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幸せになりましょう

それぞれの戦況は~王城右翼最上階~

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「では、俺たちはここで」

恩人ともいえる小さな少女、王女と聞いて驚いたが不思議と自分の気持ちは変わらず、感謝の気持ちを抱えたまま城内を同行し、三階に上がったとろこで別れがきた。

「ここまでありがとう。ジャコブさんたちも気をつけてね」

ニッコリと、初めて会ったときには長い前髪で見えなかったかわいい顔で笑い、そっと俺の手にいくつかポーションを渡してくれる。
こんな腐った国の役人ごときに遅れを取る獣人はいないが、彼女のその優しい気持ちが嬉しい。
深々と頭を下げて少女たちを見送ったあと、気を引き締めて文官たちが軟禁されている最上階を目指し階段を駆け上っていく。

「やはりな」

軟禁されいる部屋の扉は外からバリケードで塞がれていたが、本来いるはずの兵は一人もいなかった。
俺は、部下たちに命じてバリケードをどかし、慎重に扉を開けた。
中にいた人族たちは扉が開いたことに嬉々とした表情を浮かべたあと、我ら武装した亜人の姿を見て落胆した。
かなり広い部屋みたいだか、文官たちは百人程度いて息が詰まるほどの圧迫感がある。

「一人ずつ名前を確認したあと、手を拘束していけ」

用意した拘束具は、魔法を行使できないようにする仕様付きの物だし、嘘を見分ける魔道具も持たしているので偽名は使えない。
こちらには、仲間が手に入れた文官や主要人物のリストがある。

「宰相を始めリストにあるここまでの人族はこちらにまとめておけ。他はこの部屋でそのまま待機だ」

宰相たちは、すべてが終わったあと罪を暴く裁判にかけられる。
その他の文官はとりあえず戦意がなければ解放となるが、その間はこちらで待機していてもらう。
食事と水、必要なら治療も施すことになっている。
部下たちはテキパキと俺の命令に従い動いていく。
そこには、差別され不当に扱われた私怨などないようにも見える。
だが、俺たちは忘れない・・・尊厳を踏みにじられ仲間が舐めた苦渋を。

「ジャコブ。アデルさんの姿がここ何日か見ていないがどうした?予定ではこの部隊に配属されるはずだったろう?」

冒険者ギルドに保護されていた猫獣人のヤンが何人かの人族を拘束しながら話かけてきた。

「う・・・うむ。アデルさんは急遽、王都の教会の警護に回った。そのぅ、聖女を守ると言ってきかなくてな」

アデルさんとは、最近亜人奴隷解放軍に加わった若い男で、実は隣国ミュールズ国の第2王子だという。
婚約者のリリアーヌ殿下の死が信じられず、真偽を確かめるために極秘で入国し、イザックに誘われて仲間になった。
元々、ヴィクトル殿下とも友人ということで忌避感はなかったし、サッパリとした男気ある気持ちのいい青年だったのだが・・・教会に行ってからおかしくなってしまった。
急に現れた癒しの魔法を操り聖女と呼ばれる少女に夢中になったのだ。
これにはロドリスさんもイザックも頭を抱えた。
リリアーヌ殿下に対する想いに嘘はなかったと思うが、変わり身が早すぎる。
ヴィクトル殿下に何と言って報告すればいいのか、と。
とうとう、誰の言葉にも耳を貸さず勝手に教会に通っては騎士のごとく聖女の護衛を始めてしまった。
仲間の中に「人族は信用できない」という風潮が出ないように、この大事なときにロドリスさんはかなり骨を折ったらしい。
俺の言葉に猫獣人のヤンも周りで聞き耳を立てていた他の部下も、しらーっとした顔をするのがいたたまれない。

「コホン!それよりここにクシーはいるか?爵位は子爵だ!」

俺の声にビクビクと手を挙げたのは、小太りで金髪の髪が頭にちょこんと生えた男だった。
この男にシルヴィー殿下の話をした途端、号泣し始めた。
しかもこの男だけでなく、他の文官たちと宰相までもがだ。
その後、この亜人奴隷解放軍を率いているのはリシュリュー辺境伯家とヴィクトル殿下だと言えば、さらに身を捩って号泣しだした。
なにこれ、怖い。

後で知ったことだが、宰相を始め文官の半数以上は王族好きの集まりだったらしい。

「王家を裏切らないように何代にも渡って刷り込まれたものだけど」

教えてくれたシルヴィー殿下のやるせない顔が忘れられない。









ジャコブさんたちと別れて右翼棟の長い廊下を歩く。
歩くことになったので、私も抱っこから降ろされてテクテクと歩く。
後ろから「ゼーハーゼーハー」と苦しそうな呼吸が聞こえる。
階段を駆け上ってきたせいで、息があがったセヴランだ。

「扉が見えてきた。あの扉を通れば謁見の間も近いぞ」

リュシアンが指で示した扉は無骨な木の両開きの大きな扉だった。
両脇に立っているはずの騎士も衛兵もおらず、なんとも不用心なことだわ。
それでもアルベールは念のためと扉と扉向こうに罠がないか魔法で調べて、リュシアンを先頭にして扉をゆっくりと開く。

「大丈夫そうだな」

そうね。
まさか、向こう側にも騎士も衛兵もいないとは思わなかったわ。
だって、こちら側にいるんでしょ?ユベールとエロイーズ、ザンマルタンたちが。

「少し急ぎましょう。ヴィクトル殿下たちは既に謁見の間に着いているでしょう」
セヴランだけが不満の声を上げたが、私たちは無視して小走りで廊下を走る。
走りながらもキョロキョロと周りを見回して、憂鬱な気分になった。

「どうした?お嬢」

「嫌になるのよ。飾ってあっただろう美術品とかが根こそぎ盗られているわ。たぶん逃げ出した使用人たちの仕業でしょうけど」

リュシアンとアルベールが何も飾られていない壁や花瓶の置かれていない花台を見て、「ああ」と呆れた息を吐く。
別に美術品が惜しい訳じゃないのよ?
これから、各国や亜人の族長に対して賠償問題が出てきたときの足しにしようと考えていたのだ。
願わくは、リシュリュー辺境伯軍が国境を閉鎖していて、逃げ出した使用人たちを捕まえていてくれますように。
そんな俗なことを考えていたら、いつのまにか謁見の間の扉付近まで辿り着いたらしい。

「なんでしょう?殿下たちが部屋に入らずに固まっていますね?」

セヴランが疑問を投げかけたとき、謁見の間の開かれた扉からビュルルルと不穏な音ともに小さな火の玉がいくつか飛んできて壁に激突する音がドドーンと耳に届いた。

「へ?」

火の玉がぶつかった壁はジュワワワと融けてもうもうと煙が立ち昇る。
そこへ、今度は謁見の間からジャバババと水が放流され、燃えだした壁の火を鎮火する。

なにが・・・起きているの?
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