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人助けをしましょう

帝国の闇が迫ってきてました

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男爵領都、リュイエの町。
その中心地の広場に色とりどりの屋台が並べられていて。
ジュワと油で揚げる音があちこちでして、客を呼んでいる。

「少しは冒険者たちが戻って来たんじゃない?」

ローズさんが営む宿屋の食堂から、町通りを見てそう思う。

「あー、お嬢が提案したアラスの町でので・・・でもん・・・なんだっけ?」

「デモンストレーションですよ。試し売りでしたっけ?屋台まで持ち込んでアラスの町の冒険者ギルド前でやりましたからね」

商人としてたいへん勉強になりました、と胸に手を当ててセヴランは感慨深げだ。

「目の前に珍しい酒のおツマミが売っていて、しかもおツマミを買ったらエールが割引だったら、仕事終わりの冒険者は買うでしょう」

アルベールはひと口紅茶を飲んだ後、最近お気に入りの苺パフェを口に運ぶ。

「ルネは甘い物を配ったのも良かったと思います!」

「・・・あまい」

ルネとリオネルは口の周りに生クリームを付けてご機嫌だ。

そう、私たちはリュイエの町に人流を戻すために、芋料理とスイーツの試作品を作りまくり完成させると、例の護送用の荷車に屋台を積んでアラスの町へと乗り込んだ。

冒険者ギルドの前では屋台を並べて芋料理を売った。
ギルドマスターのヴァネッサ姉さんにお願いして、冒険者ギルドに併設されているエールとの抱き合わせ販売だ。
かなりの冒険者が面白がって買ってくれたし、みんな芋料理を気に入ってくれた。

パフェの方は、ガストンさんたち鍛冶師の見習いで硝子が作れる子たちに小さなパフェ用の器を作ってもらい、そこにリュイエの町に拵えた果樹園のフルーツとブリジット様のご実家の牧場産の乳製品をたっぷり使って作った。
こちらは冒険者ギルドでも配ったが、商業ギルドに来ていた商会の人や、服飾品を扱うお店に「お客様にサービスとして提供して感想を聞いてください」と頼んで配ってもらった。

パフェに商機を感じた商人さんが来ることよりも、その商会の馬車で移動している商会の家族、とくに奥様とお嬢様が気に入ってくれれば!

アラスの町への出張は2日だけで、あとはまた荷車に屋台を乗せて男爵領に戻ってきて、その後は大急ぎで芋料理の屋台とスイーツを扱う喫茶店、宿屋を超特急で仕上げて、人を待った。

何日かは、いつもと変わらない町民の出入りしかなかったけど、少しずつ冒険者が訪れるようになった。
冒険者ギルドのヤンさんも、宿屋のご主人たちも安堵したとか。

商人の行き来はまだだけど、ヴァネッサ姉さんがギルドを通じて教えてくれた話だと、行先をゴダール男爵領地に変更するので護衛依頼を取り下げた商人が何組かいるらしい。

このチャンスに、厄介な魔獣がうろついていたら元の木阿弥になると、ヤンさんは町の冒険者と町民で結成した自警団のおじさんたちとアラスの町とリュイエの町を結ぶ道の見回りを始めている。
いまのところは出没するのは角ウサギぐらいで、穏やかなものらしい。

ただ・・・不穏な動きはある・・・。
私は食べ終わった葡萄のパフェグラスをテーブルに置いて、ヤンさんから聞いた話を思い出す。






あの日、男爵邸で話し合ったのは町おこしのことだけではなくて、ナタンが連れていた仲間の中でやたらと体が丈夫だった獣人の正体と殺傷力が強い魔道具の鎧の出所だ。

「魔道具はアルベールに提供してもらって調べたんだが、個人が作成したモグリの魔道具だったので、後を追うことはできなかった。ただ・・・使われていた魔法陣は・・・帝国がよく使う魔法陣の癖と似ているらしい」

帝国ってあれよ。
トゥーロン王国の隣の国で、とにかく戦好きで暇があればこちら側に侵略戦争をけしかけてくる迷惑な独裁国。
でもここ最近は皇帝の座を巡って内乱状態で、こちらに手を出してくることは無かったんだけど・・・。

「そして、おチビちゃんたちが相手していた獣人だが、見たことのない獣種だ。・・・たぶん帝国で軍事用として開発されていた【人造獣人】、ビーストだろう」

「「ビーストだって!!」」

アルベールとリュシアンがガタッと音を立てて立ち上がる。
ふたりとも顔を険しく歪めている。

「ビーストが帝国外に持ち出されることはないでしょう?」

「ビーストを開発できるのは帝国でも一部。皇室以外にないはずだ。そんな非道なことをする奴が他にもいるなんて、俺は考えたくないぞ!」

「ふたりとも落ち着け。こちらとしてもビーストが国内で発見されたことを重視している。このことは決して他に洩らさないでほしい」

ヤンさんは、ペコリと頭を下げた。
こくんと頷きふたりはソファに座り直す。
でもその手は強く握りしめられていて、口はキュッと引き結ばれていた。

「あのぅ・・・。そのビーストってそんなに悪い物なんですか?」

私の疑問を、ブリジット様が代わりに聞いてくれた。

「そうですね。帝国はいつも戦争をしています。今回は内輪揉めですが。戦力の増強が彼らの命題であり権力を強める手立てなのです」

ヤンさんは紅茶を飲んで喉を潤し、説明を続ける。

「一番手っ取り早い方法は強い兵士を抱えること。それが獣人であり、獣人の奴隷兵士なのです。彼の国にはかなりの獣人が奴隷として連れ去られていると見られています」

そうだ。
その獣人奴隷の狩場がミュールズ国であり、奴隷を育てる牧場が我が国トゥーロン王国だった。
トゥーロン王国は、今も帝国に獣人を渡しているのだろうか?

「しかし、獣人だからと言ってみんながみんな強いわけではない。しかも奴隷となっても命令への忌避感が強くて扱いづらいこともあるでしょう。それを克服したのが人工的に強い獣人の特徴を掛け合わせた【人造獣人】、ビーストです」

「それは・・・。強い獣人同士で子供を作るという方法ではないのですか?」

獣人同士の子供は、親のどちらかの獣種になる。
狼と兎の夫婦からは、狼獣人か兎獣人が生まれるが、狼の耳と兎の尻尾を持って生まれることはない。
だけど、ビーストは獣人を掛け合わせて作るって言った・・・。

「魔法です。禁術の魔法と言っていいでしょう。何人もの獣人を魔法で掛け合わせ強いビーストを1体作るのです。そのビーストはとても強いし体に攻撃は効かない。でも知能が著しく低下し言葉を発することができない」

ヤンさんはムムムと眉を顰めて、絞るような声で告げる。

「・・・その命はとても短い」

まさに生きる兵器なのですよ。
アルベールの悲しい呟きに、私は胸が詰まる気がした。



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