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悪を倒しましょう

ハイエルフはややこしい種族でした

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「・・・い、いいいいい、異世界って・・・なんのことかなぁ?」

フュー♪と音の出ない口笛を吹いて誤魔化してみる・・・けど、無理だよね。
なんかすっごい生温かい目で二人から見られてるもん。
ぶーっ。

「フフフ。かわいいこと。大丈夫よ。異世界旅行のことはハイエルフなら常識だから」

「異世界・・・旅行?」

なんか、急にお手軽感が増したんだけど、どういうことでしょう?
ここで、アメリさんからランベールさんに説明係が交代しました。

「僕はね、ずっとハイエルフの研究をしていたんだ・・・」

知ってます。
あなたの話は、めちゃくちゃアルベールから聞いてましたから。

エルフの里に残された僅かな歴史書を読み漁り、ハイエルフを調べていたランベールさんは、ある日、制止する両親を振り切ってハイエルフを探す旅に出た。
そもそも里の長となるべきアルベールが里に馴染まず冒険者として里を出て、困った両親が期待を込めて育てていた次男のランベールさんまでもが里を出てしまうなんて・・・顔も知らない祖父母にお疲れ様と労いたい。
そして、ハイエルフを探す旅に出て行方知らずとなったランベールさんを探しにブラコンのアルベールが後を追うんだよね。

ハイエルフは、人が入ることのできない森の奥深い所に里を作り、人と混じらずひっそりと生活していると伝説では語られていた。
そう、伝説・・・ハイエルフって伝説の中の人で現存する種族とは思われていないらしい。

「そもそもハイエルフって神代の時代の種族と思われているからね。実際、他の種族は淘汰され残っていないよ。竜人や神狼族や・・・」

「あれ?私の仲間に神狼族かいますけど?」

リュシアンは神狼族ですよ?私がしっかりと「鑑定」しましたから。

「そうだったね。彼らは本来の種族より弱まった種になるかな。竜人であれば羽を出して飛ぶことができるし、神狼族は狼の獣体に変化することができる。でも今の竜人や神狼族はそこまで力を発揮することができない」

ふむ・・・本来よりも種族自体の力が弱まっているのか、それとも他の種族と交わり能力が落ちたのか。

「本来、神がこの世界を作ったあとの管理を任されていた種族たちなんだよ。彼らの役目は終わったから、その種族の力を落としていき、やがては消えゆく種族なんだ」

力が強すぎるのは、完成した世界にとってはよろしくないとの考えで。
神話の時代では、混沌とした世界を渡り歩くのに強い力が必要だったけど、今は争いの元になる。
だから、強い種族はその力を弱め、他の亜人と交わり、種を変えていく。

「ハイエルフもね・・・。長い寿命と強すぎる力を持つ種族私たちの役目はもう終わってしまったの」

アメリさんが寂しそうに笑って、さり気なく隣のランベールさんの手を握る。

「ハイエルフの寿命は長い。気が遠くなるほどにね。だから彼らは自分の心を守るために感情を封殺して生きている・・・と思われていた」

長い寿命を持つハイエルフと他の亜人では、生きる時間が違う。
仲が良くなった人達と、瞬きをするような短い時間で別れなければならない。
幾人も幾人も自分の大好きな人たちの死と向かい合わなければならない。
それは・・・ハイエルフの心を疲弊させるには充分だった。

「でもね。私たちは感情を殺していたわけじゃないのよ。ただ、他所に魂を飛ばしていただけなの」

「・・・はい?」

それが異世界旅行というわけでした。
ハイエルフは長い寿命を健やかに生きるために、魂が疲弊することから逃げた。
まずは森の奥深くに住処を移し、他の亜人たちとの交流を避けた。
そして長い時間を持て余さないように、魂を分けたのだ。
一つは生命維持に必要なギリギリのエネルギーを残し、自分の体に。
もう一つは、魔力を最大限に使い空間を時空を越えて異世界へと。

「だからね、心は異世界に行っているから、ハイエルフのほとんどは無感情無気力なのよ。だって異世界では恋もしているし、冒険もしているんだもの!そっちで忙しいのよ」

キャハッと可愛くはしゃいでますけど・・・そんな芸当ができるんですか、ハイエルフは・・・。

「僕もハイエルフの里で無感情なハイエルフたちと会ったときにはビックリしたけどね。話ができるのがアメリしかいなかったし」

ああ・・・ランベールさんは無事にハイエルフの里を見つけ出していたんですね。

「私はちょうど、三回目の異世界旅行を終えて魔力充填のときだったのよ」

二人が出会いを思い出して、見つめ合いフフフと可愛く笑い合う。
・・・だから、リア充め!

ハイエルフは出生率が激低で、滅多に子供が産まれないそう。
子供の頃の成長は、他の亜人たちと同じで一年、一ヶ月、一日と成長を感じられるらしい。
だいたい15歳から18歳ぐらいになるともの凄くゆっくりな成長速度に変わり、20歳を越えるとピッタリと止まり、死ぬ直前に老化が始まるとか。
なので、長い寿命で生きることを飽き始める頃に異世界旅行に旅立つらしいが、実際には15歳ぐらいから異世界旅行は可能らしい。

「・・・もしかして・・・」

私は自分の額や背中に嫌な汗がダラダラと垂れているのを感じる。
もしかして、私はこの私がシルヴィー・トゥーロンの前世の魂だと思っていたけど・・・もしかしての、もしかして?

「そうよ。シルヴィーちゃんはまだ体も成長しきってないし魔力だって不足なのに異世界旅行をして・・・戻ってきたのよ?」

「!!」

じゃあ、じゃあ・・・私ってなの?

ランベールさんが動揺している私の体をよっこいしょと持ち上げて、自分の膝に座らせる。
ひぃー!アラサー女子になんつーことを!い、居たたまれないっス。

「君はね、アメリがいなくなったあとの酷い状況から逃げるために無意識にハイエルフの能力を使って異世界に行き、ここにまた戻ってきたんだよ」

つまり、あの使用人たちのネグレクトに耐え切れずに現実逃避どころか異世界逃避をかまして、いよいよ自分の命が危ないから緊急避難として飛ばした魂が戻ってきたのか?
でも・・・私、30年近く異世界で生きていたのに、この子はまだ8歳で、異世界に行っていた時間は一年間から二年間ぐらいなんですけど・・・、時間が合わないよ?

「そりゃ、時空も歪めて魂を飛ばすもの、多少の誤差はあるわよ」

ランベールさんの膝抱っこされている私の頭を優しく撫でてアメリさんはキャラキャラ笑う。
アメリさんも異世界で200年過ごして戻ってきたら、こちらでは100年も経ってなく、ガッカリしたことがあるそうだ。

「じゃあ・・・私はもともと・・・シルヴィーだったの?」

「そうよ。本当は自我がしっかりしてから異世界に行くから意識が混濁することはないんだけど・・・私のせいね。ちゃんと守ってあげられなかったから・・・」

アメリさんは、目の前で愛しのランベールさんを殺されて、せっかく魂が霧散してしまい自我が異次元に閉じ込められてしまった。
ハイエルフとしての能力の故に、生命力を維持するギリギリの魂の残滓があり死ぬこもなく、そのままトゥーロン王国へと連れていかれ、何もわからないままに私を産み、そして呪いで弱まり亡くなった。
ずっと、アメリさんはこの真っ白い空間で彷徨っていたそうだ。
ランベールさんの魂を探して・・・。

「でも、会えたんでしょ?」

ここに二人揃ってラブラブしているんだから。

「ええ。でも何かが足りないと思って、ずっと探していたの。本当なら死者の国へ渡らなければいけなかったのに・・・」

ランベールさんの大きな手がアメリさんの背中へと伸ばされる。

「たぶん。僕たちの子供を探していたんだよ。君をね。だけど、シルヴィーはまだ生きているから、僕たちは死者の国で君が来るのを待つことにするよ」

だけど、あんまり早く死者の国に来てはダメだよ!と強く言われた。

「シルヴィーちゃんが自分の状態をわかっていないようだっから教えてあげたくて、無理してここに呼んだのよ」

つまり・・・私は私で、ちょっと異世界に行っている間に自我を育ててしまったが、立派にこの剣と魔法の世界の住人だったってことね・・・。
・・・って理解できるかーい!

「・・・おいおい、馴れていきます」

とりあえず、死んでなかったし。
またアルベールたちに会えるし。
まだまだトゥーロン王国の問題も残っているし・・・。

しかし、ちゃんと異世界から戻ってこれて良かったなぁ、私ってば。
ハイエルフでも異世界旅行に消費する魔力は膨大な量が必要らしくて、私の場合は不足分を生命力で補ったらしい。
なんで、私っていつもいつも死線を彷徨うような生き方なのよ!まだ8歳なのに!
まあ、命根性が汚いから、危ないときに意識を戻すことができたんでしょうけど。

「それは違うよ。シルヴィーがこちらに戻ってきたのは、自分のためじゃないよ」

ランベールさんの言葉に私はきょとん?

「そうよ。シルヴィーちゃんなら、あのまま10年ぐらいは死ななかったわよ?」

やめてください。
あんなネグレクト状態で10年もいたくないわ!
でも、じゃあなんで私はこちらに戻ってきたの?

「それは、兄さんのためだよ」

ランベールさんが、ギュッと私を抱きしめた。
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