迷惑異世界のんびり道中記~ちびっ子勇者とともに~

沢野 りお

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勇者召喚と逃亡

勇者逃亡 ⑨

結局、当座の生活費のメドが立たないまま、出立の日を迎えてしまった。

マノロさんとドナトさん、姉が誑かした文官さんたちのご厚意で、テントや食器、毛布などを譲ってもらうことができた。テントは嵩張る荷物だけど、馬車に積んで運んでもらえるよう交渉もしてもらえた。

最悪、野宿する最低限の用意はできた。野宿は嫌だけど……。

姉を除いた橘家の顔色は冴えない。この先の未来が見えないからだ。トボトボと俯き馬車へと移動する。アーゲン国までの馬車を動かす御者さんは、何度もノイス国とアーゲン国を往復している乗合馬車の御者さんで、ベテランさんらしい。

「どうぞよろしくお願いします」

ペコリと橘家一同で頭を下げると、御者のおじさんはギョッとした顔で私たちを見た。あれ? 何か気に障ることでも言いましたか?

「ああ、任せておけ。こっちは護衛の冒険者パーティーだ」

御者さんの後ろには四人の冒険者たちが立っていた。護衛の冒険者パーティー「グランツ」は種族混合の男女二人ずつのパーティー。ズイと前に出て挨拶してくれたのはリーダーのエンリケさん。

「グランツのリーダー、エンリケだ。よろしくな」

顔をくしゃと崩して笑うので、こっちも笑顔で応える。

「た……ああ、ええとアオイです。こっちは妹のサクラとキッカ。あとこの子はコジローです。旅には慣れていないのでご迷惑をおかけするかもしれません。どうぞよろしくお願いします」

再び、橘家一同でペコリとお辞儀する。

「あ……ああ、任せとけ」

なぜ、私たちと挨拶すると、驚かれるのか……これも異世界あるあるなの? 

「グランツ」のメンバーは他に男の人でタンク役というチュイさんと小柄な女性の魔法使い、ドラさん、スタイル抜群で眼帯をしているニルダさん。一人一人に挨拶すると、全員が「えっ!」と驚く。なんなのだ……。

橘家と一緒にアーゲン国へと移動するのは、テントがお隣だった獣人家族のモーリッツさん一家と、顔は見知っている家族が二世帯で小次郎より大きな子が三人いる家族と、乳飲み子を抱えた若い夫婦。高校生ぐらいの若い男性が単身で二人。あとは、がっしりとした体のおじさんが一人と、年老いたお婆さんとその孫の二人連れ。

皆さんにもちゃんとご挨拶しましたよ。私たちには好意的だけど、やっぱりモーリッツさん一家に眉を顰める人もいた。がっしりした体のおじさんと年老いたお婆さんだ。どうも、種族差別は年配の方のほうがヒドイみたい。

「なるべく、あの人たちとは離れておきます」

こそっとモーリッツさんが私たちに告げると馬車の最後方へと座る。幌付きの荷馬車みたいな客席の場合、どうしても魔獣の襲撃を警戒して御者席に近い前の席が人気らしい。つまり、後ろの席は危険度が高いと思われている。
私たちは互いに顔を見合わせて、モーリッツさんたちの近くに座る。魔獣も怖いが、偏見で凝り固まった人の視線も怖いものである。

「さあさあ、乗ってくれ。出発するぞー」

マノロさんたちとの別れは昨日のうちに済ませてある。
さあ、出発だ。




































ノイス国の国境を無事に越えることができた。

ここまでで難民キャンプを出発してから五日が過ぎた。そもそもノイス国の国境に近い場所に難民キャンプがあったのに、次の国まで馬車で五日って遠いのか近いのか?

「ああ。ノイス国の国土はそんな広くない。特にトリーア国とアーゲン国に挟まれた地域は長細いんだ」

「へぇぇぇっ。じゃあアーゲン国からフュルト国まではどれくらい旅程かかります?」

馬車の後方に乗り魔獣を警戒する護衛冒険者のエンリケさんにいろいろと聞いて情報収集中です。本当はペラペラと喋っちゃダメらしいけど、兄の功績でタダで情報をゲットしています。えへへへ。

移動中の食事は味気ないもの。干し肉と固い黒パン、水で済ませ、小腹が空いたら栄養補助食みたいなバーを齧る。干し肉もパンも固いし、しょっぱいし酸っぱい。おやつのバーも歯が欠けるかと思う固さで味は不味い。どうも、野菜不足を防ぐためのものらしく、味は二の次三の次で作られている。齧って口の中に広がった苦味と雑味、鼻に抜ける臭みに悶絶しました。こっそり水筒の水をガブ飲みしたけど、しばらく口の中が麻痺した感じがしたわ。

そんな食事情に眉間にシワを寄せたのが我が兄。あっちの世界では橘家の家事全般を担っていた兄である。
初日の夜、背負っていた袋から鍋を出し、冒険者の人と一緒に川から水を汲んでスープを作り出した。ちなみに、水は水筒の水に代えておいたとか。炊き出しのおばさんたちから分けてもらった野菜と干し肉を入れ、こっそり神様から貰った不思議鞄から調味料をバレない程度加え、皆さんに配った。もちろん御者さんや冒険者の皆さんにも。
スープは固いパンを浸して食べるのにもいいし。しかも、兄は子ども用に固いパンをミルクでパン粥にして配った。これには、小次郎もウッツもロッツも大喜び。乳飲み子を抱えたママさんや、小次郎より大きいけど小学生高学年くらいの子どもたちもはぐはぐと食べていた。

そう……兄は「食」でみんなを味方につけたのだ!

それ以来、兄は食事係として辣腕を振るい、私はそのお零れを貰っている。

「アーゲン国からフュルト国。ああ……アーゲン国のウェルタ辺境伯領からフュルト国へ移動したいのか? そうだなぁ、馬車で十日ってとこかな。これでも近いほうだぞ。ただ……アーゲン国からフュルト国の間には大きな川が流れている。橋を渡るなら大回りするしかない。そうなると二十日はかかる。船で渡るのがお勧めだ」

「川……。船……」

その船って無料じゃないですよねぇぇぇぇっ。

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