206 / 226
幸せになりましょう
欲望が潰えるとき
しおりを挟む
ドスドスと王宮の廊下を早足で歩く。
窓から見えた賊軍の旗印が脳裏に焼き付いて離れない。
赤地に金糸銀糸の刺繍の旗。
忌々しいリシュリュー辺境伯の旗とともに掲げられたその旗の意味するところは、王太子の旗だ。
だが、まだトゥーロン王国に正式な王太子は存在しない。
「そうだ。あのとき、ユベールが始末したはずだ」
ドスドスと歩きながらも不安に駆られた俺は、ガジガジと親指の爪を噛む。
死んだはずなのだ、あの日、立太子するはずだった目障りな第一王子のヴィクトルは!
でも、生きているかもしれない。
リシュリュー辺境伯を後ろ盾に、ザンマルタン家に、俺に復讐に来たのかもしれない。
そう思った俺は、逃げることを優先しあちこちから金目の物を搔き集めるのを諦め、自室に隠している金だけを取りに行こうとしている。
娘?孫?そんなものは邪魔だ。
とにかく、金を持ち護衛に付いているザンマルタン家の騎士を連れて帝国へと逃げなければ、俺は殺される。
何故だ!
もうすぐ、王の外祖父として権勢を欲しいままにできたのに!
ヴィクトルに捕まれば、ミュールズ国と共謀して行った悪事がバレているザンマルタン家は終わりだ。
ユベールとエロイーズも処刑されるだろう。
俺だけでも、今のうちに逃げなければ。
ドスドスと歩く音をかき消すような喧噪が城の外から聞こえてきて、俺は足を止める。
「始まったか」
とうとう、賊軍が王城内に入り暴れ出したのだ。
「行くぞ!」
王宮、左翼側に設けられた王族のプライベートスペースの中に俺の私室もある。
娘を王家に嫁がせた高位貴族の中で、俺だけが自室を王宮に与えられていた。
それも、俺の後ろにはミュールズ国の力があったからだ。
「くそっ」
まさか、あの大国が内部から崩れるとは思わなかった。
あんなにも狡猾な王たちが、自分の息子に嵌められ破滅するとは思わなかった。
くそっ、くそっ、と呟きながら歩く俺の肩を騎士の一人が掴んで歩みを止めさせた。
「侯爵様。お待ちを」
グイッと俺の体を騎士の体で隠すように下がらせて、廊下の曲がり角から覗く騎士。
「どうした?」
「おかしいです。侯爵様の部屋の前に城の兵がいます」
「何を言っている?」
俺の部屋に護衛がいるのはおかしいことじゃない。
しかし、いつもはザンマルタン家の騎士が守っているのに、今は城の兵がいるだと?
「ま・・・まさか、もう?」
いくらリシュリュー辺境伯軍だといっても、元亜人奴隷たちも混ざった烏合の衆だと侮っていた。
辺境伯軍の頭は脳筋のリシュリュー家の者だが、忘れてはならない者がいた。
前辺境伯夫人のオルタンスとブルエンヌ地方を任されているレイモンだ。
知略で知られるあの二人が策を講じていたとしたら?
「城の兵の中に・・・仲間を紛れ込ませていたのか・・・」
では既に、城中にリシュリュー辺境伯の手の者たちが入り込んでいるのか?
ガクガクと体が震えだしてきた。
「と、とにかく、逃げるぞ!」
俺は踵を返し、廊下を早足で、いや小走りで進む。
第三妃である娘の部屋に逃げてもダメだろうし、ユベールとエロイーズと共に居ても最悪の事態しか想像できない。
「そうだ、あの部屋には王族が使う隠し通路があったはず・・・」
王の家族が集うサロンの壁に、たしか隠し通路の扉があり、それを使えば城の外に出るはずだ。
俺は外から聞こえる叫び声を遮るように、手で耳を塞ぎながら廊下をただ進
む。
目的のサロンまで誰にも会わずに辿り着くことができた。
途中、娘の部屋から悲鳴と怒声が聞こえたが無視をして進んだ。
二階の謁見の間に続く廊下は見ないふりをした。
俺に何か問いた気な騎士たちの視線も気づかないふりをした。
そしてサロンの壁に手を当てて隠し扉を探す。
汗がダラダラと額から垂れてきて顎を伝う。
死への恐怖で手がブルブルと震える。
ペタペタと壁を触ってようやく扉らしき窪みを見つけて、目を輝かして押し込んでみる。
「うううーっ、ううーっ!」
固い、重い、動かない!
「おいっ!お前ら、ここを押せ!扉を開けろ!」
俺と入れ替わり屈強な騎士二人が壁を押していくが、壁紙が歪むだけでちっとも動きはしない。
「な、なぜだ!」
焦ってウロウロとその場を歩き回るが、隠し通路が俺の前に開かれることはなかった。
ガチャンと金属の鎧の音がした・・・。
振り向く俺の目に映る・・・死神の姿。
「ここにいたかザンマルタンよ。もう終わりじゃ。モルガン・リシュリューがお前たちを迎えにきたぞ」
ああ・・・どうしてこうなったのだ。
目の前に確かに輝かしい未来があったのに・・・。
どうして・・・こうなったのだ・・・。
窓から見えた賊軍の旗印が脳裏に焼き付いて離れない。
赤地に金糸銀糸の刺繍の旗。
忌々しいリシュリュー辺境伯の旗とともに掲げられたその旗の意味するところは、王太子の旗だ。
だが、まだトゥーロン王国に正式な王太子は存在しない。
「そうだ。あのとき、ユベールが始末したはずだ」
ドスドスと歩きながらも不安に駆られた俺は、ガジガジと親指の爪を噛む。
死んだはずなのだ、あの日、立太子するはずだった目障りな第一王子のヴィクトルは!
でも、生きているかもしれない。
リシュリュー辺境伯を後ろ盾に、ザンマルタン家に、俺に復讐に来たのかもしれない。
そう思った俺は、逃げることを優先しあちこちから金目の物を搔き集めるのを諦め、自室に隠している金だけを取りに行こうとしている。
娘?孫?そんなものは邪魔だ。
とにかく、金を持ち護衛に付いているザンマルタン家の騎士を連れて帝国へと逃げなければ、俺は殺される。
何故だ!
もうすぐ、王の外祖父として権勢を欲しいままにできたのに!
ヴィクトルに捕まれば、ミュールズ国と共謀して行った悪事がバレているザンマルタン家は終わりだ。
ユベールとエロイーズも処刑されるだろう。
俺だけでも、今のうちに逃げなければ。
ドスドスと歩く音をかき消すような喧噪が城の外から聞こえてきて、俺は足を止める。
「始まったか」
とうとう、賊軍が王城内に入り暴れ出したのだ。
「行くぞ!」
王宮、左翼側に設けられた王族のプライベートスペースの中に俺の私室もある。
娘を王家に嫁がせた高位貴族の中で、俺だけが自室を王宮に与えられていた。
それも、俺の後ろにはミュールズ国の力があったからだ。
「くそっ」
まさか、あの大国が内部から崩れるとは思わなかった。
あんなにも狡猾な王たちが、自分の息子に嵌められ破滅するとは思わなかった。
くそっ、くそっ、と呟きながら歩く俺の肩を騎士の一人が掴んで歩みを止めさせた。
「侯爵様。お待ちを」
グイッと俺の体を騎士の体で隠すように下がらせて、廊下の曲がり角から覗く騎士。
「どうした?」
「おかしいです。侯爵様の部屋の前に城の兵がいます」
「何を言っている?」
俺の部屋に護衛がいるのはおかしいことじゃない。
しかし、いつもはザンマルタン家の騎士が守っているのに、今は城の兵がいるだと?
「ま・・・まさか、もう?」
いくらリシュリュー辺境伯軍だといっても、元亜人奴隷たちも混ざった烏合の衆だと侮っていた。
辺境伯軍の頭は脳筋のリシュリュー家の者だが、忘れてはならない者がいた。
前辺境伯夫人のオルタンスとブルエンヌ地方を任されているレイモンだ。
知略で知られるあの二人が策を講じていたとしたら?
「城の兵の中に・・・仲間を紛れ込ませていたのか・・・」
では既に、城中にリシュリュー辺境伯の手の者たちが入り込んでいるのか?
ガクガクと体が震えだしてきた。
「と、とにかく、逃げるぞ!」
俺は踵を返し、廊下を早足で、いや小走りで進む。
第三妃である娘の部屋に逃げてもダメだろうし、ユベールとエロイーズと共に居ても最悪の事態しか想像できない。
「そうだ、あの部屋には王族が使う隠し通路があったはず・・・」
王の家族が集うサロンの壁に、たしか隠し通路の扉があり、それを使えば城の外に出るはずだ。
俺は外から聞こえる叫び声を遮るように、手で耳を塞ぎながら廊下をただ進
む。
目的のサロンまで誰にも会わずに辿り着くことができた。
途中、娘の部屋から悲鳴と怒声が聞こえたが無視をして進んだ。
二階の謁見の間に続く廊下は見ないふりをした。
俺に何か問いた気な騎士たちの視線も気づかないふりをした。
そしてサロンの壁に手を当てて隠し扉を探す。
汗がダラダラと額から垂れてきて顎を伝う。
死への恐怖で手がブルブルと震える。
ペタペタと壁を触ってようやく扉らしき窪みを見つけて、目を輝かして押し込んでみる。
「うううーっ、ううーっ!」
固い、重い、動かない!
「おいっ!お前ら、ここを押せ!扉を開けろ!」
俺と入れ替わり屈強な騎士二人が壁を押していくが、壁紙が歪むだけでちっとも動きはしない。
「な、なぜだ!」
焦ってウロウロとその場を歩き回るが、隠し通路が俺の前に開かれることはなかった。
ガチャンと金属の鎧の音がした・・・。
振り向く俺の目に映る・・・死神の姿。
「ここにいたかザンマルタンよ。もう終わりじゃ。モルガン・リシュリューがお前たちを迎えにきたぞ」
ああ・・・どうしてこうなったのだ。
目の前に確かに輝かしい未来があったのに・・・。
どうして・・・こうなったのだ・・・。
281
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。