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王都に行きましょう

誘われました

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お腹いっぱいになって幸福感に包まれた私たちは、場所を応接室に移して改めてお話しすることに。
ふたり掛けのソファに座り、しっかりと膝上にリオネルを抱っこして、カミーユさんは深刻な顔で語りだした。

「あのビーストはやはり・・・ビーストでした」

「?もどきって、失敗作ってこと?」

戦闘中からカミーユさんはあのビーストが似て非なる物と言い表していたから、その情報はいまいち目新しくないよ?

「失敗作というより・・・いわゆる帝国産ではないビーストです。偽物と言いましょうか?」

帝国産ではない、ビースト?

「それは、どこか別の国がビーストの研究を始めていて、試作品をここアンティーブ国にバラまいたとのことですか?」

セヴランが身を乗り出して質問する。

「私は商人として連合国を中心に商いをしていましたけど、そんな話は噂にも聞いたことがありません」

「軍事用であれだけ非人道的な兵器だ。機密中の機密だろうよ。一介の商人が耳にする話じゃない。それよりも帝国みたいな恐ろしい国と同じモンを作り出そうとしている国がどこか・・・て話だ」

「そう・・・下手をすればこの大陸も帝国と同じように戦渦に巻き込まれていくことになりますよ」

・・・えー、アンティーブ国があるこの大陸全土がそんな恐ろしいことになるなら、また私たちは安住の地を求めて旅に出ないといけないじゃない。
くそうっ、どこの国だよ、そんなビーストなんて兵器を作りやがったのは!

ここで、私はハッと気づく。
元々のビーストは亜人を合体して作った人造体だ。
亜人をそんなひどい扱いする国なんて・・・私が生まれた国のトゥーロン王国しかないのでは?

みそっかす王女として忘れられていた私が、自国の罪の意識を感じることもないと思うけど、なんだか魂の奥から暗い気持ちが押し寄せてきてガクガクと体が震えだす。

「ヴィー」

横に座ったアルベールが肩を強く抱いてくれた。

「・・・あのビーストを作り出したのは・・・トゥーロン王国でしょうか?」

カミーユさんは意外なことを聞いたとばかりに、やや垂れた大きな眼をパチパチと瞬きをして首を傾げる。

「どうしてトゥーロン王国だと?あの国には残念ながらビーストを作るような技術は無いですよ。いろいろな意味で遅れた国ですからね。亜人差別は激しいですけど・・・。取るに足らない国ですし」

なんか・・・自国の評価がものすごく低いんですけど・・・。
複雑な気持ちにはなったが、体の震えは収まったようだ。
アルベールに差し出されたミルクティーをコクコクとゆっくりと飲んで、リラックスしよう。

「あのビーストは帝国とはまったく違う作りでした。帝国のビーストは何体もの亜人、特に獣人を魔法で合体させるのです。融解させて合わせると言う方が正しいかもしれません。しかし昨日のビーストは亜人だけでなく魔獣の体を継ぎ接ぎで繋いで合体させたものでした」

魔法で合体って・・・それって私とアルベールとリュシアンが融けて混じってひとつの体に作り直されるってこと?
能力も合わさって強くなるけど、意識はひとつに保つことができないから知性や理性は破壊される?

でも昨日のビーストは、死んだ亜人や魔獣の体の強い部分を縫い合わせてひとつの体にして疑似生命体、もしくはベースになった亜人の意識で動く生物。
しかし、その意識も混濁してまともな判断能力に欠け、言葉すらも発することが困難な状態。
似てるけど・・・確かに違う人造体と言えるかも。

「昨日のビーストもベースの亜人には魔法を駆使して痛みや苦しみを取り除いていたでしょうけど、ほぼ狂気に包まれていて無判別な行動を取っているように見えました。攻撃本能だけで生きているような・・・」

「そうですね。ゴダール男爵領で対峙したビーストも、意思疎通ができないだけでなく人としての判断力は全くなかったでしょう。ただ、攻撃し破壊することのみで動く化け物でしたよ」

ゴダール男爵領のビーストは、見た目でサイの獣人かと思ったけど、サイの獣人ってこの世界にはいないらしい。
たぶんサイとよく似た魔獣の体を使って作ったビーストだったんだろうな・・・。
帝国のビーストは魔獣は素材に使わないらしいし。
なんだか魔法の浸透率が亜人とは違うから、魔獣の体を使っても合体できないんだって・・・て、なんでカミーユさんはそんなこと知っているの?

「なんで?」

素直に聞いてみた。
大丈夫!私、いま8歳!ついでに美少女だし。

「・・・国を出て冒険者になり、魔獣に興味を持ち、いろいろな魔獣を探し歩いて・・・つい、帝国に足を伸ばしてしまって」

えへっ。
いやいやいや、笑って誤魔化すなよ。

「おいっ、あんた!帝国に行ったって・・・よく五体無事に戻ってこれたなぁ」

「ええ。向こうで志願兵として行って、すぐに隊から離反して森の中で魔獣を捕獲しまくりましたーっ!いやあ、楽しかった。そのときの知り合いにビースト開発研究所に勤めていた奴がいて、いろいろとお話しを聞いたんですよー。それでその後・・・」

ゴクリ。
急に真顔になるカミーユさん。

「仲間を集ってその研究所・・・破壊しましたけどね。捕まっていた獣人たちと帝国を脱出するのも楽しかったー!」

・・・いやーっ!白虎族怖ーい!
どいつもこいつもバトルジャンキーじゃんよー!
リオネルも「なにそれ、楽しそう!」とか眼をキラキラ輝かしてお話しを聞いているんじゃありません!
頼まれても帝国なんて行かないからねーっ!

「大丈夫か、お嬢」

リュシアンが背中を摩ってくれるので、私は深呼吸を何度か繰り返した。
すみません、取り乱しました。

「・・・あのぅカミーユさん。私たちにビーストの話をしても・・・どうにもなりませんよ?私たち、ただの旅の冒険者パーティーですし」

そっと挙手をしてセヴランが小声で主張する。
うん、私たちにそんな問題を相談されても困るし、巻き込まれたくないし。

リオネルはカミーユさんの膝の上で、もしゃもしゃとお菓子を食べているし。
ルネはお腹いっぱいで、さっきから頭がカクンカクンとしてお眠りモード。
アルベールとリュシアンは昨日カミーユさんに付き合って冒険者ギルドや役所や学術の塔やらに行っていたので、まあまあ興味を持って話を聞いてはいるけど、聞いているだけ。
セヴランなんて、できれば関わり合いたくないって顔に書いてあるもん。

「そうなんですけど。あのビーストは王都の冒険者ギルドに運ばれて、王都の騎士団と協力して調査することになりました。ゴダール男爵領で発見されたビーストがそうなので。それで僕も討伐者で魔獣学者として王都へ行くことになりました」

そこまで話して、カミーユさんはコクリと紅茶を飲んで口を湿らせる。
そして優雅に両手の指を組んで、顎を乗せて魅惑な笑顔で私たちを誘う。

「護衛として、僕と一緒に王都に行きませんか?」
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