死に戻りの処方箋

沢野 りお

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暴く

魔法使い

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ヴォルチエ国でも魔法が使えない者が出始めている。
それでもあの国は必死に魔法使いを守るために、固く扉を閉じて異物を放棄していくのだ。
放り出された異物はこの国で孤児として育ち、やがて自立して生きていく。

どちらが本人にとって幸せなのか?
魔法が使えないと蔑まれながら閉じた国で生きていくのか、頼る者がなく一人で立ち上がりやがて家族を持ち異国の土へと還るのか。

私はフルリと頭を横に振ると、気持ちを落ち着けて彼女を見つめた。
魔法使いの国に生まれた魔法が使えないオレリアを。

「どうして孤児院で育ったあなたに薬草の知識があるのか? 孤児院で習ったとは思えない」

「魔法の授業にあったのよ。あの国は魔法の補助として薬草を使った調剤学が進んでいたの。他の子たちは幼過ぎて学んでいないでしょうけど、子爵家で六歳だった私は一通り基礎は習ったわ。特に魔法が使えないんですもの、薬草の知識ぐらいはね?」

その後、孤児院のシスターや町の薬師から教えてもらい調剤の腕を磨いてきたという。

なぜ、その知識を正しく使わなかったのかしらね。
彼女が作り出したのは、長いこと飲用していると自我が保てなくなる常習性の強い麻薬だ。

「しょうがないわ。私の目的のためには手足となる駒が必要だった。金持ち、爵位持ち、権力、武力。まさか王族が引っ掛かるとは思わなかったけど、だからこそ自分を止めることができなかった」

麻薬で意思を奪い、自分の思うように操った。
でも、薬だけでは無理だった。

兄が考えるには、薬はその者の欲を増幅させることはできても、善悪の判断を曖昧にすることはできても、強い意志に反することはできないらしい。
元々、その者たちが持っていた欲が表に出てきただけのこと。

第二王子が第一王子よりも上に立ちたいと思ったことも、その王子の側近で王子の命令だったからと責任転嫁していたロパルツ伯爵子息とコデルリエ子爵子息も、それぞれが父に対する憧れと畏怖への反抗心。
その他の者たちも日常のほんの些細なことへの不満や苛立ち。
オレリアはその負の感情を上手にコントロールしていった。

「それで、貴方たちはどうなの? 貴女たちの母親の男爵家は薬草や薬に長けた一族だったけど、魔法も巧みだったらしいわ」

「……」

私は兄の横顔を見つめた。
私は魔法なんて使えないし、使おうと思ったこともないし、そもそも魔力が自分にあるかどうかも知らない。
でも……兄はどうだろうか?

母が作ったあの温室の今の主は兄だ。
ヴォルチエ国でしか育たない薬草を育てられるのも兄だ。

兄はもしかして魔法が使える?
そんな疑問を視線に乗せて、私は兄の端正な横顔を見つめ続けた。

















兄はチラリとこちらに視線を寄こした後、オレリアに向かって頭を横に振った。

「残念ですが、母もそう強い魔法使いではなかったようで、父との血が混ざった僕たちは魔力は多少ありますが、魔法を使えるほどではありません」

「……そう。それは残念ね」

オレリアは兄の言葉にがっくりと肩を落とした。

「あなたが私に会いたいって、私とお兄様が魔法が使えるとかどうか知りたかっただけなの?」

「わからないわ。ただ、私がここまで積み重ねてきた復讐を、あっけなく崩してくれたあなたの顔を見たかったのよ。しかも母親がヴォルチエ国出身なんだもの、気になるのは当然でしょ」

「母がヴォルチエ国の貴族だったから、第二王子たちの仲間に兄を加えようとしたの?」

前の時間では、夢魔病の薬を作り出した兄の名声と麻薬売買の犯人に仕立てあげる人物として最適だから、私という弱点を捕まえてまでも味方に引き込んだと思っていたけど。

「サミュエル様が魔法を使えたら、私と同じようにあの国に対して憎しみを持ってくれるかもと期待したわ。あの国は他国の魔法使いを認めないのよ」

クスクスと笑うオレリアの表情に狂気が見え隠れしている。

「兄はあなたの復讐に手を貸すわけないわ」

「サミュエル様はそうでしょうね。でも貴方? シャルロット・アルナルディ。貴方は欲望もあるしプライドも持っている、なのに……大事なものには気づいていない。いいえ、気づいていなかった」

「……」

前の時間の私はそうだった。
家族も親友も、貧しい領地も何一つ大事なものだって気づいていなかった。
でも、今は違うわ。

「私の知ってるシャルロット・アルナルディはもっと愚かな少女だったのよ? なのに、目的を果たすために動き出したら、貴方が違う人になっているようだった」

ジッとオレリアの眼に見つめられ、背けたい顔に力を入れ睨み返す。

「サミュエル様の薬の知識、第二王子の権力、そして麻薬で得る財力、そのすべてを使いヴォルチエ国を滅ぼしてやるつもりだったのに。こんなところで躓くなんてね」

ハハハと声を出して笑うオレリアの頬には一筋の涙が流れたる

「ヴォルチエ国なんてなくなってしまえばいい。魔法使いなんていなくなればいい」

地の底から吐き出された怨嗟の声に、私は隣に座る兄の手を握った。
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