死に戻りの処方箋

沢野 りお

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暴く

見知らぬ旦那様

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オレリアが引き取られた孤児院の近くに、外国船が着岸する小さな港がある。
この情報は、彼女を養女にしたジョルダン伯爵家の私的な船が交易する国の一つに、ヴォルチエ国があったことと照らし合わせると重要な意味を持つ。

船が運ぶのは物資だけ?
いいえ、他にも運ぶでしょ?

しかし、オレリアのことを深く調べようとすると闇が広がる。
こちらの危険度が増す。
私たち兄妹だけではなく、アンリエッタやニヴェール子爵家にも及ぶかもしれない。
だから……。

「それでね、例の港だけど二~三年に一度訪れる国籍不明の船があったよ」

「そうですか……」

私は午後の日差しが燦々と降り注ぐテラス、王都でも有名なカフェのテラスを貸し切りにして、とても美味しいケーキを食べている、と思う。
正直、信じられないあまりの状況に、ケーキの味なんてわからないわ!

「あれ? ここのケーキ、令嬢の間では有名だけど口に合わなかった?」

「いいえ、たいへん美味しゅうございます」

パクリとフォークに乗せたケーキの欠片を口に入れる。
だふん、美味しい。
でも、目の前に当然のように座って紅茶を飲むイレール様の存在が気になって、ケーキどころではないのよ。

「……たしか、余計な詮索をされないように、しばらくはお会いしないと決めたはずですが?」

「ちゃんと彼らの動きには気をつけている。問題の彼女もね。それに、そろそろニヴェール子爵家の子飼いたちでは荷が重いだろう? 誰かの命が失われたら、善良な君たちの心の負担も計り知れないしね」

そして、イレール様は小さな紙片をスゥーッとこちらへ差し出す。

「これは?」

「調べたら面白い符号が見つかってね。例の正体不明の船の着岸日と付近で保護された孤児の数だ。なぜか船が来てしばらくすると孤児が増える。船が来ない間の孤児の数は他の町と変らないのにだ」

「孤児……。それはオレリアのときも?」

「しぃー。その名前は口にしないように」

むぐっと口を閉じて、私は首を竦ませた。
イレール様は紙片を指でトントンと叩き、視線を促してくる。

「これは!」

その紙片には、その町の港に船が最初に訪れたと思われる年とその荷物が書かれていた。
オレリアが孤児院に引き取られた年にもその船は港を訪れていたし、その後も必ず船が来た数日又は数か月後には孤児が数名、その町の孤児院に引き取られている。

「しかも、その孤児全員が身元不明。両親も生まれた町の名前もわからない」

「引き取られた年齢を考えれば無理もないが、もしかしたら口止めされているのかもしれない。誰かに」

もし、この孤児全員がその船で運ばれてきたとしたら、何の目的が考えられるだろうか?

「本当だったら、隣国や我が国の利権がほしいどこかの国の間諜を疑うが……。怪しい動きをしているのは彼女以外に見当たらない」

「孤児たちを調べたのですか?」

オレリアの前にも何人か、そして近々でも三人ほどが孤児院に引き取られている。
オレリアが成人間近ならば、その前に引き取られた孤児たちは既に自立しているだろう。

「変な話、みな普通に暮らしていた。家族を持っている者もいた。なにも怪しいところはない」

「では間諜ではない? では何が目的で? もしかしてただの人身売買?」

「いや、人身売買なら買った奴らがいるはずだ。それに売られた子どもが普通の暮らしをしているわけはない」

「……その船はヴォルチエ国の船だと思われますか?」

ジョルダン伯爵家とヴォルチエ国を結んだのがオレリアなら、オレリアとヴォルチエ国との関係は……もしかして彼女はヴォルチエ国の出身なのでは?
母と同じヴォルチエ国の出身ならば、一つの仮説が成り立つ。
彼女……オレリア・ジョルダンは魔法が使えるのではないか?
















クルリとカップの中をスプーンでかき混ぜたイレール様は、少し不貞腐れた声でぼやいた。

「せっかく、うら若き令嬢と二人、雰囲気のあるカフェに来ているのに、話題が殺伐としていて面白くない」

「……は?」

何を言い出すの、この人は。

「ディオンたちのせいで君と会えなくなった。フルール嬢に取られてしまった。ミレイユのことがありサミュエル殿と知り合えたのはよかったが、やっぱり君の話題はさりげなく避けられているし」

ブチブチと文句を宣う公爵子息様……私のことなど放っておいてほしいのですが?
コクリと紅茶を一口飲んで喉を潤し、私はイレール様に確認してみることにした。
私の胸の中にある蟠りを。

「イレール様。もしもの話をしてもよろしいですか?」

「ああ、聞こう」

私はテーブルの上に両手を揃え背筋を正し、真っ直ぐにイレール様を見た。
前の時間の貴方よりもまだ幼く、表情豊かな見知らぬ貴方に、あのときのことを尋ねてみたい。

「もしも、貴方の妻が罪を犯したと追手に追われていて……」
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