った。
白雪さんの瞳が、ゆっくりと遠ざかる。
弱く風が吹いて、花を散り終えた桜の木が、緑の葉をさざめかせる。
「君の耳に私の噂は入っていただろうから、好奇心の一環なのかな。噂される人間はどんな人間かと、気にでもなったのかな」
「違いますッッ!!」
言い終わるか終わらないかの寸前に、大声で遮った。
ほとんど勢いだった。どうしても否定したくて、居ても立っても居られなくて。
白雪さんはそんな私に、すごく驚いた顔で振り向いた。
目を大きく見開いて、ちょっと口を開けて。それまで見てきた表情にはなかった、初めての表情だった。
「そんなこと絶対ないです!!だって私、白雪さんと話すのすごく楽しいって思うし、もっと一緒にいたいって思うし!!」
必死だった。
どうしてもわかって欲しくて、今ある想いを全て、一生懸命言葉にした。
「私とは違う考えができる白雪さんって、大人でカッコいいなって思うし……でもでも!ただ尊敬って感じだけじゃなくて、ふとした時の優しさとか、時々ふって笑うところとか、全部全部素敵で!!だから私、白雪さんのこと、すごく好きだなって思ってますッ!!」
そこまで言い切って、ハッとした。
————あれ……?
私、今……『好き』って……?
——気づいた途端、ぶわっと、顔に血が上った。
言葉は勝手に飛び出してた。
心が遅れて追いついた頃に、好きって言葉の意味がわかった。
こんな気持ち、知らなかったのに——
気づいてしまった。
私は、白雪さんに、恋してるんだって。
「……好き?私のことが?」
驚いた表情が、不思議色に塗り変わっていく。
難解な問題を突きつけられたみたいな顔で、白雪さんは眉を顰めて、私を見つめ続けてる。
「いや、今のは……あっ、あの!そういう意味じゃなくて!!変な意味とは、全然違くてっ!!」
語れば語るほど、泥沼だった。
勢い任せに飛び出した告白は、取り消すことなんてできない。
それでも誤魔化そうと思えばできたはずなのに、そんな余裕は、どこにもなくて。
……ただ、ずっと。唇が、震えてて。
——白雪さんの瞳が、ゆっくりと、音もなく細められる。
私の心臓が、胸を突き破りそうなくらい、ドキッと強く跳ね上がる。
「……そういう意味じゃない『好き』とは、どういうものなのかな?」
突き詰められて、頭は真っ白になった。
「友達として」だと、笑って答えるだけでいいのに。それだけで、きっとこの関係は続けられるのに。
——なのに、白雪さんの前では、嘘をつくのがいけないことのような気がして。
……ううん。そうじゃない。
私が、今、白雪さんに。
本当の気持ちを……伝えたいんだ。
「……ごめんなさい。本当は、恋愛としての……特別って意味の、『好き』です……」
弱く霞むように告白をすれば、白雪さんはまた驚いて、一度だけ大きな瞬きをした。
白雪さんが、深く考え込む。視線を芝生に落として、口元を指で覆い隠して。
その無言の時間は、地獄の審判を待っているようだった。
一瞬、強い風が吹き抜けた。
私と白雪さんの髪が、スカーフとスカートの裾が、乱暴に荒らされる。
——そうして過ぎ去った風のあとに、白雪さんは、静かに唇を開く。
「……悪いけど、私は、君のいう『好き』を持ち合わせてはいないよ」
それは、拒否の言葉だった。
耳に触れ、脳に届いた瞬間。
思考が働くよりも先に、涙が込み上げてくる。
——やっぱり、そうだよね。
いきなりこんなこと言われたって、困るよね。
じわじわと追いついた気持ちが、深く沈んでく。涙がこぼれそうになって、でもこれ以上困らせたくなくて、私は必死に芝生を見つめながら、震える唇を強く噛んだ。
……振られたんだ、私。
——そう、思ったのに。
「でも——君の言葉は、興味深いね」
「…………え?」
続いた言葉の優しい響きに、私は、思わず顔を上げてしまった。
——涙で潤んだ視界に、白雪さんの穏やかな笑みが滲む。
「君が好意を示してくれたのは、どれも私の内側だ。私の外側以外の部分に人の好意が宿るなんて、なんだか不思議な気分だよ」
清々しく、どこか嬉しそうに。
今までで一番綺麗な笑顔が、私に向けられる。
「桜井さん。私は君のことを、すごく面白いと思っている。君の素直で純粋な部分は好ましいし、好きか嫌いかで言えば、私は君が好きだよ」
え?
え??
今……私、好きって言われた???
「君が望む『好き』とは、異なる種類だと思うけどね。それでも、君と過ごす時間が楽しいと思っているのは本当だよ」
「じゃ、じゃあ!!それなら私とっ!!付き合ってくれませんか!?」
「え?」
しまった……また暴走しちゃった!
でも好きって言われて、気持ちが止まらなかったの。
そういう意味じゃないって言われたけど、それでもいいからって思っちゃったの。
「あの、えっと、あのっ!!お、お友達よりも、もうちょっと仲良しって感じのでいいんですッ!!白雪さんさえ嫌じゃなかったら、そういうお付き合い、私としてくれませんか!?」
強引にもほどがあると、自分でも思った。
それでも引っ込むことなんて出来なくて、身を乗り出しては、心に訴えるような目で真剣に白雪さんを覗き込んでた。
白雪さんは、私から決して目を逸らさなかった。
——黒い宝石みたいな瞳に、縋るような私が、ずっと映ってる。
「付き合うというものが、どういうものかわからないけど……」
——薄紅色の唇が、想いを、言葉にしてくれる。
「君との時間を増やすという意味なら……私は、歓迎だよ」
——届いた。
私の気持ちが、白雪さんに、届いたんだ。
心臓が一瞬、音を止めた。
そしてすぐに、急スピードで走り出す。
身体中に嬉しさがあふれてるのに、指ひとつ動かない。
「ありがとう」とか「嬉しい」とか、伝えたい言葉のひとつも出てこない。
私はただ、白雪さんの目に映る私を、ずっと見ていた。
——白雪さんの世界に、私がいる。
進むことを忘れたような時の中で——そんな実感だけが、私の心に、優しく積もっていった。
昼休みや放課後は、間を開けつつも通い詰めてる。偶然見つけたフリして、会って挨拶して、こっそり隣に座って。
たまに会話してくれたら大成功!本の話は好きみたいだから、なるべく情報も仕入れて臨んだけど、知識量が圧倒的すぎて話についてはいけなかった。
でも、でもでもっ!
白雪さんに笑顔が増えた!!
笑顔っていうのかな……?もしかしたら私が笑われてるだけかもしれないけど、それでも楽しそうにしてる気がする!
これはもう、お友達と言ってもいいのでは……?
そう思って、思い切ってお昼に誘ったら、なっ、なんと!オッケーをもらっちゃった!!
嬉しすぎた私は、美樹たちそっちのけで白雪さんとお昼を食べることにした。図書室以外で会うのは初めてで緊張するけど、約束した裏庭なら気兼ねなくおしゃべり出来るし、たくさんお話が出来そう!
きっと、絶対、楽しい時間になる!!
そう思って迎えた日は、なんだかいつもより空が眩しく感じた。
ホントに晴れてよかった。雨だったら、本気で泣いてたかもしれない。
昼休み開始のチャイムと共に、ランチトートを持って教室を出る。美樹たちには、他のクラスの委員の子と食べるって言ってある。
……まぁ、ウソなんだけど。でも白雪さんと食べるとは、やっぱ言いづらくて。
昇降口から外靴に履き替えて、ぐるっと裏手へ回る。校舎裏には芝生があって、この時間は日陰だけど、人通りが少なくてすごく静かな場所だ。
大きな桜の木が一本と、古びたベンチがひとつ。そんな寂れたロケーションだけど、人が居ない方がかえって都合はいい。
だって白雪さん、どこにいても視線を集めちゃうから。
人の少ない裏庭はどうですかって、私から提案した。普段は教室で食べてるらしいけど、「そこなら良さそうだね」って、乗り気になってくれた。
ベンチに腰掛けて、まだかまだかとそわそわする。「現地集合で」ってお願いしたけど、そろそろ来る頃かな。
…………やだな、なんか変にドキドキしてきたかも。髪型おかしくないかな?いつも通りだよね?前髪も、崩れてないよね?
「こんにちは、桜井さん。待たせたね」
気になって前髪をいじっていた私に、涼やかな声がかかる。私は弾かれたように顔を上げて、声の主——白雪さんを歓迎する。
「白雪さん!こんにちは!来てくれて嬉しいですっ!」
裏庭に面した、校舎の角。日向に立つ白雪さんはきらきらしてて、今日もすっごく素敵!
一瞬、眩しそうに目を細めた白雪さんが、光と影の境界を超えてくる。私のそばに歩み寄って、小さく微笑んでくれる。
「ここ、どうぞ!」
「ありがとう。お邪魔するよ」
席を勧めると、白雪さんはスカートの皺をそっと撫でてから、静かに横へ腰を下ろした。
隣って、距離近いな……。図書室でも隣に座ってたけど、本に集中してる白雪さんって、ちょっと遠い感じだったし。
なんだかいつもより、物理的にも精神的にも距離が近い気がする。そう意識すると、なんだか緊張してきちゃう。
「し、白雪さんって、お弁当なんですか?私はいつも、お母さんのお弁当なんですけど!」
上擦った声で、小花柄のランチトートを見せつける。白雪さんはそれを見て、コンビニのビニール袋を軽く持ち上げて答える。
「私はいつも途中で買っているよ。ほら」
そう言って取り出したのは、昆布のおにぎりと、ハーブ味のサラダチキンと、豆と野菜のサラダ。チョイスが質素というかヘルシーというか……白雪さんらしいかも。私なら絶対スイーツ買ってるもん。
「白雪さんはお弁当じゃないんですね」
「うちは母が書の先生をしていて、朝から忙しいことが多いからね。作ろうとはしてくれるけど、コンビニでいいって断ってるんだ」
「そうなんだ……お母さん思いなんですね」
「その方が煩わしくないだけだよ。親子とはいえ、作る方も作られる方も気を遣うだろう?それなら、買った方がお互い気が楽だと思ってね。……まぁ、お金を出してもらっている身ではあるんだけどね」
……そんな考え方するんだ。
私、何も考えずにお母さんにお弁当作ってもらってたし、それが当たり前だと思ってた。でも、白雪さんはちゃんとお母さんのこと考えてて……なんだか急に、お弁当出すのが恥ずかしくなってきちゃった。
もじもじしだした私に、サラダを開けた白雪さんが、「食べないのかい?」って声をかけてくれる。
私がお弁当だってことを気にした様子はない。たぶん、人のことまで気にはしないんだ。
自分は自分、人は人。なんとなく、そんな線引きを感じる。
それってちょっと距離があって、冷たいようで——でもきっと、白雪さんにとっては、自分と相手を尊重していることなのかもしれない。
そう思うのは、こうして話してみて、白雪さんを冷たい人だと思ったことがないから。人嫌いだったとしたら、私のために本を選んでくれるはずがないもん。
自分の中でそう結論づけて、お弁当箱を開いた。
私の好きな星型ポテトと甘い卵焼きが入っていることに、今日はなんだか感謝したい気持ちになる。
——それから私たちは、晴れた空の下、他愛のない会話をしながらお昼を一緒に食べた。
クラスのこと、授業のこと、休みの日は何をしてるか。
聞きたいこと、話したいことがいっぱいあって、私は尽きることなくしゃべりかけ続けた。
そうしてる間にお互い食べ終えて、残り少なくなった休み時間が、どんどん惜しくなってくる。まだ終わってもないのに、この時間に終わりが来ることが、すでに寂しいと思ってる。
私、もっと白雪さんといたいんだ。
ハッキリそう思った時——白雪さんがふと、それまでの穏やかな微笑みを失くした。
「……桜井さんは、どうして私を誘ったんだい?」
突然の問いかけに、私たちの間の空気が揺れる。
——え?どうしてそんなこと聞くの?
言葉の意図がわからなくて、私は息を止めて続きを待った。
白雪さんの瞳が、ゆっくりと遠ざかる。
弱く風が吹いて、花を散り終えた桜の木が、緑の葉をさざめかせる。
「君の耳に私の噂は入っていただろうから、好奇心の一環なのかな。噂される人間はどんな人間かと、気にでもなったのかな」
「違いますッッ!!」
言い終わるか終わらないかの寸前に、大声で遮った。
ほとんど勢いだった。どうしても否定したくて、居ても立っても居られなくて。
白雪さんはそんな私に、すごく驚いた顔で振り向いた。
目を大きく見開いて、ちょっと口を開けて。それまで見てきた表情にはなかった、初めての表情だった。
「そんなこと絶対ないです!!だって私、白雪さんと話すのすごく楽しいって思うし、もっと一緒にいたいって思うし!!」
必死だった。
どうしてもわかって欲しくて、今ある想いを全て、一生懸命言葉にした。
「私とは違う考えができる白雪さんって、大人でカッコいいなって思うし……でもでも!ただ尊敬って感じだけじゃなくて、ふとした時の優しさとか、時々ふって笑うところとか、全部全部素敵で!!だから私、白雪さんのこと、すごく好きだなって思ってますッ!!」
そこまで言い切って、ハッとした。
————あれ……?
私、今……『好き』って……?
——気づいた途端、ぶわっと、顔に血が上った。
言葉は勝手に飛び出してた。
心が遅れて追いついた頃に、好きって言葉の意味がわかった。
こんな気持ち、知らなかったのに——
気づいてしまった。
私は、白雪さんに、恋してるんだって。
「……好き?私のことが?」
驚いた表情が、不思議色に塗り変わっていく。
難解な問題を突きつけられたみたいな顔で、白雪さんは眉を顰めて、私を見つめ続けてる。
「いや、今のは……あっ、あの!そういう意味じゃなくて!!変な意味とは、全然違くてっ!!」
語れば語るほど、泥沼だった。
勢い任せに飛び出した告白は、取り消すことなんてできない。
それでも誤魔化そうと思えばできたはずなのに、そんな余裕は、どこにもなくて。
……ただ、ずっと。唇が、震えてて。
——白雪さんの瞳が、ゆっくりと、音もなく細められる。
私の心臓が、胸を突き破りそうなくらい、ドキッと強く跳ね上がる。
「……そういう意味じゃない『好き』とは、どういうものなのかな?」
突き詰められて、頭は真っ白になった。
「友達として」だと、笑って答えるだけでいいのに。それだけで、きっとこの関係は続けられるのに。
——なのに、白雪さんの前では、嘘をつくのがいけないことのような気がして。
……ううん。そうじゃない。
私が、今、白雪さんに。
本当の気持ちを……伝えたいんだ。
「……ごめんなさい。本当は、恋愛としての……特別って意味の、『好き』です……」
弱く霞むように告白をすれば、白雪さんはまた驚いて、一度だけ大きな瞬きをした。
白雪さんが、深く考え込む。視線を芝生に落として、口元を指で覆い隠して。
その無言の時間は、地獄の審判を待っているようだった。
一瞬、強い風が吹き抜けた。
私と白雪さんの髪が、スカーフとスカートの裾が、乱暴に荒らされる。
——そうして過ぎ去った風のあとに、白雪さんは、静かに唇を開く。
「……悪いけど、私は、君のいう『好き』を持ち合わせてはいないよ」
それは、拒否の言葉だった。
耳に触れ、脳に届いた瞬間。
思考が働くよりも先に、涙が込み上げてくる。
——やっぱり、そうだよね。
いきなりこんなこと言われたって、困るよね。
じわじわと追いついた気持ちが、深く沈んでく。涙がこぼれそうになって、でもこれ以上困らせたくなくて、私は必死に芝生を見つめながら、震える唇を強く噛んだ。
……振られたんだ、私。
——そう、思ったのに。
「でも——君の言葉は、興味深いね」
「…………え?」
続いた言葉の優しい響きに、私は、思わず顔を上げてしまった。
——涙で潤んだ視界に、白雪さんの穏やかな笑みが滲む。
「君が好意を示してくれたのは、どれも私の内側だ。私の外側以外の部分に人の好意が宿るなんて、なんだか不思議な気分だよ」
清々しく、どこか嬉しそうに。
今までで一番綺麗な笑顔が、私に向けられる。
「桜井さん。私は君のことを、すごく面白いと思っている。君の素直で純粋な部分は好ましいし、好きか嫌いかで言えば、私は君が好きだよ」
え?
え??
今……私、好きって言われた???
「君が望む『好き』とは、異なる種類だと思うけどね。それでも、君と過ごす時間が楽しいと思っているのは本当だよ」
「じゃ、じゃあ!!それなら私とっ!!付き合ってくれませんか!?」
「え?」
しまった……また暴走しちゃった!
でも好きって言われて、気持ちが止まらなかったの。
そういう意味じゃないって言われたけど、それでもいいからって思っちゃったの。
「あの、えっと、あのっ!!お、お友達よりも、もうちょっと仲良しって感じのでいいんですッ!!白雪さんさえ嫌じゃなかったら、そういうお付き合い、私としてくれませんか!?」
強引にもほどがあると、自分でも思った。
それでも引っ込むことなんて出来なくて、身を乗り出しては、心に訴えるような目で真剣に白雪さんを覗き込んでた。
白雪さんは、私から決して目を逸らさなかった。
——黒い宝石みたいな瞳に、縋るような私が、ずっと映ってる。
「付き合うというものが、どういうものかわからないけど……」
——薄紅色の唇が、想いを、言葉にしてくれる。
「君との時間を増やすという意味なら……私は、歓迎だよ」
——届いた。
私の気持ちが、白雪さんに、届いたんだ。
心臓が一瞬、音を止めた。
そしてすぐに、急スピードで走り出す。
身体中に嬉しさがあふれてるのに、指ひとつ動かない。
「ありがとう」とか「嬉しい」とか、伝えたい言葉のひとつも出てこない。
私はただ、白雪さんの目に映る私を、ずっと見ていた。
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