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人助けをしましょう
冒険者ギルドは作戦完了しました
しおりを挟むバコンと丸くこちらの部屋の床、あちらの部屋の天井が抜けると思っていた。
でもそうしたら、天井からそこそこの厚さの床板が天から降ってきて下の人は危ないわよね?
そう!ゴーレムたちは何をどうしたのかわからないけど、じわじわと寝食するように穴を開けていき、パチパチと瞬きを幾度かする間に大きな穴を床にババーンとこしらえていた。
一体、この穴の部分の床板はどこにいったの?
自分の仕事の出来具合に満足して、小さな胸を反らしているゴーレム。
ふ、ふっしぎー!
「ご、ご苦労様」
不思議現象を起こした未確認生物でも、ちゃんと労うわよ?一応はね。
アルベールはサッと穴に縄梯子を降ろし、下を覗きこんで声をかける。
「冒険者のアルベールだ。これで登ってこい。ひとりずつだぞ」
クイクイと梯子が下から引っ張られたのが合図だった。
縄梯子を支えている、アルベールの細い腕に力がむにんと入って、しばらくしたらひとりの壮年の男の人が梯子を登ってきて穴の縁に手をおいて、よっこいしょと体を持ち上げた。
「よっ!ひさしぶりだな、アルベール」
ニカッと陽気に笑ったおじさんは、バシバシとやや強めにアルベールの肩を叩いた。
「だれ?」
「おう、お嬢ちゃんはアルベールのお仲間かな?このリュイエの町の冒険者ギルドのギルドマスター、ヤン・ベルモン。ヤンって呼んでいいぞ」
ニコニコ顔で私の頭を無遠慮に撫でているこのおじさんが、ギルドマスター。
また梯子からひとり登ってきたのは、やや細身の背の高い男。
「ギルマス、危ないでしょう!なに、最初に梯子を登っているんですか!こういうのは先にヒラ職員で安全確認するべきです!」
「・・・お前、ヒドイ上司だなぁ?いいじゃん、俺、強いし。助けにきたのは、やっぱりエルフのアルベールだったし」
「いい加減、梯子はお前たちが持て」
アルベールが無情にもペイッて縄梯子の縄を投げたので、梯子がシュルルシュルルと穴に吸い込まれるように落ちていき、登っていただろう人の悲鳴が聞こえた。
「あっ!危ない!なにをするんですか!相変わらずの冷血漢!」
・・・梯子はギリでさっきから怒鳴っている人がキャッチしたけど、この人たちの関係はどうなってんの?
思いっきり訝し気な顔で首を傾げていたせいか、ギルマスが私の頭を撫でていた手を止めて、意地悪そうな表情で私の顔を覗き込んできた。
「ん?お嬢ちゃんはアルベールとおじさんたちの関係が気になるのかな?知りたいのかな?」
知りたいし、聞きたい。
でも・・・。
「そんな余裕あるの?ギルマスたちが役に立たなかったせいで、この町が大変なことになってるみたいなんだけど?」
とりあえず、優先順位は間違えない私なので。
「ぷふっ。そうですね。貴方達がナタンたちに隙を与えたことで、善良な冒険者の私たちが厄介ごとに巻き込まれたのですから、反省してください」
こうしている間にも、穴に降ろした梯子からひとり、またひとりと人が登ってくる。
「アルベール。もうここは大丈夫なんじゃない?ガストンさんたちも暴れているし。私たちはリオネルを回収して、ナタンのいる男爵邸に行こうよ」
ギルマスたちギルド職員の外にも、何人かの冒険者たちも監禁されていたらしい。
見たところ捕らわれていた冒険者たちは、そこそこの強さの人たちっぽい。
このまま、この人たちでギルドを制圧してもらって、他ギルドへの緊急救助信号と捕まえたナタンたちの捕縛をお願いしましょう。
冒険者ギルドには、牢があると聞いているから、奴らを牢に入れて監視していてほしい。
「ヤン。あとは自分でやれ。ナタンは私の仲間が捕らえに行っているし、男爵夫人を保護するために町民たちを向かわせている」
「ああ。ここまでくれば俺たちだけで大丈夫だ。しかもガストンたちがいるんだろう?余裕だね。しかし・・・お前たちは大丈夫か?男爵邸にもギルドの人間を・・・」
「いらないわ。下手にギルドが貴族の爵位争いに首を突っ込むものじゃないんでしょう?通りすがりの旅の冒険者たちが巻き込まれて、無事に円満解決してやるわよっ!」
私は腰に両手を当てて偉そうにふんぞり返る。
「・・・。本当に大丈夫か?アルベール。この、お嬢ちゃんも・・・」
「ククク。大丈夫。私の仲間はとても頼りになるからね。行きましょう、ヴィー。リオネルを捕まえるのが大変でしょうけど」
「あら、そんなの簡単よ。強い奴が男爵邸にいるって言えば、尻尾を振って付いてくるわ」
文字通り、尻尾を振ってね!
私たちはその後、ヤンさんとずっと怒鳴っていた人、実は冒険者ギルドのサブマスだった人と少しこれからのことを話し合って、リオネルを素早く回収して冒険者ギルドを出て、男爵邸へと向かったのだった。
さあ、あとは男爵邸にいるナタンを倒すだけよ!
楽勝、楽勝・・・と思ってたんだけど、まさかみんながあんなに苦戦しているとは・・・。
さすがのヴィー様でも、分からなかったのです。
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