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運命の鐘を鳴らしましょう

その人は・・・王子様でした

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「ヴィクトル・・・兄様?」

私の呟きが聞こえた訳ではないだろうけど、視線を感じてか、その人がこちらに目線を上げようとした瞬間。

「ほら、行きますよ!」

バシンとリュシアンの肩を叩き、グイッと強い力で私の腕を掴み上げて抱き上げると、そそくさと階段を昇りきるアルベール。
しかも私が階段下を見下ろせないように、がっしりと頭を抱え込んだまま。
なんで?
もしかして、アルベールは・・・知っていたの?
そんな疑問を投げかけることもできないままに、カミーユさんの案内でギルマスの部屋へと入り、あれやこれやと手続きが進められていく。

「・・・それで、例のビーストの件はどうなりました?」

「うん。今度のビーストの調査に関してもギルドが一枚噛ませてもらえることになったよ。ゴダール男爵領地で討伐されたビーストは冒険者の手柄だし、今回のビーストにはカミーユ先生が関わっているからね」

「それは、よかったです」

どうやらビーストの調査に関しては王都預かりではあるものの、ちゃんと冒険者ギルドも交えての調査になるらしい。
冒険者ギルドが入ることで、アンティーブ国だけの情報として隠匿されることなく、全国に情報が共有される。
それは、危険と隣合わせになっている冒険者の命を救う一手ともなるのだ。
ビーストなんて化け物がウロウロしているのを知っているのと知らないのでは、その対策も変わってくるしね。

「カミーユ先生には早速、王都の魔法兵団へ顔を出してきてください。騎士団のお偉方とか文官のいけ好かない連中もいるでしょうが、上手くあしらってくださいね」

「・・・難しいことを言いますね?ぶっ倒していいですか?」

それは・・・冒険者ジョークなんですか?笑えないですよ?
え?本気で言ったの?
絶対、止めてくださいね!

そして、私たちの王都ギルドへの来訪チェックと、カミーユさんの護衛依頼達成の確認と、途中で倒してきた魔獣の素材買取を済ませて、冒険者ギルドの前でカミーユさんと別れる。
別れる・・・、ちょっと、リオネルにいつまでも頬ずりしてないで、王宮に行ってくださいよ!
お仕事があるんでしょう?

何度もこちらを振り返りながら、重い足取りで王宮へとカミーユさんは旅立って行きました。
さて、と。

「どうします?市場でも見て回りますか?」

セヴランのお誘いに私は頭を振ってアルベールを見つめる。

「・・・。はぁーっ、わかりました。宿に戻りましょう。皆さんに話しておくことがあります」

隣ではリュシアンが苦い顔をして立っている。
ギルマスの部屋から出て階段を降りてくるときもガッチリとアルベールに抱え込まれた私は、ご丁寧にギルマスの部屋を出る前に被せられたローブをフードまですっぽりと下ろして怪しい風体になっている。
どうやら、リュシアンが見回した所、例のふたり組みは既に冒険者ギルドを出て行ったらしく見当たらなかったらしい。
だって、リュシアンがあからさまにホッとしていたからね。

私たちの態度に首を傾げたセヴランは、それでも何も言わずにルネとリオネルの手を繋いで宿へと足を向けてくれた。
私はぶすっと頬を膨らませてアルベールに抱っこされている。

「・・・ごめんな、お嬢」

後ろからリュシアンの小さな声が聞こえた。
それは何に対しての謝罪なんだろう?
私は押し寄せる不安にギュッとアルベールの上着を掴んだ。








私とアルベール、リュシアンに気を利かして、セヴランとルネがお茶の用意をしてくれる。
私はとりあえず宿屋の部屋に入った瞬間にローブを脱ぎ捨てたわよ。
そして、淑女としてはあるまじき態度だが、ドカッと音をわざとさせてソファに座る。
腕も組んじゃうんだから。
全員座って、沈黙が暫しその場を支配する。

「・・・で?何か言うことあるんじゃないの?」

堪らず私がアルベールに圧をかけて問いかける。

「ふうーっ、しょうがないですね・・・まさかこんなあっさりと彼の人と巡り会うとは思いませんでしたよ」

ハハハと力なく笑ったアルベールは、ひとりひとりの顔を見た後、アラスの冒険者ギルドで仕入れた正しい情報を私たちに教えてくれた。

つまり、トゥーロン王国からアンティーブ国へと訪れたのはベルナール様だけでなく、ヴィクトル兄様も一緒だったこと。
トゥーロン王国の王族としての身分を隠し、アラスの町で冒険者登録をして冒険者として活動していたこと。
ベルナール様とヴィクトル兄様との関係については、わからないこと。

「まあ、辺境伯は亜人奴隷解放軍の主要人物でしょうから、ヴィクトル殿下も同じ志かと・・・」

ふむ。

「そうね。辺境伯が奴隷解放を謳ってクーデターを起こしても、国民には王位簒奪の暴虐にしか映らない可能性もあるわ。でもヴィクトル兄様の号令の元に奴隷解放が宣言されれば・・・」

それは、正しい王位継承者による次期国王の政策のひとつとなる。
反対する貴族諸侯がいてそれを粛清しても、国民は受け入れるだろう。
だって、次期王位を継ぐ者の意志で行われることなんだもん。
そのバックにリシュリュー辺境伯が付いてるだけの話だし。

「でも、なぜアンティーブ国に?」

いや、ミュールズ国の裏の顔を知っていればアンティーブ国に逃げてくるのが安全だけども、そもそもイザックたちでさえミュールズ国の関与は疑っていなかったんだし、ヴィクトル兄様もミュールズ国へ疑いの眼なんか向けてないよね?

「待って下さいよ。ヴィクトル殿下って例のパーティーで第2王子に暗殺された第1王子ですよね?その人がなんで生きてここにいるんですか?」

セヴランの疑問も正しい。
確かに、私はこの目でヴィクトル兄様があのユベールに斬られるのを見た。
力無く倒れて行く兄様を。
あれ?助かったの?あんな至近距離でバッサリ斬られていたよね?
私が首を捻っていると、リュシアンとアルベールが気まずそうに顔を見合わせた。

「リュシアン。あんた、よくヴィクトル兄様に気づいたわね?」

あのパーティーのときに、ほんのひととき会っただけなのに?

「・・・視線を感じたんだよ。冒険者の知り合いかと思ってみたら、王子の隣にいた獣人が俺を見てた。目が合う前に王子に話しかけられてよく顔は見えなかったが、知らない奴だった」

そして、隣にいた冒険者が金髪のキラキラフェイスで見覚えがあるなぁと考えたら、私が「ヴィクトル兄様」と呟いたので焦ったと・・・。

「なんで、兄様の知り合いがリュシアンのこと知ってんの?」

しかも今は、けもミミも尻尾もモロ出し状態の姿なのに?

「さあ?でもトゥーロン王国で王宮に居た奴と知り合うことなんて無いし・・・でもイザックたちの所に居た奴でもないし・・・」

「・・・なにか狼獣人同士は個人判別できるとか?」

「そんな話は聞かないし。他の狼獣人とは何も感じない。そもそも俺の方は気がつかなかった」

リュシアンの眉が困惑で八の字に下がる。

「そうですね。狐獣人だからといってお互い個別認識はできないですよ?彼の固有のスキルか何かじゃないですか?」

セヴランの意見に賛成!

「それより、なんで死んだはずの王子がここ、アンティーブ国の王都で冒険者しているんですか?確かに斬られたんですよね?」

セヴランの問いに、リュシアンは口をきつく結ぶ。
ん?なんだ、言いにくいことなのかな?

「・・・。確かに第2王子の剣で斬られたけど・・・。致命傷では・・・なかった」

「すぐに私たちが助けに入れば・・・助かる程度の傷でしたよ・・・」

・・・?
はい?

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