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運命の鐘を鳴らしましょう
玉座の正当性を訴えてました
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さきほどから、王様の隣に従者の小人族のおっさんがちんまりと立って、大きな羊皮紙に書かれた報告書を読み上げている。
傍からみていたら、微笑ましいファンタジー小説の一場面なのだが・・・。
その読み上げている報告書の内容は、ここ最近アンティーブ国に出没しているビーストの報告だし、知らない間にカミーユさんがその小人さんの隣にしれっと立っていて、ニコニコと報告内容を補う発言をしたりしてるし・・・。
チラリと前を見れば。対面に座っているベルナール様一行。
もちろん、私たちの間にはかなり距離が空いているけど・・・すっごい見られていて居心地が悪い!
「あれは、バレてますね。ヴィーがシルヴィー王女だと、ヴィクトル殿下に」
アルベールの言葉に無言で頷く。
ヴィクトル兄様の視線は、この謁見の間に入ったときから私のみに注がれているのだから。
「いや、俺も見られてんだけど?」
リュシアンの場合は、ヴィクトル殿下の後ろに座った犬?狼獣人の青年から熱い視線を一身に浴びている。
「いや、熱視線じゃなくて、睨まれてんだけど?」
そうかな?ちょっと尻尾がフリフリしてる気がするよ?
小人従者さんの報告が終わったあと、形式的に陛下とカミーユさんが幾つか質問のやりとりをする。
そこで名前が出たのは、亜人差別で悪名の高いトゥーロン王国と、ビーストの発生元と疑っているミュールズ国だ。
ここで、陛下の後ろに控えていた小柄な王妹様が発言します。
「陛下。トゥーロン王国でビーストを作ったとしても、我が国まで流れてくることは至難の業でございます。疑うべきミュールズ国かと」
「ううむ」
「兄上!ミュールズ国は昔から善人ぶってトゥーロン王国を庇っていたが、自分の悪業を隠すためと思えば納得する。第一、ミュールズ国の王族は悪人面だろ?」
それは、偏見ではないでしょうか?
悪人面ではないけど、クリストフさんも王弟とは思えない荒くれ具合でしたが?
私たちはちょっと笑うのを堪えて、肩がビクリと震えてしまった・・・。
「ふむ。ミュールズ国に探りを入れる必要があるな。確かに我が国に帝国やトゥーロン王国からビーストを送り込むのは難しい。だが、ミュールズ国なら可能であるし、あの国王ならやりかねん」
どんな国王なんだよ?ミュールズ国。
慈愛の国として評判がいいのに、国王とかめっちゃ不人気ですが?
「では、次に・・・。ヴィエンヌ侯爵家預かりの・・・そのう・・・」
言いにくそうに小人従者さんが汗をハンカチで拭き拭きしながら、何かを読み上げようとしている。
そこへベルナール様が呼ばれてもいないのに、スクッと立ち上がり玉座の前に進み片膝を付いた。
クリストフさんは咄嗟に腰の剣の柄に手を置き、ベルナール様と陛下の間に走り込む。
「よい、クリストフ。下がれ」
「しかし!」
「よい」
クリストフさんは渋々横に移動したが、いざとなったらいつでもふたりの間に入り込める距離に居る。
そのベルナール様の後ろに、王城まで付いてきた獣人たちが次々に膝を付くが、ヴィクトル兄様とその後ろに座るリュシアンを睨んでいた獣人は動かなかった。
アルベールは謁見の間に入ったときから、逃走経路の把握とこの部屋に掛かっている魔法の解読を始めた。
逃走経路については、「窓から出ればいい」とヴィーに言ったが、この部屋の窓は天窓以外に見当たらないな。
そっちについては、リュシアンも見当をつけているから、まあいいでしょう。
たぶん、彼なら不必要にグルグルと連れ回された王城の正しい経路を見出すことができるだろう。
それも最短距離を。
ふむ、それならカミーユもリオネルも可能だろう。
私はふと、セヴランに視線を送る。
彼はキョロキョロと調度品を品定めするように見回しているが、謁見の間にかけられた魔法の術を解読解析し、場合によってはその綻びを見つけている。
「・・・どこか、貴方の妖術で死角を作っておいてください」
ぼそっと呟いた私の言葉に、眼差しだけで返事をする。
リュシアンといい、セヴランといい、随分と成長したものです。
でも、ここから逃げるとなったら、一番に活躍してもらうことになるのは、ヴィーなんですけどね。
この子がヴィクトル殿下を斬り捨てられれば、私たちは問題なくアンティーブ国の王城から脱出できますが、どうなることやら。
ヴィクトル殿下は、謁見の間に入ってきたヴィーをじっーと見つめている。
その瞳には、愛しさと喜びとほんの少しの悔恨が含まれている。
ちっ!
そんな目で見るな!この子はお前の妹ではないのだから・・・。
そんな中始まったこの茶番に相応しい前説として、まずは「ビースト」の報告から始まった。
もっともらしく進められているが、アンティーブ国はとっくにビーストがミュールズ国の差し金と睨んでいたのだろう。
そう思う何かがあったのだろうか?
そして、とうとう主役のお出ましだ。
ベルナール殿、貴方がアンティーブ国の王族に求めるのは何ですか?
自分の保護か?アンティーブ国の王族のひとりとして、不遇の人生をやり直したいのか?
トゥーロン王国に攻め込むための助力か?亜人として亜人奴隷の国を正す英雄になりたいのか?
少しの興味と、やや捻くれた見方で傍観者のひとりに徹していた私の耳に、彼の意外なセリフが飛び込んできた。
「アンティーブ国の偽りの国王よ!お前は、その玉座に相応しいと思うのか?我が母から簒奪した、その玉座が!」
傍からみていたら、微笑ましいファンタジー小説の一場面なのだが・・・。
その読み上げている報告書の内容は、ここ最近アンティーブ国に出没しているビーストの報告だし、知らない間にカミーユさんがその小人さんの隣にしれっと立っていて、ニコニコと報告内容を補う発言をしたりしてるし・・・。
チラリと前を見れば。対面に座っているベルナール様一行。
もちろん、私たちの間にはかなり距離が空いているけど・・・すっごい見られていて居心地が悪い!
「あれは、バレてますね。ヴィーがシルヴィー王女だと、ヴィクトル殿下に」
アルベールの言葉に無言で頷く。
ヴィクトル兄様の視線は、この謁見の間に入ったときから私のみに注がれているのだから。
「いや、俺も見られてんだけど?」
リュシアンの場合は、ヴィクトル殿下の後ろに座った犬?狼獣人の青年から熱い視線を一身に浴びている。
「いや、熱視線じゃなくて、睨まれてんだけど?」
そうかな?ちょっと尻尾がフリフリしてる気がするよ?
小人従者さんの報告が終わったあと、形式的に陛下とカミーユさんが幾つか質問のやりとりをする。
そこで名前が出たのは、亜人差別で悪名の高いトゥーロン王国と、ビーストの発生元と疑っているミュールズ国だ。
ここで、陛下の後ろに控えていた小柄な王妹様が発言します。
「陛下。トゥーロン王国でビーストを作ったとしても、我が国まで流れてくることは至難の業でございます。疑うべきミュールズ国かと」
「ううむ」
「兄上!ミュールズ国は昔から善人ぶってトゥーロン王国を庇っていたが、自分の悪業を隠すためと思えば納得する。第一、ミュールズ国の王族は悪人面だろ?」
それは、偏見ではないでしょうか?
悪人面ではないけど、クリストフさんも王弟とは思えない荒くれ具合でしたが?
私たちはちょっと笑うのを堪えて、肩がビクリと震えてしまった・・・。
「ふむ。ミュールズ国に探りを入れる必要があるな。確かに我が国に帝国やトゥーロン王国からビーストを送り込むのは難しい。だが、ミュールズ国なら可能であるし、あの国王ならやりかねん」
どんな国王なんだよ?ミュールズ国。
慈愛の国として評判がいいのに、国王とかめっちゃ不人気ですが?
「では、次に・・・。ヴィエンヌ侯爵家預かりの・・・そのう・・・」
言いにくそうに小人従者さんが汗をハンカチで拭き拭きしながら、何かを読み上げようとしている。
そこへベルナール様が呼ばれてもいないのに、スクッと立ち上がり玉座の前に進み片膝を付いた。
クリストフさんは咄嗟に腰の剣の柄に手を置き、ベルナール様と陛下の間に走り込む。
「よい、クリストフ。下がれ」
「しかし!」
「よい」
クリストフさんは渋々横に移動したが、いざとなったらいつでもふたりの間に入り込める距離に居る。
そのベルナール様の後ろに、王城まで付いてきた獣人たちが次々に膝を付くが、ヴィクトル兄様とその後ろに座るリュシアンを睨んでいた獣人は動かなかった。
アルベールは謁見の間に入ったときから、逃走経路の把握とこの部屋に掛かっている魔法の解読を始めた。
逃走経路については、「窓から出ればいい」とヴィーに言ったが、この部屋の窓は天窓以外に見当たらないな。
そっちについては、リュシアンも見当をつけているから、まあいいでしょう。
たぶん、彼なら不必要にグルグルと連れ回された王城の正しい経路を見出すことができるだろう。
それも最短距離を。
ふむ、それならカミーユもリオネルも可能だろう。
私はふと、セヴランに視線を送る。
彼はキョロキョロと調度品を品定めするように見回しているが、謁見の間にかけられた魔法の術を解読解析し、場合によってはその綻びを見つけている。
「・・・どこか、貴方の妖術で死角を作っておいてください」
ぼそっと呟いた私の言葉に、眼差しだけで返事をする。
リュシアンといい、セヴランといい、随分と成長したものです。
でも、ここから逃げるとなったら、一番に活躍してもらうことになるのは、ヴィーなんですけどね。
この子がヴィクトル殿下を斬り捨てられれば、私たちは問題なくアンティーブ国の王城から脱出できますが、どうなることやら。
ヴィクトル殿下は、謁見の間に入ってきたヴィーをじっーと見つめている。
その瞳には、愛しさと喜びとほんの少しの悔恨が含まれている。
ちっ!
そんな目で見るな!この子はお前の妹ではないのだから・・・。
そんな中始まったこの茶番に相応しい前説として、まずは「ビースト」の報告から始まった。
もっともらしく進められているが、アンティーブ国はとっくにビーストがミュールズ国の差し金と睨んでいたのだろう。
そう思う何かがあったのだろうか?
そして、とうとう主役のお出ましだ。
ベルナール殿、貴方がアンティーブ国の王族に求めるのは何ですか?
自分の保護か?アンティーブ国の王族のひとりとして、不遇の人生をやり直したいのか?
トゥーロン王国に攻め込むための助力か?亜人として亜人奴隷の国を正す英雄になりたいのか?
少しの興味と、やや捻くれた見方で傍観者のひとりに徹していた私の耳に、彼の意外なセリフが飛び込んできた。
「アンティーブ国の偽りの国王よ!お前は、その玉座に相応しいと思うのか?我が母から簒奪した、その玉座が!」
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