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人助けをしましょう

ナタンの捕縛が完了しました

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分銅鎖を幾つも仕込んだ魔道具の鎧を纏っただけの人族に、随分と時間をかけてしまったものだ。
内心、自省のため息を吐きながら、男爵邸の広間を敵目掛けて走って行く。

後ろに残してきた仲間からは、戸惑いの揺らいだ魔力を感じる。
クッと口の端を歪めて笑う。
次々と襲い掛かる分銅鎖の攻撃は魔力で起こした旋風で弾いているが、あまりにもリュシアンの覚悟が決まらないのであれば、ひとつふたつはこの身に当ててみようか?

今回の騒ぎの首謀者を捕まえようと男爵本邸を訪れたら、当の本人は戦意消失で怯えていて使い物にならないし、仲間の一人は玩具を使って攻撃してくるし。
丁度いいから普段魔法を使わない愚か者の狼を躾ようと画策したのだが、なかなかにこれが難しい。
とうとう我が身を犠牲にするフリで煽ってみたのだけれど・・・。

「・・・そもそも私のことを仲間と意識していなければ、空振りですけどね」

こういうときの囮はヴィーやルネの方が適任なんですけど、ここには私しかいなかったのでしょうがない。
茶番に幕を引くためにも、自分の体で急所でない怪我してもいいだろう部位の旋風を少し和らげる。
当然、敵の攻撃はその隙を見逃さない。
鋭く迫ってくる鎖の先が、私の腕と太腿を狙って・・・。

「アルベール!!」

狼の咆哮とともに、眩い光が私を包み、轟音が広間に広がる。

バチ、バチバチ!
そこかしこに走る小さな稲光。

パチパチと何度か瞬きをして、ようやくうっすらと視界が晴れてきた。
耳はジーンと痺れている。

「・・・やりましたね」

リュシアンが放った「雷魔法」が見事に敵を打ち倒している。
私はフラフラする体をなんとか真っ直ぐに保ち、倒れている敵の男の様子をみる。
死んではいないようだ。
かなりの熱量の稲妻が部屋に満ちたようだが、あの狼は器用にも全ての分銅鎖に雷を落としたようなので、ひとつひとつの威力は抑えられていた。
鎖はブスブスと焦げて千切れているものもあるが、鎧を着ていた本人はうっすらと火傷を負っただけで失神している。

「もしかしたら役に立つかもしれませんね」

敵の男の上半身を起こして魔道具の鎧を脱がし、ちゃっかりと自分の魔法鞄に仕舞っておく。
代わりに取り出した縄で男と・・・同じく失神している男がナタンですね・・・縄で縛って適当な柱に括りつけておきましょう。
この縄もガストンさんたちが持っている縄にもちゃんと魔封じの呪が込められているので、縛った後は放っておいても安心です。

さて、このふたりは後で来る冒険者ギルドの職員たちに任せるとして、私は仲間の元へと戻ります。

「大丈夫ですか?」

リュシアンはぐったりとその場に座り込んでいました。
はて?そんなに魔力は消費していないはずですが?

「・・・大丈夫なわけないだろう。なんだよ、ありゃ」

「自分で起こした魔法の威力になんだと聞かれても?」

貴方が持っている能力の一端ですよ?そう、一端。
「神狼族」であれば、末端の者でも使える「雷魔法」ですよ?
しかも、貴方がさきほど行使したのは、初級魔法ですよ?

「げえっ。あんなえげつない威力で初級かよ」

「だって、あの人たち死んでないですし?」

リュシアンのコントロールが思ったより優れていたからですけれどね。

「はあーっ。疲れた。もう俺は疲れたぞ!」

「私だって疲れてますよ。それこそ体力魔力ともにスカスカです。あとは他の人に任せてヴィーたちと合流しましょう」

「ああ・・・。俺は早く馬車に戻って風呂に入って飯食って寝てぇ」

体育座りした両膝の間にがっくりと頭を垂らして、リュシアンは呟く。
ええ。私も同感ですよ。

「あ、そうそう。お礼がまだでしたね。助けてくださってありがとうございます」

にっーこり。

「けっ、わざと攻撃を受けようとしてたくせに、何を言いやがる。こちとら尻尾が縮みあがったつーの」

ふふふ。
でもね、あのヴィーと一緒にいるならば、貴方には強くなってもらわないと困るんですよ?
私が差し出した手を嫌ぁーな顔で握って、勢いを付けて立ち上がるリュシアン。
ふたり並んで男爵本邸を出ました。

・・・なのに、まだ問題が残ってたなんて・・・子育てって大変ですよ。

男爵邸離れに向かっている私たちを呼ぶように迸るヴィーの魔力。
見れば庭の奥、林にそそり立つ氷の魔力の柱。

「行くぞ!」

「はいはい」

私たちは疲れた体に鞭を打って走り出した。






パキンと乾いた音に振り向けば・・・氷の彫刻になっていた敵の獣人がその分厚い氷を破って生還していた。

「ええーっ!なんで?」

ハッ!と気づく。
もしかして、あの皮膚って固いだけでなく熱冷にも強いとか?
私と同じく「熱冷耐性」を持っていて、氷の温度なんて関係ないね!て奴だった?

「はわわわわ」

ああー、パニック状態です!
だってリオネルは虎の姿のまま気絶してるし、満身創痍はポーションで治ったけど、幼児にかかったストレスを考えたらこのままおねむで起きないでしょ?
ルネだって気絶中だし。
え?セヴランがいるって?

・・・私がやるしかないな!

しかしパニック状態からの覚醒が遅かったらしく、もう目の前に敵の振り下ろす腕が・・・。
ぎゃあああ!鈍くさそうなのに攻撃が早いんですけどぉぉぉ。

ドッカーン!

「・・・はぁはぁ、魔道具・・・付けてた」

自分の作った魔道具の防御シールドのおかげで最初の攻撃は避けられたけど・・・これからどうする?
リオネルがいるから、彼を守るためにも私はこの場を離れられない。
セヴランだってルネから離れられない。

魔法で戦うしかないけど・・・こいつに効く魔法属性って何?
え?どうしたらいいの?
え?
ええ?

私が思考の迷子になっている間も敵の打撃攻撃は続いている。
なんで、こいつ同じところばっかり攻撃してんの?
バカなの?

「ヴィーさん!逃げて!」

セヴランの叫びとともに、魔道具の張った防御シールドがビシビシと音を立ててヒビ割れていく。
あ・・・こいつ、同じところに打撃を加えて物理で魔法障壁を壊すつもりだったんだ・・・。

目の前でパリンと割れて砕け落ちる防御の欠片。
そして、私の正面に不気味に笑う敵の顔・・・。

あ、詰んだ・・・。



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