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咄嗟にできた行動は、両腕を頭上で交差させて目をギュッと瞑るだけ。
耳に聞こえたのは、バシンと何かが当たる音とビュンと飛ばされる音とドシンとぶつかる音。
「・・・に、逃げて・・・」
そして、セヴランの苦しそうな弱い声。
目を開けた私が見たのは、攻撃してきた腕にセヴランの鞭を絡ませた敵と、やや後ろの木に凭れるように座り込んだセヴランの姿。
「え・・・?」
何が起きたの?
どうしてルネと一緒に離れたところに避難していたセヴランがあんな所で・・・傷ついてるの?
はっ!と気づいた私が後ろを振り返り、ルネを見る。
ボロボロの黒い戦闘服に包まれたまま意識を失ったルネの細い体が、呼吸で微かに上下に揺れている。
ルネの服の一ヵ所が陽光を反射して煌めくのは、私の作った防御の魔道具。
セヴランが私を助けるために、自分の魔道具をルネに付けて、鞭で敵を攻撃した?
そして敵に鞭が絡んだ腕を振り回されて、木に激突して失神した・・・。
「よくも・・・!」
怒りで血液がふつふつと熱を上げていく。
全身に回る熱い血潮に乗って、魔力も最大限のスピードで体の末端まで行き渡っていく。
ユラユラと自分の体の周りに溢れた魔力が、陽炎のように揺らめき立ち昇る。
ヤバい。
このまま怒りの感情に乗せて魔力を放てば、私が危惧していた大規模破壊威力を持つ攻撃魔法が展開されてしまう。
でも・・・。
敵が私の魔力を警戒して、再び腕を振り上げて殴りかかろうとするけど、お前のその腕に絡んだ鞭は私の仲間の武器なんだよっ!
ピキッとこめかみに青筋を立てる。
ブワッと広がる尋常じゃない濃度の魔力。
奴の拳が目前に・・・、あれ?
「なんだ、これ?」
敵の拳を鼻に受ける直前に魔力をぶつけてやると狙っていたんだけど・・・私の目の前には聳える土壁。
はて?
ツンツン。
私のスカートの裾を引っ張る何か。
視線を下げると、右と左に一体ずつ、例の働き者のゴーレムが立っていた。
「君たちの仕業?」
こくんと頷くゴーレム。
ひょっこと壁越しにセヴランの方を見るとそちらにも土壁。
振り向けばルネの体を囲むように土壁。
そしてそれぞれ一体ずつピースサインを私に向けるゴーレムが付いている。
「ふぅ・・・。ありがと」
しゃがんで一体ずつ頭を撫でてやる。
ヤバいヤバい。
あのままだと男爵邸一帯を吹っ飛ばすところだった。
そうなったら、町の人たちも男爵夫人も下手すればエミール君も怪我をするところだった。
頭を大きく振って、改めて考える。
ドゴンドゴンと鈍い音が土壁から聞こえるのは、あの獣人が懲りずに殴打しているからだろう。
土壁を回りこんで、こちらに攻撃することが思いつかない程度の頭の出来で助かった。
「うーん」
魔法で攻撃は譲れないんだけど、何魔法なら効くのだろうか?
氷漬けがだめなら火責めか?
でも殺しちゃいそう・・・。
もう、冷静になってしまったのでそんな慣れないことはしたくない。
「でも、セヴランの仇は取りたい」
私と同様、対人戦闘が苦手なセヴランが防御の魔道具を外した状態で助けようと行動してくれたのだから。
風魔法で竜巻を作って上空から落とすとか・・・でもあいつの皮膚がどれだけ固いか分からんし・・・。
土魔法で落とし穴を作って埋めるとか?
こんな状況なのに、ゴーレムが作りだした土壁を信用して、呑気に腕を組んで考えこんでいた私の耳に仲間の声が聞こえた。
「ヴィー!」
「お嬢!」
あ、戦うのが得意な人たちが来てくれた!
結果、リュシアンが覚醒した「雷魔法」をズババーン!と使って、サイみたいな獣人はばったりとその場で失神しました。
全身からプスプスしてるけど、死んでないよね?
「大丈夫ですよ。皮膚が固いので多少強めに雷を落としましたけど、軽傷です、軽傷」
なんか、アルベールが笑いながら敵を縄でグルグル巻きにした上で、拘束の魔法をかけているけど・・・、目が笑ってなくて怖いんですけどー。
「気にすんな。アルベールも仲間がボロボロにやられてんの見たら、腹も立つだろう」
リュシアンはハハハと乾いた笑いで取り直すように言うけど、説得力って言葉知っている?
「それより、リオネルですよ。なんですか?この姿」
「まんま虎だな」
そう、失神したリオネルは大きな虎の姿で、今はぐうぐう寝ている。
「戻らないのかな?」
成体の虎の姿から戻らないのか?
それとも人型に戻っても大人の姿になっちゃうのか?
むむむ・・・ちょっと見てみたい。
「いてて!」
不埒なことを考えているのがバレたのか、アルベールに頬をムニュと摘ままれた。
「たぶん、一時的なものでしょう。ルネの危機に感情が高ぶって、攻撃力を上げるために成長した姿になったんでしょうけど・・・。それなりに魔力を消費する変化みたいですから、魔力が尽きかけたら戻ります、たぶん」
「たぶんって・・・。じゃあ馬車に戻って休ませようか?ルネとセヴランも」
おらっ!と乱暴に気を失っているセヴランにポーションをリュシアンが飲ませていたけど、ゆっくり休んでもらった方がいいもんね。
ピクッとリュシアンのお耳が明後日の方向を向く。
「お!ギルドの職員たちが来たっぽいぞ。これでナタンの仲間たちの処理も終わるな」
のびのびーっと腕を上に伸ばして、ニカッと笑うリュシアン。
やれやれとゆっくり頭を振って、アルベールも「疲れましたね」と。
「じゃあ、馬車に一旦戻ろうか?」
・・・て馬車はどこにあるんだ?
停めた場所を知っているセヴランとルネの意識が戻ってないしな・・・。
「ああ。カヌレとブリュレを呼ぶから、ちょっと待ってろ」
リュシアンが指笛をピュイと吹いた。
パカッラパカッラ。
軽快な蹄の音が・・・。
え?呼び出すことができるほど調教済みなの?
耳に聞こえたのは、バシンと何かが当たる音とビュンと飛ばされる音とドシンとぶつかる音。
「・・・に、逃げて・・・」
そして、セヴランの苦しそうな弱い声。
目を開けた私が見たのは、攻撃してきた腕にセヴランの鞭を絡ませた敵と、やや後ろの木に凭れるように座り込んだセヴランの姿。
「え・・・?」
何が起きたの?
どうしてルネと一緒に離れたところに避難していたセヴランがあんな所で・・・傷ついてるの?
はっ!と気づいた私が後ろを振り返り、ルネを見る。
ボロボロの黒い戦闘服に包まれたまま意識を失ったルネの細い体が、呼吸で微かに上下に揺れている。
ルネの服の一ヵ所が陽光を反射して煌めくのは、私の作った防御の魔道具。
セヴランが私を助けるために、自分の魔道具をルネに付けて、鞭で敵を攻撃した?
そして敵に鞭が絡んだ腕を振り回されて、木に激突して失神した・・・。
「よくも・・・!」
怒りで血液がふつふつと熱を上げていく。
全身に回る熱い血潮に乗って、魔力も最大限のスピードで体の末端まで行き渡っていく。
ユラユラと自分の体の周りに溢れた魔力が、陽炎のように揺らめき立ち昇る。
ヤバい。
このまま怒りの感情に乗せて魔力を放てば、私が危惧していた大規模破壊威力を持つ攻撃魔法が展開されてしまう。
でも・・・。
敵が私の魔力を警戒して、再び腕を振り上げて殴りかかろうとするけど、お前のその腕に絡んだ鞭は私の仲間の武器なんだよっ!
ピキッとこめかみに青筋を立てる。
ブワッと広がる尋常じゃない濃度の魔力。
奴の拳が目前に・・・、あれ?
「なんだ、これ?」
敵の拳を鼻に受ける直前に魔力をぶつけてやると狙っていたんだけど・・・私の目の前には聳える土壁。
はて?
ツンツン。
私のスカートの裾を引っ張る何か。
視線を下げると、右と左に一体ずつ、例の働き者のゴーレムが立っていた。
「君たちの仕業?」
こくんと頷くゴーレム。
ひょっこと壁越しにセヴランの方を見るとそちらにも土壁。
振り向けばルネの体を囲むように土壁。
そしてそれぞれ一体ずつピースサインを私に向けるゴーレムが付いている。
「ふぅ・・・。ありがと」
しゃがんで一体ずつ頭を撫でてやる。
ヤバいヤバい。
あのままだと男爵邸一帯を吹っ飛ばすところだった。
そうなったら、町の人たちも男爵夫人も下手すればエミール君も怪我をするところだった。
頭を大きく振って、改めて考える。
ドゴンドゴンと鈍い音が土壁から聞こえるのは、あの獣人が懲りずに殴打しているからだろう。
土壁を回りこんで、こちらに攻撃することが思いつかない程度の頭の出来で助かった。
「うーん」
魔法で攻撃は譲れないんだけど、何魔法なら効くのだろうか?
氷漬けがだめなら火責めか?
でも殺しちゃいそう・・・。
もう、冷静になってしまったのでそんな慣れないことはしたくない。
「でも、セヴランの仇は取りたい」
私と同様、対人戦闘が苦手なセヴランが防御の魔道具を外した状態で助けようと行動してくれたのだから。
風魔法で竜巻を作って上空から落とすとか・・・でもあいつの皮膚がどれだけ固いか分からんし・・・。
土魔法で落とし穴を作って埋めるとか?
こんな状況なのに、ゴーレムが作りだした土壁を信用して、呑気に腕を組んで考えこんでいた私の耳に仲間の声が聞こえた。
「ヴィー!」
「お嬢!」
あ、戦うのが得意な人たちが来てくれた!
結果、リュシアンが覚醒した「雷魔法」をズババーン!と使って、サイみたいな獣人はばったりとその場で失神しました。
全身からプスプスしてるけど、死んでないよね?
「大丈夫ですよ。皮膚が固いので多少強めに雷を落としましたけど、軽傷です、軽傷」
なんか、アルベールが笑いながら敵を縄でグルグル巻きにした上で、拘束の魔法をかけているけど・・・、目が笑ってなくて怖いんですけどー。
「気にすんな。アルベールも仲間がボロボロにやられてんの見たら、腹も立つだろう」
リュシアンはハハハと乾いた笑いで取り直すように言うけど、説得力って言葉知っている?
「それより、リオネルですよ。なんですか?この姿」
「まんま虎だな」
そう、失神したリオネルは大きな虎の姿で、今はぐうぐう寝ている。
「戻らないのかな?」
成体の虎の姿から戻らないのか?
それとも人型に戻っても大人の姿になっちゃうのか?
むむむ・・・ちょっと見てみたい。
「いてて!」
不埒なことを考えているのがバレたのか、アルベールに頬をムニュと摘ままれた。
「たぶん、一時的なものでしょう。ルネの危機に感情が高ぶって、攻撃力を上げるために成長した姿になったんでしょうけど・・・。それなりに魔力を消費する変化みたいですから、魔力が尽きかけたら戻ります、たぶん」
「たぶんって・・・。じゃあ馬車に戻って休ませようか?ルネとセヴランも」
おらっ!と乱暴に気を失っているセヴランにポーションをリュシアンが飲ませていたけど、ゆっくり休んでもらった方がいいもんね。
ピクッとリュシアンのお耳が明後日の方向を向く。
「お!ギルドの職員たちが来たっぽいぞ。これでナタンの仲間たちの処理も終わるな」
のびのびーっと腕を上に伸ばして、ニカッと笑うリュシアン。
やれやれとゆっくり頭を振って、アルベールも「疲れましたね」と。
「じゃあ、馬車に一旦戻ろうか?」
・・・て馬車はどこにあるんだ?
停めた場所を知っているセヴランとルネの意識が戻ってないしな・・・。
「ああ。カヌレとブリュレを呼ぶから、ちょっと待ってろ」
リュシアンが指笛をピュイと吹いた。
パカッラパカッラ。
軽快な蹄の音が・・・。
え?呼び出すことができるほど調教済みなの?
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