56 / 68
暴く
悪女との対面
しおりを挟む
第一王子ジュリアン様からの迎えの馬車に、学園の制服を着た私と付き添いの兄が乗り込む。
緊張した面持ちで王城までの道を過ごし、いざ城門を潜り抜けたら手が震えてきてしまった。
これは、貧乏子爵令嬢が場違いの王城に来たことによるもの?
それとも、前の時間の惨劇が再び繰り返されることへの怯え?
「大丈夫だ、シャルロット」
「ええ、お兄様。きっと大丈夫。大丈夫だわ」
それでも、アルナルディ家を陥れたオレリアという悪女のことが何もわからないままだという事実に不安が隠せない。
あの悪女は一体何者なのか?
「なぜ、私を?」
今までの悪事を話す前に求めた私との面談は、彼女にとってどんな意味があるのだろう?
私は、憂鬱な顔で迫る王城の姿を目に映した。
恐ろしいことに馬車から降りた私たちを迎えたのは、キラキラしい騎士服に身を包んだ近衛騎士団だった。
……王家直轄で王族の護衛を主とする騎士団で、所属するのは貴族子息たちで見目麗しい者たちに限られる。
眩しくて目が潰れそうだわ。
内心げっそりとしながら、兄の手を借りて馬車を降り、騎士の誘導に従って城の中を進む。
たぶん、貴族牢や貴人を留め置くための部屋へと案内するのに、道がわからないように不必要にグルグルと関係ないところを回っているような気がするわ。
「ここです」
一人の騎士が示した扉の前で立ち止まる。
かなり城の中を歩きまわったせいで、足が痛い。
騎士たちが扉を叩き、警戒しながら扉を開けるのを黙って待つ。
「シャルロット・アルナルディ様ですね。付き添いの方もご一緒にどうぞ、中へお入りください」
部屋の中にいた騎士たちがサッと横に避けると、彼女が捕らわれている部屋の中が見渡せた。
部屋の中央、二人掛けのソファーに姿勢よく座っているのは、オレリア・ジョルダン。
学園の制服でも華美なドレスでもなく、白い簡素なワンピースを身に纏い、長い髪をハーフアップに結った彼女の姿は、まるで修道女のように清楚に見える。
震える足を一歩、部屋の中に入れ、彼女から目を離さずに対面のソファーに腰かけた。
部屋の隅には監視役の騎士、近衛騎士ではなく騎士団の騎士が二人と、メイドが二人いる。
メイドは慣れた様子でお茶を淹れると私たちとオレリアの前にカップを置き、静かに部屋の隅へと戻っていった。
「ご機嫌よう、シャルロット様」
にっこりと笑ったオレリアから、不気味な何かが噴き出す幻影が視えた気がした。
オレリアには、貴族子息たちや騎士たちの間で流行った麻薬の製造と売買、ジョルダン伯爵が行っていたヴォルチエ国との密輸、第二王子による王位継承簒奪の計画加担など、数々の罪が疑われている。
そして、彼女はその罪を否定していないと聞いた。
けれど、なぜそんなことをしたのかと動機を尋ねても黙って語らないそうだ。
「知りたかったら、シャルロット・アルナルディを連れてこい」と要望するだけで。
私が目の前にいることで満足したのか、優雅に紅茶を飲んで寛ぐ彼女に私は鋭い視線を向け続けている。
「いやね。囚人の私に何ができると言うの? 屈強な騎士もこの部屋にはいるのに」
カップの縁に唇を付けたまま、上目遣いに視線を投げて彼女は私を笑う。
……ただの貴族子女だったなら、こんなにも警戒はしない。
でも、貴女には兄と匹敵する薬草の知識と、ヴォルチエ国民が使える魔法を貴女も使えるかもしれない。
油断をしたら、私たちの命さえ容易く刈り取ることができるかもしれないでしょう?
ぐっと唇を噛みしめ、ギンッとさらに目に力を込める。
「あらあら、そんなに警戒して。私にはもう何もできないのよ? あなたたちのせいで、私の復讐も叶うことはなかったもの」
「……復讐?」
オレリアは野心のために第二王子たちを利用していたのではないの?
「ええ、復讐よ。私のことはだいたい調べたのでしょう? あの商人貴族のお嬢さんが」
商人貴族とは、アンリエッタのことね。
私は兄と顔を見合わせたあと、頷くだけの返答をする。
こちらからの情報は最小限に、オレリア自らが話すように仕向けなければ。
「……ふん、まあいいわ。ここで駆け引きするほどの価値もなくなったのよ。知っていて? 第二王子は王籍を抜けることになったそうよ?」
「そう、ですか」
第一王子の婚約者であるフルール様からは何も聞かされていないけれど、兄である第一王子を失脚させようと動いていたのだから毒杯を賜ってもおかしくはないだろう。
私は、こちらからは意地でも話さないと示すために、静かにカップの中の紅茶を口に運んだ。
緊張した面持ちで王城までの道を過ごし、いざ城門を潜り抜けたら手が震えてきてしまった。
これは、貧乏子爵令嬢が場違いの王城に来たことによるもの?
それとも、前の時間の惨劇が再び繰り返されることへの怯え?
「大丈夫だ、シャルロット」
「ええ、お兄様。きっと大丈夫。大丈夫だわ」
それでも、アルナルディ家を陥れたオレリアという悪女のことが何もわからないままだという事実に不安が隠せない。
あの悪女は一体何者なのか?
「なぜ、私を?」
今までの悪事を話す前に求めた私との面談は、彼女にとってどんな意味があるのだろう?
私は、憂鬱な顔で迫る王城の姿を目に映した。
恐ろしいことに馬車から降りた私たちを迎えたのは、キラキラしい騎士服に身を包んだ近衛騎士団だった。
……王家直轄で王族の護衛を主とする騎士団で、所属するのは貴族子息たちで見目麗しい者たちに限られる。
眩しくて目が潰れそうだわ。
内心げっそりとしながら、兄の手を借りて馬車を降り、騎士の誘導に従って城の中を進む。
たぶん、貴族牢や貴人を留め置くための部屋へと案内するのに、道がわからないように不必要にグルグルと関係ないところを回っているような気がするわ。
「ここです」
一人の騎士が示した扉の前で立ち止まる。
かなり城の中を歩きまわったせいで、足が痛い。
騎士たちが扉を叩き、警戒しながら扉を開けるのを黙って待つ。
「シャルロット・アルナルディ様ですね。付き添いの方もご一緒にどうぞ、中へお入りください」
部屋の中にいた騎士たちがサッと横に避けると、彼女が捕らわれている部屋の中が見渡せた。
部屋の中央、二人掛けのソファーに姿勢よく座っているのは、オレリア・ジョルダン。
学園の制服でも華美なドレスでもなく、白い簡素なワンピースを身に纏い、長い髪をハーフアップに結った彼女の姿は、まるで修道女のように清楚に見える。
震える足を一歩、部屋の中に入れ、彼女から目を離さずに対面のソファーに腰かけた。
部屋の隅には監視役の騎士、近衛騎士ではなく騎士団の騎士が二人と、メイドが二人いる。
メイドは慣れた様子でお茶を淹れると私たちとオレリアの前にカップを置き、静かに部屋の隅へと戻っていった。
「ご機嫌よう、シャルロット様」
にっこりと笑ったオレリアから、不気味な何かが噴き出す幻影が視えた気がした。
オレリアには、貴族子息たちや騎士たちの間で流行った麻薬の製造と売買、ジョルダン伯爵が行っていたヴォルチエ国との密輸、第二王子による王位継承簒奪の計画加担など、数々の罪が疑われている。
そして、彼女はその罪を否定していないと聞いた。
けれど、なぜそんなことをしたのかと動機を尋ねても黙って語らないそうだ。
「知りたかったら、シャルロット・アルナルディを連れてこい」と要望するだけで。
私が目の前にいることで満足したのか、優雅に紅茶を飲んで寛ぐ彼女に私は鋭い視線を向け続けている。
「いやね。囚人の私に何ができると言うの? 屈強な騎士もこの部屋にはいるのに」
カップの縁に唇を付けたまま、上目遣いに視線を投げて彼女は私を笑う。
……ただの貴族子女だったなら、こんなにも警戒はしない。
でも、貴女には兄と匹敵する薬草の知識と、ヴォルチエ国民が使える魔法を貴女も使えるかもしれない。
油断をしたら、私たちの命さえ容易く刈り取ることができるかもしれないでしょう?
ぐっと唇を噛みしめ、ギンッとさらに目に力を込める。
「あらあら、そんなに警戒して。私にはもう何もできないのよ? あなたたちのせいで、私の復讐も叶うことはなかったもの」
「……復讐?」
オレリアは野心のために第二王子たちを利用していたのではないの?
「ええ、復讐よ。私のことはだいたい調べたのでしょう? あの商人貴族のお嬢さんが」
商人貴族とは、アンリエッタのことね。
私は兄と顔を見合わせたあと、頷くだけの返答をする。
こちらからの情報は最小限に、オレリア自らが話すように仕向けなければ。
「……ふん、まあいいわ。ここで駆け引きするほどの価値もなくなったのよ。知っていて? 第二王子は王籍を抜けることになったそうよ?」
「そう、ですか」
第一王子の婚約者であるフルール様からは何も聞かされていないけれど、兄である第一王子を失脚させようと動いていたのだから毒杯を賜ってもおかしくはないだろう。
私は、こちらからは意地でも話さないと示すために、静かにカップの中の紅茶を口に運んだ。
39
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)
青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。
けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。
マルガレータ様は実家に帰られる際、
「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。
信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!!
でも、それは見事に裏切られて・・・・・・
ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。
エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。
元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
忖度令嬢、忖度やめて最強になる
ハートリオ
恋愛
エクアは13才の伯爵令嬢。
5才年上の婚約者アーテル侯爵令息とは上手くいっていない。
週末のお茶会を頑張ろうとは思うもののアーテルの態度はいつも上の空。
そんなある週末、エクアは自分が裏切られていることを知り――
忖度ばかりして来たエクアは忖度をやめ、思いをぶちまける。
そんなエクアをキラキラした瞳で見る人がいた。
中世風異世界でのお話です。
2話ずつ投稿していきたいですが途切れたらネット環境まごついていると思ってください。
(完)大好きなお姉様、なぜ?ー夫も子供も奪われた私
青空一夏
恋愛
妹が大嫌いな姉が仕組んだ身勝手な計画にまんまと引っかかった妹の不幸な結婚生活からの恋物語。ハッピーエンド保証。
中世ヨーロッパ風異世界。ゆるふわ設定ご都合主義。魔法のある世界。
完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。
『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』
『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』
公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。
もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。
屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは……
*表紙絵自作
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる