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石を見つけましょう

さよならではなく旅立ちでした

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ヴァネッサがお茶を淹れようとするのを阻止して、自分で淹れる。
彼女はカップに直接茶葉を入れてお湯を注ぎ、あまつさえ茶葉ごと飲み干してしまう女性だ。
執務机からソファセットに移動して、私の淹れた紅茶をズズーッと音を立てて飲む。

「で、どうした?」

「頼みがあってね。これは依頼料だ」

魔法鞄から無造作に鉱石を取り出して、ゴロンゴロンとテーブルの上に置く。
純粋な魔力が閉じ込められた魔鉱石。
拳大の大きさで3つある。

「ほえーっ、ずいぶん透明度があって綺麗だねぇ?これだったらお貴族様も欲しがるだろうに」

紅い魔鉱石を手に取って光に透かして見ているヴァネッサの口元は、弧を描いている。
大雑把で豪快な鬼女であるヴァネッサは、こう見えて綺麗な物が大好きだ。
宝石類も自分の身に飾ることはないがかなりのコレクターだと聞くし、所謂恋人も性別問わず美しい人を好んでいる。
ディナールの町でこの魔鉱石を掘り当てたときに、賄賂以外の用途を思いつかなかったぐらいだ。

「何が頼みだい?」

賄賂は気に入ってくれたようだ。

「情報が欲しい。他国から子供連れの旅人を探っている・・・国の子飼の奴か、闇ギルドがいないかどうか?」

「ふうーん。アンタがそんなの気にするなんて、あの子のせい?」

揶揄う色を浮かべ問われた言葉を、ガン無視して話を続ける。

「あの子を探している奴は勿論、あの子に似た同じ年ごろの少女の情報を集めている奴らもいるかどうか調べてくれ」

「・・・なんだい、面倒だね。あたしゃ、たかが町のギルマスだよ。そんな大事なら上に相談しなよ」

「・・・何を言ってるんですか?貴方、帝国のスパイを捕まえようと、その手の情報は個人で集めているでしょ?」

途端、空気がピンと張りつめた。

「なんで、エルフ野郎がそんなこと知ってんだい?」

「じゅあ、聞きますが、自由で気楽な冒険者稼業が一番と豪語していた貴方が、何故ギルド職員に?」

「・・・ちっ。お見通しか」

私は、ゆっくりと自分が淹れた紅茶を口に運んだ。

「アンタの消息を聞かなくなってしばらくしてからかな・・・。弟分が殺された」

ヴァネッサは鬼人族を中心にパーティーを組んでいたが、全員が火力のみという脳筋グループだったので、依頼によってはサポートメンバーを入れていた。
私は彼らのダンジョンアタックのとき、メンバーに加わることが多かった。
そういえば、ヴァネッサを姐さんと慕っていた小柄な鬼人族の少年がいたな・・・と、昔を思い出す。

「殺したのは、盗賊とか敵対している冒険者パーティーの奴らじゃなくて・・・ビーストだった」

そのビーストは不完全な形で、継ぎ接ぎだらけのぬいぐるみのようだった。
理性もなく、ただ闇雲に暴れていたのを、ヴァネッサたちは運悪く高ランク魔獣討伐を終え戻る途中で遭遇した。

「最悪だよ。魔獣討伐が手間取ったせいで、ポーションは尽きて武具は壊れ体力は無い。逃げる足も鈍っていて・・・さすがに全滅かと天を仰いださ」

そのとき、その鬼人族の少年がビーストの体をホールドして仲間を逃がしたそうだ。
確実に自分は死んでしまうのに。

「仲間は町に戻って他の冒険者たちと森に戻ったけど・・・アタシは行けなかった。あの子の死に顔なんて見れないよ。でもね・・・あの子は、あの子の体は・・・」

ヴァネッサは唇を強く噛んで溢れる涙を我慢しているようだった。
たぶん・・・体は残っていなかったのだろう。

「ビーストなんてモンは帝国が作りだした生物兵器だ。アタシはあの子の仇を取るために、そのためにこんな窮屈なギルマスなんてやってるのさ」

「それで帝国のスパイを炙り出そうと?」

ふん!と鼻息荒く頷かれたが・・・そのビーストは帝国産なんでしょうかね?

「驚いたのは、それから5年以上も手掛かりがなかったのに、あんたと再会してすぐにビーストの事件が起こったことだよ。しかもそのビーストは以前よりマトモな形だったからねぇ」

「5年でビーストの精度が飛躍的に上がっていた?」

うんうん、と何度も頷くヴァネッサに、私は顎に手を当てて考える。

「アタシが思うに、帝国の奴らはここアンティーブ国でビーストの実験をしているんだと。ビーストを製作しては野に放ち能力を試してんのさっ」

「そうですか?実験なら、今の帝国なら内戦状態なんだから自国で行えばいいでしょう?もしくはもっと近いトゥーロン王国か連合国で。それに・・・帝国のビーストは30年前には完成してますよ」

「はぁ?」

完成しているビーストに改良を加えて、その性能を実験することは考えられるが、帝国は皇位争いで身内で潰し合っている。
それこそ、実験的に敵地に放り込めばいい。
帝国がわざわざ大国であるアンティーブ国で、そんな危険な真似をするわけがない。
いまアンティーブ国に攻め入れられたら、帝国の歴史は幕を閉じるだろう。

「じゃあ・・・一体・・・誰が・・・。あ!じゃあ、トゥーロン王国の奴らじゃないかい?あいつらは亜人差別が激しいからね!」

あの酷い国だったら、獣人を使って人体実験ぐらいするよ、絶対!と鼻を膨らませる姿は、妙齢の女性としてはどうなんでしょうね?

「あの国ではないですよ。これはアンティーブ国の上層部と冒険者ギルドの長老たちは気づいていると思いますが、あの国はミュールズ国の属国です」

「はあああっ?」

口に含んだ紅茶がダバダバ零れているから、口ぐらいは閉じなさい。







「知らなかった・・・。そんな・・・。じゃあ、アタシの仇ってミュールズ国の奴らか・・・」

真実を知って頭を抱え込んでしまったヴァネッサ。
いやいや、アンティーブ国で出没しているビーストがミュールズ国生産の物だというのは、私の推測ですけどね。

「利害が一致したみたいなので、私の件も貴方が調べるついでにお願いしますね」

「・・・ああ。わかった。ついでだしね」

顔を上げて困ったようにくしゃりと笑う彼女は、少し幼く見えました。

「たぶん、帝国以外の奴らでも怪しいのは押さえていると思うから、聞いておくよ。あー、そういえば、最近アラスの町におかしな奴らが来てたなぁ」

人探しをしていた訳じゃないけど、そう付け加えて話してくれた情報は、なんだか私の胸にひっかかりました。

「ベルナールと呼ばれていたんですね?」

「ああ。お付きの獣人たちがそう呼んでたよ」

・・・私の知っているベルナール様と外見は一致するが、あの人が何のためにアンティーブ国へ?
それも貴族たちや商会の会頭と知己を結ぶのには、一体どんな意味があるのか?

「それと、正体不明な男ですか・・・」

「いや、そのベルナール様のお付きのひとりなんだけど、おかしいんだよね?」

さらにその男に付いてる若い獣人から「ヴィー様」と呼ばれていたと。

「従者に従者が様付けで呼ぶなんてねぇ?そいつも冒険者の恰好はしていたけど、ありゃ貴族だね、それもかなり高位の」

外見と年齢・・・そして「ヴィー様」と呼ばれていた。
ベルナール様と行動を共にしている。
もしかして・・・ヴィクトル殿下か?

「その人たちの詳しい話も仕入れておいてください。特に行先を」

「ああ。分かったよ。しばらくしたらまたおいで」

こうして、私はリュイエの町に落ち着くことなく、アラスの町や隣の侯爵領地を行き来するはめになったのです。






気持ちよく晴れた朝、今日は私たちがリュイエの町を出発する日です!
男爵邸を出るときは、またもや皆さんで見送ってくれています。
ローズさんからはお弁当までいただきました!
みんなが心配するから、私たちはこのままボーヌの町を目指すフリをします。

「ヴィー。またこの町に戻ってくるんだよ。もっともっと美味しい物を作って待ってるからね」

「はい!」

「ヴィーさん。おソバ、必ず作ってみせますから、是非食べに来てくださいね」

「もちろん!」

「あー、ぶー」

エミール君は何言ってんのかわからないから、お手々を握ってブンブン振っておく。

「じゃあ・・・行ってきまーす!」

私は馬車の窓から身を乗り出して、遠ざかる親しき人たちに大きく手を振るのだった。



「だから、危ないですよ!」

「ぐえっ」

アルベール!馬車の中に戻すのに襟元掴むの止めてよねー!

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