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運命の鐘を鳴らしましょう

密談しました

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「うがーっ!」

雄叫びを上げて、乱暴にガシガシと頭を掻きむしり、クリストフさんが血走った目でリュシアンを睨む。

「なんだよ」

ゴクンと口の中のプチフールを飲み込んで、ソファに座りながらも後退りする。

「お前は理解したのか?今の説明で状況を!」

「ああ?ああ・・・まぁな。ヴィクトル殿下の話は初めて聞いたが、ほとんど、お嬢とアルベールが推測してた通りだったし・・・」

グルンと勢いを付けてこちらに縋るような視線を投げてくる、黒獅子王弟。

「頼む。もう一回、分かり易く説明してくれ!もう・・・頭が・・・」

「ははは。私からも頼む。少し頭の中を整理したい」

陛下までそう言って軽くアルベールに頭を下げると、宰相さんに周辺の地図を持ってこさせた。

「ふうっ、しょうがないですねぇ。物事を整理しながら、説明しましょうか」

とういうことで、もう一度おさらいです。
ルネとリオネルもちゃんと聞きなさいよね!あとでテストするぞ!答えられなかったら肉無しご飯なんだから。
地図を広げるついでに、テーブルの上の紅茶を淹れなおして、新しいお菓子も追加されました。










トゥーロン王国が亜人差別をして奴隷制度を奨励していたのは、ミュールズ国からの命令だった。
奴隷となる亜人のほとんどはミュールズ国から連れて来られて、一旦トゥーロン王国の王宮で亜人奴隷として働く。
その後、戦力として亜人奴隷を欲する帝国に売り飛ばしていた。
トゥーロン王国がミュールズ国の傀儡国として存続していたのは、かなりの昔からと考えられる。
理由は不明。
ミュールズ国は何らかの理由で、帝国で生産されていた「ビースト」を自国で生み出すために、研究・実験をしている。
魔獣と亜人を組み合わせたビーストもどきを作り出し、何かの目的でアンティーブ国へと潜入させている。
ミュールズ国の前国王と現国王はトゥーロン王国のザンマルタン家と繋がっている。
ミュールズ国の王太子、第2王子は、一連の悪事には手を染めていない、今のところは。
トゥーロン王国リリアーヌ第2王女がミュールズ国第2王子と婚約することになり、政敵のジラール公爵失脚を企み、第1王子ヴィクトルが立太子される直前、自分の孫である第2王子ユベールを王位に即けるため主要王族を殺害した。
予備として生かしていた第3王女が亜人奴隷だったエルフ族の報復に遭い、死亡する。
現在、トゥーロン王国の直系王族は国王陛下(幽閉中)とザンマルタン家のユベールとエロイーズしかいない。
そして、このふたりは同腹の姉弟なのに、王位争いでいがみ合っている。
今なお、リリアーヌたち王族の葬儀は行われていない。
王宮に秘匿されていた、古代の奴隷魔法陣は破壊され修復も不可能な状態。
王宮の亜人奴隷は全て解放されている。
リシュリュー辺境伯の後ろ盾を得ている亜人奴隷解放軍は、王都の冒険者ギルドを中心に活動中。

「・・・てとこですかね」

カタン、と地図にいろいろ書き込んでいた羽ペンを置いたアルベールは、インクで少し汚れてしまった手をハンカチで拭いた。

「あとは、ヴィクトル兄様とミュールズ国の王子ふたりは協力関係。王子たちの真意は不明ね。あと・・・」

私はヴィクトル兄様に顔を向けて、一気に言い切った。

「第4王女のシルヴィー・トゥーロンは・・・トゥーロン国王の実の娘ではなく・・・。母が国王らに拐われたときに殺された恋人との子供で、その男の兄がアルベール・・・」

「は?」

「ヴィクトル兄様。私・・・兄様の妹じゃないの。ついでに、本当の父親はエルフ族よ」

私の肩に手を置いて、アルベールが「私の姪だ」と言い切る。

うーん、母方の親族が殺されて、可愛い妹のリリアーヌ姉様も亡くして、一緒に国を出てきたベルナール様とも別れたヴィクトル兄様に真実を告げるのは戸惑うけれど、後回しにしても言いにくくなるだけだし。
思った通りに、ショックを受けてしまうヴィクトル兄様。
ユーグ君が耳も尻尾もしょんもりさせて、私を悲し気に見てくるけど、真実は変わらない。

「おいおい、お嬢ちゃん。そんな国の重要なことを、こんな所でポロリと言うなよっ!」

「重要だから言ったんですよ?冷たいことを言えば、トゥーロン王国のいざこざは、私には関係ありません。父と母の恨みはありますが、所詮ミュールズ国に操られているのが精々な凡庸な国王に、何を求めても・・・ねぇ?」

「そうですね。時間の無駄ですし、国王は何がどうなっても退位は免れないでしょう?」

そう、アンティーブ国が介入せずに、このままミュールズ国とズブズブの関係が続いても、ザンマルタン家主導になるから国王はお払い箱。
アンティーブ国の助力を得て亜人奴隷解放が成功したとしても、新しい王にはヴィクトル兄様が即く。
当然、ミュールズ国の言うがままだったとして、国王は裁かれる。

「放っておいても、お嬢の仇に先は無いもんな。それでも、どうしても仇が取りたいなら、俺とアルベールでるから任せとけ!」

リュシアンがいい笑顔で約束してくれるけど、言っている内容は物騒ね。
私は笑いながら頭を振って申し出を遠慮する。

「とにかく、クリストフさん!アンティーブ国が助力してくれるかどうかも大事なことだけど、もっと大事なことが抜けているのよ」

「へ?な・・・なにが?」

脳筋っぽいクリストフさんはまだしも、陛下までもがきょとんとしている。

「・・・情報。私たちには情報が足りないの!ミュールズ国のこともヴィクトル兄様から聞いた話だけ。トゥーロン王国に対しても新しい情報が得られていない。ビーストのことも調査する必要があるし、情報を精査することも必要でしょ!」

みんなが緊張して私の次の言葉を待つ。

「・・・アンティーブ国に、情報部とか、スパイとか、影の仕事する人たちとか・・・いないの?」

シーン・・・。
え?嘘でしょう?
王国だったら、ヤバい裏仕事する人のひとりやふたり、部署のひとつやふたつ・・・持っているよね?
アンティーブ国って大国でしょ?
周りの国を調べたり、弱味握ったり、王族同士の結婚とかの下調べとか・・・するよね?

「・・・ねぇな。うちの国には」

「うそ?」

「いや、ほんと。その代わり、そういう仕事を頼む奴らはいる。あくまでも非合法で、だが」

私は、アルベールとリュシアンの顔を交互に見る。
それって闇ギルドみたいなヤバい組織じゃないよね?
後々、こちらの弱味になるようじゃ困るんだけど・・・。
ちょっと戸惑っていると、クリストフさんは頭の後ろで手を組んで寛いだ表情で教えてくれた。

「いやぁ、商売人なんだけどな。昔から王家の依頼であちこち調べてもらったり、情報を仕入れてもらったりしてんだ。レルカン商会ってところ・・・」

「レルカン商会!」

今まで存在を限りなく消して、大人しく巻き込まれないように息を潜めていたセヴランが、急に大声を上げて立ち上がる。

なによ?レルカン商会がどうしたのよ?
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