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人助けをしましょう

敵がいました

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ガストンさんたちドワーフたちが力任せにブチ抜いた裏手の出入り口から、こそーっと忍びこみ早足で目的の部屋まで進む。

右や左、あちこちでナタンの仲間たちとの戦闘が激しく交わされているが、助太刀することなくただひたすらにゴーレムの案内で隠し部屋の上の部屋を目指す。

チラリチラリと視線だけ動かして戦況を確認するが、うん・・・リオネルが楽しそうに縦横無尽に動いて、敵を翻弄し一撃で沈めていっている。
・・・大丈夫そうだな。
むしろ、リオネルだけでもここを制圧できそう。

「ヴィー、ここです」

アルベールが示した部屋に、ゴーレムが部屋の扉と同一するように溶け込み、すり抜けていく。
アルベールと私は暫し待って、カチリと鍵が開いた音を確認して、部屋の扉をそっと開けた。
扉の把手にぶらーんとぶら下がったゴーレムがいる。
この子が扉をすり抜けて部屋の中に侵入し、中から扉の鍵を開けてくれたのだ。

「この子がいたら・・・盗み放題だわ」

ちょっと、欲に目が眩んだ私の不穏な発言に、ゴーレムは把手からぴょんと飛び降りて、びゃーっと部屋の端まで逃げていった。

「・・・ヴィー。あなたって子は・・・」

「はっ!違うちがう!冗談、ジョーダンよ!」

やや本心が混ざってたけど。
アルベールは私に疑いの眼を向けたまま、部屋の中央で縄梯子を肩から下ろして、コンコンと床を叩く。

「絨毯が邪魔ね」

ゴーレムたちは絨毯越しでもすり抜けられるらしいけど、穴を開けて梯子を垂らすには、このお高そうな絨毯は厚さもあって邪魔だと思う。

ピクッと眉を不快気に上げたアルベールは、剣をスラリと抜いて、シュバシュバババ!と絨毯を早い剣捌きで斬った。
パチパチパチパチ!
私も思わず拍手してしまう、その剣術の素晴らしさ!
絨毯は丸く切り取られて、最後はアルベールの剣先に持ち上げられて、ペイッと軽々と部屋の隅へと投げられた。

「さあ、ゴーレムたち。ここに穴を開けてください」

ピシッと直立不動になったゴーレムは、右手で敬礼するとタタタと丸い円周に沿うように走り出した。
隠し部屋からは、先に侵入したゴーレム2体が、同じように天井に穴を開けようと行動しているはず。
そのゴーレムの働きに、知らず私も両手を力いっぱい握っていた。




「ルネ!」

リュシアンの呼びかけに、私は無言でコクリと頷いてみせる。
奥の部屋に凄く強い気配がする。
たぶん、悪い奴の中でも一番強い奴がいると思う。

「あの部屋にこいつらの親玉がいると思うが、厄介な奴もいそうだ。俺が突入する」

・・・リュシアンに獲物を取られる・・・ずるい。

「ルネ・・・。お前の実力じゃ無理だ。俺が戦っている間に、ナタンを捕まえていてくれよ」

リュシアンが足を止めて、眉をちょっと下げて困った顔でこちらを見る。

やだ!戦いたい!
戦って、強くなって、戦って、もっともっと強くなって、ヴィー様に褒められたい!

フルフルと首を左右に振ってみると、リュシアンは苦い顔になった。

「あぁーっ、じゃあ、ルネは離れに行ってブリジット様たちを保護してきてくれよ。セヴランだけじゃ不安だし、赤子のこともあるだろう?」

・・・いや。
ブルブルと強めに首を振る。
うげぇっと顔を歪めたリュシアンは、ピカーン!と閃いたとばかりに目を大きく見開いて、

「お前は赤ちゃんを守るのを、お嬢に頼まれていただろう?いいのか?お嬢・・・悲しむだろうな・・・。ルネが自分のお願いを無視して、危ないことをしてたらなぁー」

うぐっ。
確かに、ヴィー様はエミールを守って世話をするように言っていた。

「・・・わかった。離れに行く」

クルッとリュシアンに背中を向けて、タッと駆け出した。

強そうだったのに。
戦いたかった・・・。

いつのまにか、リオネルが強くなっていた。
ヨワヨワのセヴランも、鞭の扱いが上手になっていた。
リュシアンとアルベールは強い。
ヴィー様はもっと強い。

・・・一番、弱い、かも。
いやだ!やだ!強くなりたい!
そのためには、いっぱい戦って、戦って、戦うしかないのに・・・。

ここの邸にいた奴等は、あんまり強くなかった。
せっかく、強い奴がいたのに・・・。

本邸を出て、離れに向かう途中に、嫌な気配がした。
ピタリと足を止めて、キョロキョロ。

「あ・・・」

あっちに、なんかいる。
強いかもしれない。
もしかしたら、リュシアンが戦う奴よりも、強いかもしれない。
クッと口角を上げて、その危ない気配のした方へ足を向ける。
獲物見つけた!逃がさない!






ギイィィィ。

「ひぃーっ!なんで貴族のお屋敷の扉が軋んだ音を立てるんですかぁぁぁ」

セヴランはいい大人なのに、エリク君の腕に両手で縋って、ゴダール男爵邸の離れに侵入した。

「大丈夫ですよ。もう先におばさんたちが入っているはずだし」

「そうですよね。そうですよね」

怖いのを隠そうともせずに、ブルブルと全身を震わせて、恐ろし気に周りをキョロキョロと見回して、ゆっくりとセヴランはあまり広くない離れの邸の中へと進んでいく。
正直、エリク君は、さっさっか歩いて進みたい。

「あっちの階段を上がって右側の部屋が一番広い部屋です。たぶんあそこにいると思います」

「・・・ここで待ってたらダメですかね?」

コテンと可愛く首を傾げてみせたが、エリクの鼻にシワが寄るのを見て、セヴランはシクシクと泣きながら階段を昇っていく。

階段を一段一段昇っていくのに比例して、右側の部屋から女性の声が大きくなる。
セヴランはちょっとホッとして、息を大きく吐いた。

ああー、無事にブリジット様たちを保護できそうだな・・・。

しかし、そんなセヴランをあざ笑うように、入ってきた玄関にドカドカと無粋な足音が。
クルリと背後を見ると・・・。

「よう、兄ちゃん。そこで何をしてんだ?」

刃毀れしている大剣を肩に担いだ人相の悪い男が、ニヤニヤとした笑いを浮かべて立っていた。

「ぎゃああああぁぁっ!」

セヴランの悲鳴が離れの邸に響き渡る。

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