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悪を倒しましょう

戻ってきました

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アルベールのために、私は逃げ込んだ異世界からここに戻ってきた。

「んん?」

私が眉間にシワを寄せて疑問に唸っていると、ランベールさんは優しく微笑んで教えてくれた。

アルベールはアメリさんが亡くなったあとも、弟の忘れ形見である私のためにトゥーロン王国に留まっていた。
少しずつアメリさんを害した呪いにその身を侵されても。
たぶん、アルベールは自分の身に起きている異変に気づいていたと思うと。

「兄さんは、昔から僕のこととなるとちょっとタガが外れるから。そのときも少し生きる気力みたいなものが削がれてしまったんだろうね」

悲しそうに笑って話すランベールさん。
でも、私はアルベールの死を拒否した。
だから、彼を呪いから助けるために異世界から戻ってきたのだ。
いや、私にその意識はないけど。

だって、こっちに戻ってきてもアルベールの存在に気づくまで少し時間がかかったしね。

「シルヴィーには感謝だよ。兄さんを助けてくれたし、生きる理由を与えてくれたし」

再びギュッと抱きしめられるし、アメリさんまでギュッとしてきた。

「・・・それに、こうして生きていてくれるしね」

「・・・そうよ。私たちの愛しい子」

・・・なんか、すんません。
そんな想いを託してくれているのに、私がこんなんですみません。
しばらく親子三人で団子のように抱きしめあい、ゆっくりと体を離す。

「さあ、話は終わりだ。シルヴィーを返してあげないとね」

「・・・シルヴィーちゃんとようやく会えたのに・・・」

シュンと肩を落とすアメリさんが、激可愛い。
ランベールさんが私の後ろを指差すと、かなり遠くの方向にチカチカと光る灯りが見える。

「あそこまで歩いて行ってごらん。意識が戻るはずだよ。兄さんもシルヴィーの仲間も、みんなが待っているよ」

「私たちは、死者の国で待っているわ。ずっと見守っているから」

そう言ってアメリさんがチラッと自分の後ろを見る。
いつのまにか、二人の後ろには白い、真っ白い階段があって、その階段のずっとずっと上に扉があった。

「暫しのお別れだね。シルヴィー、愛しているよ」

「シルヴィーちゃん、愛してるわ」

二人にそれぞれ手を握られて、そっと離される。

「あ、あの・・・」

えっと、えっと・・・なんていうか・・・その・・・。
私が言いあぐねて、もじもじとするのをじっと待っていてくれる二人。
私は顔を俯けて、全身を真っ赤に染めながら、頑張って声に出す。

「わ、私を産んでくれてありがとう。えっと・・・」

お別れだけど、お別れじゃない。
顔を上げられない私の首にシャランとペンダントがかけられた。
壊れた水晶のペンダントではなく、別のペンダント。
驚いて顔を上げた私に、アメリさんがニッコリと笑っている。

「私のペンダントよ。本当はミュールズ国で準備してダンジョンに潜ってランベールの守りの水晶を妖精からもらうつもりだったのよ」

「もう、僕たちには用がないからね。シルヴィーが持っていなさい」

私は新しく首にかけられたペンダントを手にとって見る。
ほんのりと金色に輝く水晶。
そこから感じる魔力。

「私とランベールの魔力も込めたわ。フフフ、これでずっと一緒よ、シルヴィーちゃん」

ギュッと水晶を握りしめる。

「あ、ありがとう。・・・ママ、パパ」

カァーッと血が全身をかけ巡る気がする。
は、恥ずかしいーっ!
顔を真っ赤にして硬直している私の前で、二人は驚きで目を大きく見開いたあと、一つ二つと涙を零した。

「ええ、私がママよ」

「そうだね。そして僕がパパだ。絶対に絶対に、兄さんのことをパパって呼んじゃダメだよ」

ランベール・・・じゃないや、パパの必死の説得にウンウンと頷いて、私はニッコリ笑ってみせた。

「じゃあ・・・行ってきます!」

お別れじゃないから、さよならじゃないもんね。
私はペコリと頭を下げたあと、クルリと後ろを向いて走り出す。
最初はゆっくりと小走りに、本気で走る前に二人へ振り向いて大きく手を振る。
二人は寄り添いながら、手を振り返してくれた。

もう、私は振り返らない。
たぶん、ママとパパは私があの灯りへ辿り着くまで見守っていてくれるのだろう。
だから、振り向かない。

一生懸命に生きて、生きて、生き抜いたあと、また会える。
それまでは・・・胸のペンダントを見て二人を思い出すことにするわ!









意識が浮上するときって、なんかくすぐったい気持ちなのね。
ゆっくりと瞼を開けるけど、外はまだ暗いのかうすぼんやりとしか見えないわ。

「・・・ヴィー?」

誰?アルベール?

「ヴィーさん!」

ああ・・・この煩い声はセヴランかしら?
右手をゆっさゆっさと揺するのは、リオネルね。
胸の上に感じる頭の重さはルネかしら?
あれ?
リュシアンは、どうしたの?
まさか、私が身を挺して庇ってやったのに、死んじゃったんじゃないでしょうね!
そんなの、許さないんだから!
グワッと目を見開くと、ワッと周りが騒ぎ出したのがわかった。

「だ・・・大丈夫か?嬢ちゃん」

ダダダッとこちらに走り寄ってきたのは、クリストフさん。

「はい。ええっと・・・大丈夫みたいです」

アルベールは私の体を抱きかかえていて、やっぱりルネが私の胸で泣いていて、リオネルが口を尖らせて私の右手を揺すっていた。
少し離れたところで様子をみていたセヴランはホッとしたように微笑んで・・・なんか妙に機嫌が良さげに見えるんだけど?

そして・・・リュシアンは・・・。

「なんつー顔をしているのよ、あんたは」

顔を涙と鼻水でくじゅぐしゅにした、ダメな大人がすぐ側で座り込んでいた。
目を覚ました私を、ビックリしたような顔で見つめて、耳と尻尾をピーンと立たせて。
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