名もなき春に解ける雪

天継 理恵

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夏の章 焦がれる花火5

 本格的な夏がやってきた。

 七月に入ってもう中旬。真夏日が続く暑さの中、私と白雪さんは変わらず仲良くしていた。

 ううん。変わらないどころか、初デート以来もっと仲良くなれてる気がする!

 前よりも白雪さんに笑顔が増えたし、質問してくれることも増えたし、私のこと、すごく気にかけてくれてるみたい……。

 実は今日も放課後、一緒にお茶する約束してるんだ♡

 もちろん誘ったのはいつも通り私からなんだけど……でも、「誘ってくれてありがとう」って言ってくれたし、白雪さんは嫌なら嫌って言うタイプだろうから、そこは深く気にしないことにした!

 オッケーをもらえたから、どこに行こうかなってすっごく悩んで、あちこちお店を調べまくった。
 白雪さんが好きそうなとこってどんなかなって考えて、まず、落ち着いたとこの方がいいかなって思って。あと、珍しいものがあるところがいいかなとも思って。
 知らないこと知るのが大好きな白雪さんだから、専門店みたいに何かひとつに特化したところの方が、楽しめたりするんじゃないかなって考えてみたり……。

 そんな風に好きな人のこと考えるのって、本当に本当に楽しくて。
 

 ——幸せって、こういうことなんだなぁって。


 毎日毎日、白雪さんのことを思い浮かべながら……私は、ずっとそう実感してる。


「羽澄!羽澄ってば。はーずーみー!」

 そんな風に浸ってたら、目の前でパチン!と手を叩かれた。
 夢から醒めて瞬きすれば、美樹が呆れたように私を見てた。その側には、優里に凛、真由香もいる。

「もー!前からぼーっとしてたけど、最近ひどくなってない?授業中も休み時間も惚けてんじゃん。話聞いてる?」
「っ、ごめんごめん!なんの話だっけ?」
「やっぱ聞いてないし!」
「テスト終わったし、夏休みどうするって話!」
 
 ——あぁ、夏休みかぁ。

 今までだったら待ち遠しかったイベントも、学校で白雪さんに会えなくなると思うと、素直に喜べなくなる。
 というより、休みいらなくない?とまで思っちゃったりして。好きな人が出来るだけで、こんなに考えって変わるもんなんだなぁ……。

「で、遊園地いつにする?」
「夏休み中はいつでも混んでそうだよねー」
「お盆とかヤバそうだし、休み入ったらすぐ行こっか?」

 みんなで予定を話し合いながら、遊園地に行く予定を立てる。だけど私は、その話し合いの中でも、白雪さんを遊びに誘うことばかり考えてた。
 
 休みの間に、なんとかして会いたい。
 あわよくば、夏らしいイベントを白雪さんと楽しみたい。

 そう思った私はこっそりSNSを調べまくった挙句、普段は買わないタウン誌まで買って、白雪さんと行きたいところをピックアップしてた。


 そして決めたの!
 今日、私は、白雪さんを花火大会に誘うって!


 夏休みの終わり頃にあるイベントで、花火大会としては中規模くらいのやつ。有名な大会じゃないけど出店もあるみたいだし、ちょうどいいかなって思って。
 ……白雪さん、一緒に行ってくれるかな。「うん」って言ってくれるといいな。

 そんなことを考えてたら、いつのまにか遊園地に行く日にちは決まってた。いけない、ちゃんと予定メモっとかないと!
 スマホのスケジュールアプリにポチポチと予定を入れる。すぐ横では優里が机に頬杖をつきながら、ふと美樹に視線を移す。

「美樹は彼氏と海行くんでしょ?」
「そ。八月入ったらすぐね」

 出てきたのは、いつもの彼氏の話。私たちのグループでは美樹と真由香が彼氏持ちで、よくどこに行ったとか何をしたとか、自慢げに話すことが多い。
 ちなみに私は、彼氏いない派ってことになってる。……まぁ、間違いじゃないんだけど。『彼氏』じゃなくて、『彼女』だし。

「いいなー、彼氏。私もれんれんみたいな彼氏欲しい~!」
「凛は夢見すぎ。アイドルみたいな男なんてそうそういないんだから、現実見なって」

 いやいや、いるよ?白雪さんっていう、アイドル超えてる存在が!
 ……なんて、口には出せないけど。

「でもあたしも正直、真由香と美樹が羨ましいわ。二人みたいに彼氏とラブラブしたいもん」
「うんうん。彼氏出来たことないから、ファーストキスもまだだし。早くしたいよね~!ね、羽澄もそう思わない?」
「えっ!?」

 いきなり凛に話を振られて、思わず声が裏返っちゃった。
 ……だって、心に隠してた妄想をタイムリーに出されちゃったから。驚くに決まってるよ、そんなの。

「羽澄も彼氏いたことないんでしょ?初チューまだだよね?」
「う、うん……したことない」

 正直に答えながらも、頭の中ではもう、何度も妄想した白雪さんとのファーストキスがぐるぐるする。

 誰もいない図書室で。
 放課後の帰り道で。
 ——今度の、花火大会で。

 あらゆるシチュエーションで妄想するのは、いまや寝る前の日課になってる。白雪さんにキスされる妄想をしてはキャーッ!ってなって、ベッドの上でひとりでジタバタしてる。
 ……こんなの、美樹たちにはもちろんだけど、白雪さんにも絶対言えないよ。そもそも美樹たちには付き合ってるの内緒だし、なにより恥ずかしすぎるもん。


 ……でも、ホントは期待してるんだ。


 私の好きとは違うって言った白雪さんが、いつか、私に「好き」って言ってくれて。
 手を繋いでくれたり、抱きしめてくれたり、キスとか……いろいろ、してくれたりするんじゃないかって。

 そんな夢を見ちゃうのを、最近はもう、止められなくなってきてる。
 だって、会えば会うほど、話せば話すほど、白雪さんのことが好きで仕方なくなってくから。

「……憧れるよね、そういうの」

 つい本音がこぼれちゃう。
 そうしたら凛と優里がうんうんと頷いて、ちょっと勇気をもらえた。


 ——きっと、みんな同じなんだ。


 好きな人と、触れ合いたいって。
 そう、思うのは。


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