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人助けをしましょう
攻撃できませんでした
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男爵邸の中でも比較的広くて調度品が豪華なこの部屋は、お貴族様たちが舞踏会でも開くような煌びやかな雰囲気とは真逆な、暴力と血と恐怖が満ちた闘技場と化していた。
そして、俺は敵の武器に攻めあぐねている。
敵の男は、中肉中背の平凡にも見える弱そうな男だった。
服と靴は粗末な物なのに、上半身を覆う銀色の鎧だけが立派で、そこに違和感を持った。
その鎧は・・・魔道具だったのだ。
相手の力量から楽勝と思い、部屋に入ると同時にダッシュで相手に迫り、大剣を両手で振り下ろした。
その剣先は、奴の鎧の背中から突如伸びた鉄の鎖に阻まれる。
ジャラジャラと幾本もの鎖が背中から伸びて、奴の体をぐるぐると巻くようにうねうねと生き物のように自ら動き、俺の攻撃を防御した。
カツーンと弾かれた剣先に後ろに重心がずれて、たたらを踏んだ俺の体に向かって、奴の背中から別の鎖がジャラジャラと鋭く伸びてきた。
咄嗟に体を捩じって除け、ステップを踏んで部屋の入口まで戻る。
油断した。
確かにこの部屋に来てあいつを見るまでは、ここに強い奴がいると分かっていたのに。
奴の足元には奴自身を守るように、鎖が幾重にも巻かれた状態であり、その他の鎖は奴の背後をうねうねと動きながら、俺を攻撃する隙を狙っている。
攻撃用の鎖は、体を貫けるようになのか鋭い錘が付いている分銅鎖だった。
今度は用心して一歩一歩ゆっくり近づくと、ヒュン!と一本の鎖が伸びてくる。
カキーン!と大剣の先で薙ぎ払う。
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
絶え間なく襲ってくる分銅鎖をひとつずつ大剣で振り払う。
徐々に歩くスピードを上げ、大剣を八の字に描くように振り回しながら、男の頭を目掛けて剣を大きく振りかぶる。
ガッキーン!
「ちっ!」
剣を蛇のような鎖で弾かれたあと、素早くその場を離れる。
「俺が離れたら、守りの鎖は緩まるのか・・・」
男の後ろには、震える体を小さく縮めたおっさんがいたのが確認できた。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔をした弱そうなおっさんが、首謀者のナタン・ゴダールだろうか?
貴族様のようなヒラヒラフリフリの服を着ていたのが、滑稽だと思った。
「ふうーっ」
あの鎖男は、ちょっと厄介だな。
大剣の間合いより分銅鎖の間合いの方が有利だし、攻撃してもあの鎖を体にぎっちりとミイラのように巻かれたら手も足もでない。
チラリと手に握った剣を見る。
・・・冒険者時代の愛剣だったら、こんな鎖ぐらいは斬れたのだ。
奴の使っている分銅鎖は、ただの鉄の鎖だ。
俺の愛剣だったら、スパッと簡単に切り離し鎖をバラバラにすることができたのに。
この剣じゃ、鉄も満足に斬れねぇし、なんだったらこの攻撃数回で刃が毀れてやがる。
「うーん、俺と相性が悪いな」
ちょっと困ってリュシアンは、頭をボリボリと掻いた。
分銅鎖の攻撃を躱しきれなくても、お嬢の造った防御の魔道具で防ぐことができたから、奴に近づいて剣を振るうことは簡単にできるのだが、あの鎖の鎧を斬ることができない。
「詰んだか?」
あの男を倒さないと、ナタンを捕らえて拘束することができない。
考えている間にもヒュン!ヒュン!と分銅鎖は飛んでくる。
たまに剣でカツンと弾き、放っておいてもヴィーの魔道具が守ってくれる。
リュシアンも男もお互いに攻めあぐねているのだ。
「・・・何をしているんですか?」
リュシアンの背後にいつのまにか、駆けつけてきたアルベールが立っていた。
「あ!アルベール、いいところに。なぁ、あいつを魔法で倒してくれないか?」
リュシアンは、満面の笑顔でアルベールにムチャブリをした。
男爵邸の離れの邸の大階段の半ばで、セヴランは恐怖に腰が抜けてその場に座り込んでいた。
「・・・ははは」
どうしよう。
ガラの悪い男が剣を持って、めちゃくちゃいい笑顔で自分をロックオンしている。
「おうっ、兄ちゃん。ここに何しに来たんだ?・・・もしかして俺たちの邪魔をしにきたのか?」
邪魔をしにきたどころか、捕らえにきたのです・・・なんて言えるわけがない。
ただ、首を横に振ってすうーっと目を反らした。
男は、ゆっくりと近づいてくる。
「兄ちゃん。ここは大事な金蔓がいるんだ。無断で入ったらダメだぜ。・・・うっかり、殺しちゃうだろう?」
「ひっ。ひいいいいぃぃぃ」
ズリズリと立たない腰で這って、階段の手摺に両腕で抱き着いて悲鳴を上げる。
そのセヴランの悲鳴に驚いたのか、エリク君がセヴランの所まで戻ってきてしまった。
「どうしたの・・・。あっ!あいつ、ナタンの仲間だ!」
「んだ?クソガキ、ぶっ殺すぞ」
あっという間に階段を駆け上がってきた男は、ぶっとい腕でエリク君の首を絞めて小さな体をぶ~んと持ち上げてしまう。
「あ・・ああ、エ、エリク君・・・」
「ほお、いい玩具が手に入ったなぁ。おい、兄ちゃん。仲間がいるならすぐにこの邸から出て行くように言いなっ!いや、この町から出て行けや!じゃないと、このガキがどうなるか、わかるだろう?」
・・・万事休すです。
誰か・・・助けてください。
セヴランは絶望の色を顔に浮かべ、無頼漢の顔を見上げた。
そして、俺は敵の武器に攻めあぐねている。
敵の男は、中肉中背の平凡にも見える弱そうな男だった。
服と靴は粗末な物なのに、上半身を覆う銀色の鎧だけが立派で、そこに違和感を持った。
その鎧は・・・魔道具だったのだ。
相手の力量から楽勝と思い、部屋に入ると同時にダッシュで相手に迫り、大剣を両手で振り下ろした。
その剣先は、奴の鎧の背中から突如伸びた鉄の鎖に阻まれる。
ジャラジャラと幾本もの鎖が背中から伸びて、奴の体をぐるぐると巻くようにうねうねと生き物のように自ら動き、俺の攻撃を防御した。
カツーンと弾かれた剣先に後ろに重心がずれて、たたらを踏んだ俺の体に向かって、奴の背中から別の鎖がジャラジャラと鋭く伸びてきた。
咄嗟に体を捩じって除け、ステップを踏んで部屋の入口まで戻る。
油断した。
確かにこの部屋に来てあいつを見るまでは、ここに強い奴がいると分かっていたのに。
奴の足元には奴自身を守るように、鎖が幾重にも巻かれた状態であり、その他の鎖は奴の背後をうねうねと動きながら、俺を攻撃する隙を狙っている。
攻撃用の鎖は、体を貫けるようになのか鋭い錘が付いている分銅鎖だった。
今度は用心して一歩一歩ゆっくり近づくと、ヒュン!と一本の鎖が伸びてくる。
カキーン!と大剣の先で薙ぎ払う。
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
絶え間なく襲ってくる分銅鎖をひとつずつ大剣で振り払う。
徐々に歩くスピードを上げ、大剣を八の字に描くように振り回しながら、男の頭を目掛けて剣を大きく振りかぶる。
ガッキーン!
「ちっ!」
剣を蛇のような鎖で弾かれたあと、素早くその場を離れる。
「俺が離れたら、守りの鎖は緩まるのか・・・」
男の後ろには、震える体を小さく縮めたおっさんがいたのが確認できた。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔をした弱そうなおっさんが、首謀者のナタン・ゴダールだろうか?
貴族様のようなヒラヒラフリフリの服を着ていたのが、滑稽だと思った。
「ふうーっ」
あの鎖男は、ちょっと厄介だな。
大剣の間合いより分銅鎖の間合いの方が有利だし、攻撃してもあの鎖を体にぎっちりとミイラのように巻かれたら手も足もでない。
チラリと手に握った剣を見る。
・・・冒険者時代の愛剣だったら、こんな鎖ぐらいは斬れたのだ。
奴の使っている分銅鎖は、ただの鉄の鎖だ。
俺の愛剣だったら、スパッと簡単に切り離し鎖をバラバラにすることができたのに。
この剣じゃ、鉄も満足に斬れねぇし、なんだったらこの攻撃数回で刃が毀れてやがる。
「うーん、俺と相性が悪いな」
ちょっと困ってリュシアンは、頭をボリボリと掻いた。
分銅鎖の攻撃を躱しきれなくても、お嬢の造った防御の魔道具で防ぐことができたから、奴に近づいて剣を振るうことは簡単にできるのだが、あの鎖の鎧を斬ることができない。
「詰んだか?」
あの男を倒さないと、ナタンを捕らえて拘束することができない。
考えている間にもヒュン!ヒュン!と分銅鎖は飛んでくる。
たまに剣でカツンと弾き、放っておいてもヴィーの魔道具が守ってくれる。
リュシアンも男もお互いに攻めあぐねているのだ。
「・・・何をしているんですか?」
リュシアンの背後にいつのまにか、駆けつけてきたアルベールが立っていた。
「あ!アルベール、いいところに。なぁ、あいつを魔法で倒してくれないか?」
リュシアンは、満面の笑顔でアルベールにムチャブリをした。
男爵邸の離れの邸の大階段の半ばで、セヴランは恐怖に腰が抜けてその場に座り込んでいた。
「・・・ははは」
どうしよう。
ガラの悪い男が剣を持って、めちゃくちゃいい笑顔で自分をロックオンしている。
「おうっ、兄ちゃん。ここに何しに来たんだ?・・・もしかして俺たちの邪魔をしにきたのか?」
邪魔をしにきたどころか、捕らえにきたのです・・・なんて言えるわけがない。
ただ、首を横に振ってすうーっと目を反らした。
男は、ゆっくりと近づいてくる。
「兄ちゃん。ここは大事な金蔓がいるんだ。無断で入ったらダメだぜ。・・・うっかり、殺しちゃうだろう?」
「ひっ。ひいいいいぃぃぃ」
ズリズリと立たない腰で這って、階段の手摺に両腕で抱き着いて悲鳴を上げる。
そのセヴランの悲鳴に驚いたのか、エリク君がセヴランの所まで戻ってきてしまった。
「どうしたの・・・。あっ!あいつ、ナタンの仲間だ!」
「んだ?クソガキ、ぶっ殺すぞ」
あっという間に階段を駆け上がってきた男は、ぶっとい腕でエリク君の首を絞めて小さな体をぶ~んと持ち上げてしまう。
「あ・・ああ、エ、エリク君・・・」
「ほお、いい玩具が手に入ったなぁ。おい、兄ちゃん。仲間がいるならすぐにこの邸から出て行くように言いなっ!いや、この町から出て行けや!じゃないと、このガキがどうなるか、わかるだろう?」
・・・万事休すです。
誰か・・・助けてください。
セヴランは絶望の色を顔に浮かべ、無頼漢の顔を見上げた。
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