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運命の鐘を鳴らしましょう

さあ、始まりました!

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さあ、行こう、と馬車に乗り込み宿屋を出ようとした私たちの前に、いつものだらしない恰好とは違い、どこぞの騎士のような恰好をしたクリストフさんが、ゾロゾロとお供を連れて迎えに来てくれました。
ちっ!

そして、前後左右を騎士たちに固められたまま、お城まで誘導されて行きます。
誘導?連行の間違いじゃないの?
だって、カヌレに騎乗していたリュシアンは馬から降ろされて、セヴランと一緒に馭者席にいるのよ?
馬車の外から、私たちを監視する鋭い視線を感じるわ・・・。

「落ち着きなさい。まだ、どうなるかはわからないんですから」

「そうだけど・・・。リシュリュー辺境伯のときを思い出して、なんか気分が悪いわ」

主張するつもりはないけど、私は一応、トゥーロン王国の王女なんですけどね?
ええ、主張するつもりはありませんが!

プリプリと腹を立てていたら、あれよあれよとお城の外門を抜け外庭から内庭へと進み、馬車を降りるようにクリストフさんから促された。

そのまま、厳つい騎士さんたちに連行され、白亜の宮殿の中をグルグルと歩き回る。
なんか、右に曲がったかと思ったら左に曲がって、階段を昇ったかとおもったら、スロープで下る・・・て、今どこを歩いてるのか全然わからないわ。
隣を歩くアルベールにそそっと近づき、こそっと声をかける。

「アルベール。出入口、わかる?」

「・・・ええ、なんとか。いざとなったら窓から出ればいいんですよ」

バチンとウィンク付きで答えてくれた。
そういえば、トゥーロン王国の王城からも、窓から出たわね、私たち。

「さあ、ここだ」

先導していたクリストフさんがピタリと重厚な両開きの扉の前で止まる。
サアーッと私たちに付いていた騎士さんが、綺麗に左右に分かれてピシッと立つ。
ギギィと重そうな音を立てて、その扉が中から徐々に開かれていく。
私はグッと唇を噛んで、隣のアルベールの手を握った。

そこは、玉座があって貴族たちが集まる通常謁見の広間ではなく、王族が私用に使っている謁見の間らしく、想像よりこじんまりとした印象だ。
天井からぶら下がる豪華なシャンデリアは幾つあるのか、10を超えたところで数えるのを止めた。
こじんまりしていると言っても、前世の感覚で見るとちょっとした宴会会場規模ですよ。

クリストフさんが誘導した場所は、玉座から見て左手側。
椅子が用意されているけど、座ってもいいの?

「国王陛下がいらっしゃって、着席されたら座ってもいいですよ」

あー、偉い人待ちね。

反対の右手側には、既にベルナール様たちがいらしていた。
ベルナール様とヴィクトル兄様、後はトゥーロン王国から連れて来た獣人たちだろうか?
ベルナール様を保護している侯爵家の人はいるのだろうか?

首を傾げていたら、アルベールがクリストフさんに確認してくれた。
彼はブスッとぶすくれた顔で「ヴィエンヌ候は招かれていない」と教えてくれた。

アンティーブ国の王族は、私たちを案内してきたクリストフさん以外は、まだ来られていない。
私たちの他には、近衛隊の騎士だろうか?先ほどの騎士たちとは色合いの違う騎士服を着た人たちが、あちこちに立っている。
しかし・・・獅子族丸出しでいるベルナール様より、怪しい風体に見られているこちら側の方が、立っている騎士たちが多いのが、信頼が無いみたいでムカつく。

待つこと暫し、ラッパみたいな音が響くと、謁見の間の奥の扉が厳かに開き、赤いマントを翻しながら入室してくる人がいる。

「来ましたね」

ゴクリ。

アンティーブ国の国王陛下。
クリストフさんよりもやや背の高い、意外にも細身の男性。
豪奢な金髪の頭にはライオンの丸い耳、切れ長の眼は王者の風格を湛え青く輝く。
高い鼻に薄い唇のやや大きい口。
泰然とした姿勢で、玉座の前にゆったりと立つ。

国王陛下の後ろから続いて入室する王族の方々、たぶん美人な女性は王妃様かな?そのまた後ろの小柄な女性には、国王陛下とクリストフさんとお揃いのライオンの耳がある。

「待たせたな」

低い美声でひと声発すると、玉座に座る国王陛下。
・・・もう、そのオーラにビビッてるんだけど私・・・大丈夫かな?







アンティーブ国の国王が目の前にいる。
そう思うだけで、目の前か真っ赤に染まるほどの怒りが湧いてきた。
あんなにも怒り、あんなにも憎み、あんなにも涙流したのに、まだ湧いてくる激しい感情に、自分で呆れるほどだ。

グッと拳を握りしめ、表面は冷静を保つ。
まだ・・・行動には移さない。
同じだけの悲しみと絶望を与えてからだ。

「おい、ベルナール」

「・・・・・・」

「本当に・・・あの子が・・・シルヴィーなのか?」

ヴィクトルが、例の冒険者たちが入室してから目を離さないひとりの少女。

茶色の髪は別れた時よりも整えられていて、すっきりと顔が見えている。
ぱっちりとした大きな茶色の瞳には、密集した長い睫毛が縁取り、ポチっとした小さなと鼻とプルンとしたピンク色の唇。
まだ、まろやかな頬、あれから幾分か肉が付き背が伸びたらしい。

ヴィクトルの妹のリリアーヌとは全く似ていないし、彼とも似ていない、トゥーロン王国の忘れられた王女。

「ああ。彼女が、シルヴィー王女だ」

彼女がこの場にいることが、自分にとって有利になるのか、それとも・・・。
これは、ひとつの賭けなのだ。

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